『日曜日はいつも雨』

 1947年マイケル・バルコン率いるイーリング・スタジオ製のブリティッシュ・ノワール。監督は、犯罪喜劇の傑作『カインド・ハート』のロバート・ハーメル。ノワールといっても、同時期の米国作品とは一味も二味も違っている。主演女優は、グーギー・ウィザース(『バルカン超特急』『街の野獣』)
 ダートムーアの刑務所を脱獄した元強盗犯が、ロンドンの下町に住む昔の女(ウィザース)の家を訪れ、匿ってもらおうとする。女は、今は15歳年上の夫(エドワード・チャップマン)と結婚し、継子の娘二人、男の子一人と暮らしている。情にほだされた女は、最初は、物置代わりの防空壕に、続いて寝室に、男を匿う。狭い庶民の家(台所で風呂に入る描写がある)、長く匿うわけにはいかない。初めから、その日限りと限定されている再会だった。女には、かつての恋人との失われた時間を取り戻そうとして、男の腕に抱かれる。それぞれの用事で外出しているはずの家族は、不意に戻ってきたり、寝室に入ろうとするところにサスペンスが生まれる。
 というストーリーが主軸ではあるのだが、家族をはじめ様々な庶民の群像が時にはイーリング・コメディタッチで描写されており、愛と犯罪ドラマとは別の感触を伝える。
 娘の一人は、歌手を夢見ており、歌の指導をしてくれるというサックス奏者でレコード店主と男と不倫関係に向かおうとしている。もう一人には、実直な恋人がいるが、ゲームセンター経営者に新たな働き口を餌に、粉をかけられている。この二人は、継母と反発しあっている。男の子は、ハーモニカが欲しくてたまらない。他にも、盗んだローラースケート!を金に換えようとする、いささか間抜けなチンピラ三人組、不倫に気づき家を出ていこうとするサックス奏者の妻、脱獄囚を追うパイプをくわえた刑事、特ダネの欲しい新聞記者などなど。せっかくの日曜日なのに今日も雨降り。様々な事情に絡めとられて心浮かない庶民の諸相が描き出されている。
 女と脱獄囚には、決定的な別れの瞬間が訪れるが、女がいうように、すべては「遅すぎた」。脱獄囚が既に女は眼中になかったことが思い知らされるエピソードが強烈で、その後のワンカットで彼女の絶望の深さを物語る。夫の愛情の深さを示す結末がついているが、登場人物たちは心晴れない日常に回帰していくのだろう。
 終盤、脱獄囚の逃走シーンが長く描かれるが、光と影のコントラストを効果的に使った映像がみずみずしい。
 原作:アーサー・ラ・バーン




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