見出し画像

未だ根深い『優生思想』

米国での中絶論争をきっかけに、人工妊娠中絶について考え、その根拠となる国内の母体保護法について、拙著noteで紹介しました。1996年に制定されたその法律は、『旧優生保護法』(施行1948~1996年)が改正されたものです。
https://note.com/s_kohyama/n/n817fb5f56676

5月6日には「旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強いられた問題で、手術を行ったとする1人分の記録が新たに見つかった」ことが、共同通信等により報じられました。

旧優生保護法の第一条には、「この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする」と記されています。私自身はハンセン病を通して具体的に知りましたが、最近まで『優生思想』に基づく『産み分け』を認める法律が、日本国憲法下で存在していたことは、驚きでもありました。旧優生保護法以前に制定されていた『旧国民優生法』(施行1941~1948年)では「遺伝性疾患の素質を有するもの」を対象とし、戦後の旧優生保護法では「『不良』な子孫の出生を防止する」という言葉を用い、「非遺伝性疾患」を加えて対象を拡大し、新たにハンセン病患者、配偶者の断種・堕胎も加えられたのです。

旧優生保護法で不妊手術や中絶を余儀なくされた被害者の救済法が施行されたのが2019年。一人あたり一時金320万円の支給が定められました。国の統計では2万5千人もの人が不妊手術を受けたとされていますが、記録が確認できたのが約3000人。そのうち一時金支給が認められたのは3月末時点で990人と低迷しています。今回新たに見つかった記録は、その救済法に基づく調査によって明らかになったものです。さらに一時金を巡り、大阪と東京の高等裁判所で一人当たり最大1500万円の賠償を国に命じたことを受け、政府による見直しも表明されています。

優生保護法、優生思想などと聞くと、あの忌まわしい『津久井やまゆり園事件』を思い出します。衝撃的でありながらも、優生思想の根深さを実感することとなり、現在もあまり変わっていないのではという危惧を覚えざるを得ません。

最近では医療の進歩により、出生前診断から着床前診断も可能な時代になり、100%ではないにしても、早い段階で障害の有無等が判別できるようになりました。命をどの段階から捉えるのか、とても難しいテーマではありますが、命を安易に選別し、差別や偏見をも助長する結果となった過去の教訓から、私たちは学ばなければなりません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?