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小説もチームで書いた方がいいに決まってる。

 突然ですが、僕の卒業制作『彼にこの歌を贈る』はチームで書いた小説です。
 執筆そのものは一人で行いましたが、プロットや舞台設定に悩んでは相談を持ち掛け、月に一回ほどのペースで進捗報告をしては意見をもらう、ということを繰り返して書きました。
 何故そんなことをしていたかというと……

 そもそも僕は大学時代に劇団と文藝部に所属していて、脚本と小説をバリバリ書いていました。が、考えてみると執筆方法がまるで違っていました。
 脚本(=公演)はみんなで作るもの。劇団メンバーと相談しながらまずプロットを書き、第一稿の時点では穴だらけのものを持ち込みます。「ここはこんな感じにしたいけどまだ決まってません」「ここ悩んでいるので意見があれば大歓迎」みたいなことを平気でト書きに放り込んでました。逆に、あらかじめ決めていたことでも稽古場で覆ります。役者とスタッフの意見に大いに影響を受けながら作品は完成に向かいます。
 小説(=部誌)は個々人で作るもの。完成した原稿を持ち寄り、校正会を開いてお互いに赤を入れます。感想を頂くこともありますが、基本的に執筆も修正も一人で行います。また、校正会から修正稿の締め切りまでが短いので、ほとんど誤字脱字レベルしか直せません。編集さんの仕事は主に冊子作りの統括ですし、自分の執筆にひいひい言っていることもあるので個々の作品にはあまり口を出しません。

 ……これ、絶対に脚本の方がいいもの書けるよね?

 そんなわけで僕はある時、文藝部で有志の創作企画をやらないかと持ち掛けました。作品そのものは個々で書くけどプロット段階で意見を交換したり執筆に詰まったら相談したり、締め切りにひいひい言うのも一度やめにして納得のいくまで校正しましょう、というものです。
 それまで僕が考えていた文藝部で小説を書く利点って「自分の小説が部誌という形ですぐに活字になること」だったので、賛同者が集まるか不安でしたが――
 なんと一晩で6人も集まりました。

 丁度その頃、僕は「卒業論文書かずに卒業制作を書きます」と教授陣に啖呵を切ったところでもあったので(表象文化論≒芸術を学問するコースで、卒業制作が制度として認められているものの論文推奨だったんです)メンバーに了承を得てこの企画で卒業制作を書くことにしました。

 自分が言い出しっぺなので集会の日程調整とか面倒くさいことも引き受けたんですが、それを上回る利益享受。
 人が読んでくれると思うとちゃんとプロット書くし(←普段ほとんど書かない)、穴と注釈だらけの原稿を読んでもらえるし、自分で気付いていない穴も早めに指摘してもらえるし、悩んでる時に意見くれるのはものすごくありがたい!
 おまけに、普段僕の文章を読んでいるメンバーなので「亀山さん、このキャラ気に入ってるでしょ?」「あ、わかる?」「このままじゃ主人公食っちゃうんで入れ込み過ぎない方がいいですよ」みたいなノリで話が進みます。え、もしかしてみんなプロの編集さんなの?

 もちろん僕が他のメンバーの作品に意見を言うこともありましたが、こちらはちょっと反省。皆さんなかなか筆が進まなくて……卒業制作と有志制作では日々執筆に費やす熱量が違ってくるのは仕方なかったんですかね。
 それでも「他の人の執筆過程を覗けるのも興味深かった」「批評能力を養う上でもいい企画だった」などといいこと言ってくれて、円満に企画を終えることができました。チームで執筆って素晴らしい。


 
 この卒業制作は後に文芸社の無料出版キャンペーンに応募し、無料枠は勝ち取れなかったものの自費出版することになりました。

 改めましてタイトルは『勇者と魔法と歌声と』

(初期タイトルは卒論・卒制の中間発表の前に担当教官から「仮でいいから」とメールで催促されて5分で考えたものです。しかもその5分が教育実習先の学校の休み時間という極限状態。以降、在学中は全くいいタイトルが思いつきませんでした)

 文芸社は自費出版でも担当を付けてくれるので、相談しながら大幅に加筆修正しています。そもそも卒業制作を提出してから一年以上経っていたので一度読み返して付箋だらけの原稿を渡したんですが、
「卒業制作ってことだけど、この付箋は大学の先生が?」
「いえ、自分で読み返して直したくなったところですけど?」
「それにしては的確で驚きました」
 まあ、それでも付箋の数は倍になって返ってきましたけどね。

 現状では、完成作品の講評を求めるならともかく、企画や執筆段階の相談をぶちまけられる相手はなかなかいません。ですから、
「冒険の旅ってどこ行けばいいの?」
「ファンタジーは城と酒場が出てくればそれっぽいですよ」
 なんて適当なことを言ってくれる方が欲しいと常に思っています。(この言葉を受けて主人公レオンは本当に酒場に立ち寄りました)
 誰か、一緒に小説書きません? もちろん僕もきっちり読んで意見を出します。チームで執筆、いいですよ!


 P.S. 『勇者と魔法と歌声と』文芸社より出版されているので気になった方は是非読んでみてください。

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