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試される『聴く力』

政府は原発7基の再稼働だけでなく、次世代の原子炉の開発や建設を検討することを『GX=グリーントランスフォーメーション実行会議』で明らかにしました。電力不足に対する不安や電気料金の上昇もあり、原発再稼働に関する最近のアンケート調査では、賛成が反対を上回る結果も出ているとはいえ、岸田首相がその重要な方針転換をいとも簡単に打ち出したのには驚きました。

東日本大震災による東京電力福島第一原発事故から11年、あの時の恐怖は今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。その後、与野党問わず『将来的に』も含めれば多くの国会議員は『原発ゼロ』を口にしていました。また、つい最近まで原発の新増設については「想定していない」と言及していただけに、あまりにも軽過ぎる表明と受け止めざるを得ません。

岸田首相が誕生した際の自民党総裁選などでは、自らの長所に『聴く力』を挙げていたのを思い出します。私が接してきたいろんな政治家の中でも、持論を長々と話すことを苦にしない人は多いのですが、相手の主張を黙って最後まで聴く、あるいは相手が発言しやすいような雰囲気をつくる、そんなことが巧みな政治家にはあまりお目にかかったことはありません。政治家としての経験が長くなればなるほど、その傾向は強まるとも感じています。

首相が『聴く力』を挙げたことに、私は新鮮な感覚を覚えましたし、期待された国民も少なくないのではないかと思います。ただ首相ともなれば、当然ながら誰もが簡単に会うことはできません。直接面談できる機会の確保は、国会議員でも容易ではないでしょうし、国民と対話する機会が設けられたとしても、それは事前に打ち合わせ済みの内容で、「シナリオなしの出たとこ勝負」のような場面はなかなか考えられません。首相お得意の『聴く力』は、取り巻く官僚や政治家、経済人に大いに発揮されることとなり、多くの国民の期待とはかけ離れていく怖れがあります。

『聴く力』は『誰から』『どんな形で』次第です。
とはいえ政治家にとって『聴く力』は大事な資質です。聴いた上で、どこかの時点で判断しなければなりません。さらには判断したことに対する説明責任も当然ながら伴います。首相の『聴く力』はこれからも試され続けるのだと思っています。

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