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投稿していただいた短歌一覧

CATS

手のひらで掬うみたいに抱き上げた猫に救われてたのは僕だ

仕事場は仕事する場所 眠るのが仕事の猫にとっては寝場所

猫の気は済んでいるのに僕の気が済まずにずっとなでて済まない

「生きるのが下手」と言われて猫の手をたくさん借りてまだ生きている

ケンタッキーフライドチキンを食べているときだけ猫が愛してくれる

写真には残せなかったあの猫の細さは僕の心細さだ

九匹の猫というより九つの命とともに暮らしています

ノラなのに人なつっこい おそらくは過去に名前で呼ばれてた猫

猫からは何も学んではいけません みな猫ゆえのことだからです

雨の日の猫を見てるとハメハメハ 「雨天休み」はたぶん正しい

入ってた袋のほうでじゃれる猫 僕の選んだおもちゃをよそに

「いるだけでいい」ってきみは猫に言う 一度でいいから言われてみたい

爪とぎは猫の仕事だ 一流は仕事の場所を選ばないのだ

ヒゲのない猫などいないはずなのに「ヒゲ」と呼ばれる顔をした猫

猫が寝て一番さまになる場所が妻のひざだと認めていない

もう割と寝てばっかりの猫なのにときどき圧倒的に命だ

リビングを裸足で歩く 猫がいたらしい場所だけ生ぬるい床

生前の猫の写真を眺めてる サイダーをまたサイダーで割る

乳を押すしぐさで眠る 母親の乳をふくんだことのない猫

里親に猫を届けて行きよりもキャリーバッグが軽くて重い

「出ないよりいいよ」と粗相した猫に(あるいは自分に)言い聞かせてる

猫がしちゃいけないことのない家でしなくていいことばかりする猫

猫はいるだけでいいからしつけない 仕方ないから叱らないこと

フルグラを咀嚼する朝 カリカリをカリカリ食べる猫の隣で

全肯定し得る猫という存在が僕に自分を肯定させる

家にいる僕はきちんと人ですか? 猫はきちんと影までも猫

窓枠が額縁となり猫のいる窓がそのまま絵画のようだ

猫の毛を気にせず黒い服を着てソファーに座れる日なんて来るな

晩年は猫とのんびり暮らしたい 今との違いはよくわからない

猫になりたいとか猫に学ぶとかないです 猫は猫 僕は僕

水入りのペットボトルが並んでて猫でもないのに足早になる

ひざに乗り寝る気に満ちた猫がいる 遅刻しそうな朝に限って

誕生日すらわからない猫なので命日くらいは見届けるのだ

ひざの猫とヱビスを流し込む僕がなかよく喉を鳴らす夏です

足元で「早く」とせがむ猫の手も借りたい猫の食事の準備

残された者になるのを前提に猫との日々を楽しんでいる

集まってくれたはいいが 猫たちよ これはフルーツグラノーラです

どちらかといえば振り回されるほう 猫にも好きになった人にも

ミルキーはママの味すら知らないで鳴いてた猫に名付けた名前

猫はいい いるだけでいい できるだけ余計なことはしなくてもいい

ニャニャーニャニャ 猫になにかをせがまれて犬のおまわりさんの気分だ

話しかけたくなる猫の横顔に話しかけても横顔のまま

寝返りを打つと文句をいう猫という名の湯たんぽと寝ています

言うことを聞かない猫が言ってないことは察して寄り添うのです

微風だが先輩風を吹かせたい これから猫を飼う人たちに

神様も筆を誤ることがある 猫の模様を見てればわかる

幸せは人差し指に訪れる 猫にスリスリされてるときに

"fish or chicken ?" と猫に聞けたなら 皿に残ったエサを見つめる

空腹だ 猫のえさしかないけれど 猫のえさならある 空腹だ

笑ったり泣いたりしない猫といて余計に笑いむやみに泣ける

どうすればかわいいのかを知っているような子猫のくせにかわいい

かわいいと書いたら負けを思うけど負けてもいいと思うのも猫

猫のよいところは常に僕よりも高く保たれている体温

もういない猫の名前で呼んじゃって謝ってから笑って泣いた

昨日までいた猫のぶん寝返りが打ててしまって眠りが浅い

幸せなことだ 暮らしに猫がいて泣いたり笑ったりすることは

幸せは前借りでありその猫を看取ってやっと返済できる

あお向けで猫が寝ている この家は悩むことには 向かない場所だ

小悪魔と悪魔が別であるように子猫と猫のかわいさは別

猫はみなあたたかいので撫でてると普通のことを言いそうになる

この家は長い道草なのですか 元野良猫が外を見ている

窓際に五匹の猫が並んでる 「るるるるる」って見えなくもない

好きなのは私が猫を思うとき猫は私を思わぬところ

里親に猫を出したり看取ったりするとき僕を筒だと思う

猫じゃらしくらえて猫がやってくる 遊んでやるという顔をして

家にいて猫の「日光欲」というひなたで満たす欲に気づいた

飼い主が猫に望んでよいことはもはや長生きだけであること

猫になりたいと思ったことがない そばで眺める人間でいい

世界からこの家に来てこの家が世界となった猫よ ようこそ

猫といて増えていくのは笑い声、キズ、綿ぼこり、あと「まあ、いいか」

背中っていうか背骨をなでている もう長くない猫をひなたで

実情はさておき窓辺に猫がいる我が家は幸せそうに見えそう

あの家の出窓に猫を見つけたらいい一日のはじまりはじまり

知っている あなたはいつか猫を飼う むろんいつかはきょうだっていい

まっさきに猫がまくらのまんなかでまんぞうくそうにまるまってます

明確に作業のじゃまを目的とする猫がいてきちんとじゃまだ

ひととおり呆れたら さあ諦めて そこからが猫との暮らしです

猫からは一番遠い概念が「やる気」 我が家は仕事に不向き

幸せな猫が増えるということは不幸な猫が減るということ

なんかヘマした日は猫に話してる 猫は毎日迷惑そうだ

お店では買えない猫と暮らしてる プライスレスにもほどがあります

新しい拷問ですか 正座した太ももに乗る猫の重さは

僕の手にもう生傷がないことで子猫が猫になったと気づく

外猫が身体じゅうになんか草の種みたいな春をくっつけてきた

僕と寝る猫は布団も体温も枕も奪い気持ちよさそう

抱きしめた猫は迷惑そうな顔をしたまま抱きしめられててくれる

もう猫はいないんだった いるときのくせでゆっくり戸を閉めながら

猫からはかゆいところに手が届く孫の手として見えてる僕だ

右に妻 左には壁 胸に猫 枕元に猫 股ぐらに猫

春らしい構図で猫が寝ています きょうは気温が上がるそうです

いい人や優しい人なわけじゃない 猫と暮らしてるからといって

桜咲くまでがんばってくれた猫を桜咲くたび思い出し泣く

猫たちよ いくつで死んでもいいよ でも老衰以外で死なないでくれ

ノラだった頃じゃできない顔で寝て 油断とスキしかない猫でいて

猫がいる家ではコーンフレークを「人間用のカリカリ」と呼ぶ

うれしさを隠しきれない猫といる 不調も隠さず教えてほしい

猫なのに猫が苦手な猫もいる 僕が誰かを苦手なように

幸せは重くて苦い ひざに寝る猫を起こさずすするコーヒー

猫といる僕は幸せそうですか 犬のいる家は裕福そうだ

寝る僕を「鼻をかじるとエサが出るピタゴラ装置」と誤解する猫

里親を探すつもりの猫の名は「1」 愛着がわかないように

猫だからモテるんだからな ひげ面で甘えん坊の中年なんて

当然のことを子猫に言う 「おまえ寝ているときは静かなのにね」

猫を飼う いいことも困っちゃうこともこんなはずではなかったことだ

僕たちが猫に名前をつけるとき祈りのように含まれるもの

はなびらの形の耳はその猫のそばのやさしい誰かのしるし

マイカーの屋根で寝ている猫がいてきょうは在宅勤務日とする

猫の毛が顔にまとわりついている 僕にはまとわりつかない猫の

少なくとも世界に一人と一匹分平和が増える 猫と暮せば

星空と猫は似ている 眺めたらなんか悩みもないものになる

雨の日は猫が静かで雨の日はいつか来る日の我が家みたいだ

おお猫よ きみかくわえて持ってきた獲物は「カツオだしパック」です

「走馬灯用」と名付けた歴代の猫の写真のフォルダを作る

CATS合計

113首

LIFE

初めての待ち合わせだから目印にその場でいちばん浮かれています

死にたいと思うのは夜 死んだっていいと思うのはよく晴れた朝

嘘とまで言わないまでも人による印象がある 「手で切れます」は

うすうすは気づいてたけど数撃って当たるのは下手じゃない人だけだ

思い出は全部甘いかほろ苦い 苦すぎるのは忘れるからだ

読んだあと懐かしくなる『ドラえもん』自体がタイムマシンってことか

言い切れることなどなくてあいづちは「わかる」じゃなくて「わかる気がする」

さくら咲く時期だけわかる この街は東京よりも九日寒い

笑っても泣いてもきょうで最後ならいずれにしてもあすは最初だ

ベストとは思わないけどこの辺で僕は自分と手を打っている

よけいではないほうのことをしたうえでよけいなことはしすぎるべきだ

なんだっていいから自信が持ちたくて毛糸洗いをアクロンでする

そのすべを持つ人の手を借りていく 僕も誰かに手を貸しながら

この街で初めての春 薬局の角のあの木は桜と気づく

アンジョンファン……アンジョンファンって誰だっけ? 井の頭線が久我山に着く

紙として生まれ一字も書かれずに緩衝材として死ぬようだ

目標は高いほどいい 高いほど見失うのも簡単でいい

うつになり二年が過ぎてうつになる以前がすべて美しすぎる

迷ったら思い出すこと 真実はだいたいつまらない側にある

「きょうは何婚式?」と聞く妻をみてもきゅもきゅと噛むいんげんの味

一年が一ヶ月が一日が早い 会議の一時間だけ遅い

生きるとは死ぬまで途中であることが希望あるいは絶望である

今年初ヒグラシの鳴く声を聞きその日暮らしの夏が始まる

生きている 昨夜殺した「あったかもしれない僕」にうなされながら

『ダ・ヴィンチ』の表紙で僕の本を持つ誰かにいつか会えますように

菜の花のおひたしを噛む 苦いのは僕には春が良薬だから

僕だって「知り合いかも」に表示され「誰?」と舌打ちされてるだろう

君が歩をゆるめ桜を見たあとで僕に追いつくための小走り

「振られた」と受け身で言うと悲しみが濁る気がして「別れた」と言う

ペンギンやダチョウと同じ仲間です 痛いの痛いの飛んでいかない

初恋はカルピスの味ではないしちっともカラダにピースでもない

絶望は身を委ねるとそんなには居心地悪くないのが地獄

「もう」なのか「まだ」なのかわからないけど思い出あたりに位置するあなた

ないわけじゃなくて相殺してるだけ 生きる希望も死ぬ絶望も

だいじょうぶ 理由はあとで考えて まずは「だいじょうぶ」って唱えて

春眠がまた暁を覚えてて僕を落胆させる毎日

青春は青く酸っぱいなんて嘘 思い出はみな黒くて苦い

僕以外妻しかいないこの家に僕の知らないルールが多い

若いってめんどくさそう 本当に僕も昔は若かったのか

「批判など何も生まない」論が生む批判ひとつも生めない未来

遠吠えやパトカーの音のする夜に僕が一番頑張れてない

湿り気を含んだ音がしないから愛ではなくて恋な気がする

間違えて吸ってしまったシャボン玉とか思い出す引越し前夜

あったかもしれないほうの人生を思わないのでいい人生だ

折れたってことは硬くて細長いものだったんだ 僕の心は

後悔をするのが下手なだけなのに前向きだって思われている

神さまは意地悪なので短いと気づいてからが長い人生

本当はいない海洋生物の名を考えて終わった きょうも

空腹に耐えられなくてパンとしてむさぼるアンキパンはしょっぱい

教室は水深1.6メートル 少し背伸びしないと苦しい

君を待つときは2度目の本を読む うわの空でも平気なように

君とした「ひみつ道具でどれが好き?」みたいな話ばかり思い出す

あれ以来乗ってなかった自転車とその荷台にも春がきました

「背に腹は代えられない」と言いながらあなたがあなたを失っていく

僕がもし「あなたのためを思って」を言ったらこれで撃ってください

「会っとけばよかった」という後悔は「会わなきゃよかった」よりもかなしい

僕たちが今進んでいる方向の未来にドラえもんはいますか

二冊目の手帳は四月始まりでなかったことにする三ヶ月

「めんどくさい」「ややめんどくさい」「みなかったことに」の箱に仕分けする僕

そう 僕は誰かの新境地が好きだ 誰かはいっそ僕だっていい

欠けたマグカップできみを思い出し忘れてたってことにも気づく

もしそれを「頭がいい」と言うならば僕の頭はよくなくていい

自転車で君を家まで送ってた どこでもドアがなくてよかった

十年に二度咲く花があるという 五年に一度ではないらしい

バラバラとこぼれた たぶんパーカーのフードにきみが入れたミルキー

愛なんてわからないけどおにぎりは誰かに作ってもらうと旨い

隠してるつもりの箱に気づかないふりをしている誕生日です

作り続けなければ いま死んだならこれを「遺作」と呼ばれてしまう

まだちゃんと黒いままです 黒歴史なんて僕には存在しない

右肩は傘をさしても濡れていく 自分の場所がよくわからない

当事者として呆然としたいので日曜日には投票に行く

届くとは遠いどこかのくす玉が僕のことばで割れる現象

Googleのない世の中で正解の出ない話で笑い合いたい

一日に「さて」と何度も口に出す さては全然やる気がないな

打たないと響かないのに打たれるとヘコんでしまう材質の俺

現実と夢以外には何もない世界だったら楽だろうけど

「死ぬわけじゃあるまいし」って生きてたらそれでいいわけでもあるまいし

プライドは傷つけられることでだけ在り処がわかるものではないの?

僕が生きづらい世界で猫は生きやすいだろうか 投票に行く

冷蔵庫を開けると目が合う明治ブルガリアヨーグルトの粉砂糖

「待ち合わせ、ここだったよな……」と不安げにきみを待つためだけの早起き

運び出すタンスの影にコンセント 今更すぎることばっかりだ

失敗のある場所にもういたくない それがよくないとも思わない

朝からの雨は上がった なぜ「元を正せば」なんて責めたのだろう

皿を割るときに壊れる皿じゃない僕のなにかに名を与えたい

「肩の荷が下りた」の中に含まれる「寂しい」という成分がある

初めての徹夜のときは世の中を自力で裏返しにした気分

LIFE合計

88首

総合計

201首

270首完売中201首も投稿いただきました。

ご購入いただいたみなさん、投稿いただいたみなさん、ありがとうございました!

すごく楽しかった!


そんなそんな。