妊娠・産後における母体の健康と骨盤

理学療法士×鍼灸師×日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの鈴木です.

今回はマタニティ,特に産後のケアについてのコラムです.
よく耳にする ‘産後の骨盤矯正’ の実際はどういった事なのでしょう.

私は以前から,医学的観点より考えると,手などで押して行う‘骨格矯正’や‘骨盤矯正’は出来ないという立場です.
妊娠期から起こる,身体の変化と産後の身体の変化を理解して,本当に必要な産後のケアを考えましょう.

妊娠で起こる妊婦の身体の変化

まずは,妊娠でどう身体が変化するのかを観ていきましょう.

血液の内容の変化による浮腫み

まず,妊娠期で多いのは体重増加です.
これの要素は,胎児自身の重さと母体を循環する血液量の増大です.

これは妊娠後期から急激に起こるものですが,血液量の増大は,起き上がったり立ち上がったりするときの貧血を予防したり,分娩時の出血に備える意味があります.
妊娠後期で身体が浮腫むのにもしっかりとした理由があるのですね。
ただ,浮腫み過ぎるとひどいので対処が出来ると少しでも楽になります.


心臓や呼吸器などへの影響

お腹の中の胎児が大きくなることや,上記の血液量の増加によって,心臓や肺などにも影響があります.
具体的には心臓の拍出量や心拍数が増え,心臓の負担も増加します.
肺は圧迫されることにより肋骨が広がり,息が吐き出しにくくなります.

消化器官などへの影響

ホルモンの影響により,胃を含めた消化管の動きが弱くなることや,胎児が大きくなるに伴い胃が圧迫され,ゲップや逆流性食道炎による胸やけが発生しやすくなります.
横向きに寝るときの方向に注意が必要ですね.

 

また,腸の動きも弱く圧迫を受けるため,腸管通過性が悪くなり,便秘傾向になります.
骨盤の位置を変えてあげるだけでも便秘が解消されやすいので試す価値はあります.
また,腎臓への影響で腰痛も発生することがあるため,注意が必要です.

 

骨格への影響

産後のケアにとってこれが一番気になるところだと思います.
まずは,背骨(脊椎)です.
胎児が大きくなり重くなると,重心のバランスをとるため,腰椎の前弯(腰が前に反る)が強くなります.
次に骨盤ですが,ホルモンの影響を受け,骨盤の関節に緩みが生じます.
仙腸関節や仙尾骨,恥骨結合という場所は伸ばされ,可動性が大きくなります.
通常は産後3~5か月で通常の状態に戻りますが,靭帯などの断裂により,腰痛が続く事があります.
このように妊娠~出産に至るまでの母体の変化は様々です.
しかし,そのほとんどは出産を境にもとに戻ります.
ここで大事なのは,骨格の変化です.
姿勢の変化で生じた関節の固さや姿勢の変化は,産後の身体に影響を及ぼします.

 手で押したりする骨盤の矯正は出来ないと言いました.
靭帯が断裂したりして緩んだ関節はとても人の手で絞めることは出来ません.
必要なことは,骨格の変化で生じた姿勢を調整する必要があります.
一般的に経産婦は,腹筋群や骨盤周囲の筋機能が低下し,腰椎や骨盤を安定して保持出来ません.
これが,産後の身体の不調につながります.
腰が反った状態が続くと,腰椎の関節にストレスが生じ,腰痛になりますし,この姿勢が続くと,神経の通り道が狭くなる‘脊柱管狭窄症’や腰椎の関節が変形して’腰椎すべり症’に進行します.

 骨盤周囲の筋が働かなければ,骨盤も緩んだままになり腰痛の原因となりますし,
尿漏れなどにもつながると言われています.

 
産後のケアで必要なのは,バイオメカニクスから身体の調子を考えて,
姿勢を調整する
骨盤を安定させる
姿勢や骨盤を保持する筋力を改善させる
姿勢を保つために固くなっている関節を柔軟にする
事が必要です.

日常の姿勢から見直してみましょう!
 

 

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