ストラングル・成田

ストラングル・成田

最近の記事

『日曜日はいつも雨』

 1947年マイケル・バルコン率いるイーリング・スタジオ製のブリティッシュ・ノワール。監督は、犯罪喜劇の傑作『カインド・ハート』のロバート・ハーメル。ノワールといっても、同時期の米国作品とは一味も二味も違っている。主演女優は、グーギー・ウィザース(『バルカン超特急』『街の野獣』)  ダートムーアの刑務所を脱獄した元強盗犯が、ロンドンの下町に住む昔の女(ウィザース)の家を訪れ、匿ってもらおうとする。女は、今は15歳年上の夫(エドワード・チャップマン)と結婚し、継子の娘二人、男の

    • 橘外男『人を呼ぶ湖』

       『日本怪談集 蒲団』に続く、中公文庫の橘外男オリジナル編集は、小栗虫太郎らの衣鉢を継ぐような異国を舞台にした奇譚8編。二十世紀中葉、世界各地で起こった異妖なる事件の数々を実話風に描いた怪奇幻想セレクション。解説は、倉野憲比古氏。 「令嬢エミーラの日記」  舞台は西アフリカ。白人の若き美女が遺した日記には凄惨な事件が記録されていた。ゴリラ言語は作者のこだわりの一つらしい。ゴリラの言語学を研究する博士は、ゴリラの喜悦の言語を録音するため娘にゴリラの前で上衣を脱いで踊れと命ずる

      • ジョルジュ・シムノン『サン=フォリアン教会の首吊り男』

         『メグレと若い女の死』に続くメグレ警視シリーズ新訳第二弾。  刊行は、1931年。メグレシリーズのごく初期の作。  小説は、ドイツとオランダの国境地帯の駅で幕を開ける。メグレは、駅の待合室で追跡中の男の抱える鞄をすり替え、尾行を続ける。すり替えを知った男は、ドイツはブレーメンのホテルの一室で拳銃自殺を遂げるが、男の鞄に入っていたのは着古された洋服だけだった-  メグレがその失業者風の男を最初にみかけたのは、ベルギーの首都ブリュッセル。男は、3万ベルギーフランを小包みにし

        • 翻訳編吟11

          『翻訳編吟』は、海外短編の翻訳同人誌。筆者は、ごく最近「10」からの読者だが、そのセレクトは、幅が広く、ミステリ、SF、ホラー等も採られているから、ジャンル読者も見逃せないし、翻訳も読みやすい。こういう忘れられている短編のアンソロジーが続いていくことは嬉しいことだ。字組もゆったり、紙質もよく、ページをめくると豊かな気持ちになる。  『翻訳編吟11『は、2022年11月刊。発行所は翻訳ペンギン。9編の翻訳を収録。チャールズ・ディケンズからウィラ・キャザーと選択も幅広いが、ミステ

        『日曜日はいつも雨』

          鉄人蔵書の譲受け

          この度、kashiba@猟奇の鉄人様から、35冊ものミステリ原書をただみたいな価格で譲り受けた。いずれも、入手が容易ではないレアな単行本。リストをいただき、ほぼ当たらないだろうと思い、図々しくも40冊に希望を出してら、ほとんど当たってしまった。(サイ君に「kashibaさんは整理に入っているのに」と言われたのは内緒) かくなる上は、無駄にしないように善処したい。 鉄人様とともに、整理・抽選・発送等の労をとってくださった三門優祐氏にも大感謝。 好事家のために、譲り受けた本のリス

          松坂健『健さんのミステリアス・イベント体験記』

          一昨年、惜しくも鬼籍に入られた「ミステリ・コンシェルジュ」松坂健氏によるミステリ関連のイベント体験記。元は、日本推理作家協会会報に連載されたものだ。  ミステリ関連書も数あれど、イベントに特化した書となると、例を見ないのではないか。舞台、講演会、読書会、講座、文学展、展覧会、記念大会といった常識的なものから、ホテル・イベント、シネオケ、ミュージカル、ミステリホテル宿泊体験記、果ては翻訳家の活躍からリトルプレスの動向までを実体験。  体験したイベントの多豊富さ多様さに加

          松坂健『健さんのミステリアス・イベント体験記』

          パトリック・クエンティン(Q・パトリック)の未訳中短編

           Re-ClaM Vol.10でパトリック・クエンティン (ディック・キャリンガム名義)の短編1編、Re-ClaM eX Vol.4 でQ・パトリック名義の中短編3編が初紹介された。いずれも、翻訳は、三門優祐氏。以下は、その感想。 「怯える殺人者」 Re-ClaM Vol.10  制御不能の殺人衝動に駆られる連続殺人者を描く。  まるでジム・トンプスン的素材だが、幼少時のトラウマまで遡って連続殺人に至る心理を解剖する試みは、時代的にもかなり進んだものだろう。主人公ジョン・

          パトリック・クエンティン(Q・パトリック)の未訳中短編