危険運転致死傷罪 高速度類型(法解釈編)
高速度類型危険運転致死傷罪に関するまとめ。
重大な交通死傷事故で、危険運転致死傷罪で起訴されないこと、危険運転致死傷罪の判決が下されない裁判を報道系番組が取り上げることがある。そのとき、取材記者やアナウンサーや出演コメンテーターが、危険運転で起訴されないとおかしい、危険運転の判決がでないとおかしい、そのように語ることをしばしば見る。
そういった番組に対する考えを含めて、法的解釈をまとめた。まとめたところ、20,000文字を超える長い記事となったため、2部に分けることとした。分けたものの、前半記事が15,000文字を超えるものとなってしまった。
前半記事(本記事)では、高速度類型危険運転致死傷罪の法解釈を示したものとしている。後半記事では、近時の事故裁判、それに対する報道の取り上げられ方を示す。
この一連の記事群は、過去に書いた以下のつぶやきを掘り下げるものでもある。
なお、交通事故の専門家ではないので、正確性に欠ける素人の感想と捉えてほしい。正確性を求める場合は、紹介サイトや紹介書籍や紹介裁判例、さらに正確性を望むなら弁護士への相談などで補完してほしい。
この記事では、主に以下の書籍を参考としている。
考えのまとめ
考えのまとめを冒頭に記しておく。
直線道路での暴走行為を想定した危険運転致死傷罪の制定が必要と感じる。高速疾走類型ということになるかもしれない。名称は高速度類型と紛らわしいうえ、差が分かりにくいので、名称の調整は必要に思う。
危険運転致死傷罪
交通人身事故、とりわけ交通死亡事故では、その加害車両の運転行為が危険運転か過失運転かということが問われる。そしてしばしば、過失運転致死罪で起訴されることや判決されることが不適切であるかのように報道される。
ここでは、危険運転致死傷罪の適用を中心に説明する。
制定経緯
危険運転致死傷罪の成立経緯は、簡単には『新コンメンタール刑法第2版』のP381に、より詳細は『新・交通事故捜査の基本と要点』P.128あるいは警察庁の『犯罪白書』に詳しい。
自動車運転処罰法制定のおおまかな流れを図にしたものを記す。(過失含む)傷害罪や(過失含む)致死罪は流れというには無縁であるが、加重規定の関係から記した。
この図で重要な点のひとつは、危険運転致死傷が刑法27章「傷害の罪」の流れを汲むことにある。刑法28章「過失傷害の罪」ではなく刑法27章「傷害の罪」。つまり過失犯ではなく故意犯の流れを汲むことにある。
故意犯に関する部分は『犯罪白書』にも記されている。最新版には、自動車運転死傷処罰法が成立する前の部分が記されていない。そのため、少し古い『犯罪白書』から抜粋する。
「危険な運転」とされる運転行為のうち、特定のものを危険運転と定めた。危険運転と定めた運転行為を故意に行ったことでの死傷事故は、過失運転致死傷でなく危険運転致死傷と取り扱う。このような話となる。
ここであえて「危険な運転」という表現を用いた。
それは「危険な運転」≠「危険運転」ということを言いたいため。
ここにメディアや多くの人の誤解のひとつがあるように思う。
感覚的には、交通違反の多くはそれ自体が「危険な運転」といえる。速度超過、一時停止不履行、指示器を使用しない車線変更、信号のない見通しの悪い交差点での徐行不履行、横断歩道付近での歩行者が存在する状況での減速一時停止不履行など。どれも人の死傷の結果を生じさせる実質的危険性はあるだろう。しかしそのような交通違反によって発生した事故の大半は、危険運転とされない。
それは、危険運転とされる運転行為は特定のものに限られているため。
危険運転の適否の判断は、感覚的に危険か危険でないかで判断しているのではない。人の死傷を発生させる実質的危険を有する「危険な運転」のうち、類型化し、特定の要件を満たす運転行為を危険運転と定めている。その定めた運転行為に該当するか該当しないかで判断している。
どのようにして定められたか。それは立法府に他ならない。
裁判で法解釈を積み重ねる要素はある。しかしそれは立法趣旨に沿った範囲内であることが前提。立法趣旨に反した範囲の事故に拡大して適用させることは不適切。この観点を解説する報道を見たことがない。
国政、とくに国防に絡む部分を中心に、法を解釈で拡大することを批判する報道をよく見る。しかし交通事故で、法を解釈で拡大することを批判する報道を見ることはほぼない。むしろ法を解釈で拡大することをよしとする報道をよく見る。報道機関における一貫性のなさを何とかしてほしいところだ。
危険運転の類型
危険運転の類型は自動車運転死傷処罰法で示されている。以下に類型を示す。
類型名称には、『新・交通事故捜査の基本と要点』のP.129より記されている名称を用いている。ただし殊更赤信号無視だけは、他の書籍で馴染深いことから、殊更付きの名称を使用した。
自動車運転処罰法第2条
アルコール・薬物影響類型(1号)
高速度類型(2号)
無技能類型(3号)
通行妨害類型
通行妨害類型(4号)
前方停止等通行妨害類型(5号)
高速自動車国道前方停止等通行妨害類型(6号)
殊更赤信号無視類型(7号)
通行禁止道路類型(8号)
自動車運転処罰法第3条
アルコール・薬物影響類型(1項)
病気(症状)影響類型(2項)
それぞれの類型の詳細は別の機会に譲る。ここでの話の主眼は、危険運転とされるものはこれらの類型に限られる点。これらの類型に当てはまるなら危険運転、これらの類型に当てはまらないなら過失運転となる。
また、危険運転による処罰は、死傷事故を起こした場合に限定される。危険運転であっても、それによって発生した事故が物損に留まる場合には、2条や3条による処罰はない。条文の以下の部分による。
もっとも危険運転行為自体がほぼ交通違反といえる。物損で留まる場合や事故を起こさない場合でも、交通違反には問われることが多いだろう。
この記事では次節以降、2条2号の高速度類型を中心とする。
危険運転の類型に関する注意点を記す。
令和2年改正の前後で、号の割り振りが変更されている。
妨害運転に5号と6号が加わっている。それにより、従来の5号と6号はそれぞれ7号と8号にずれ込んでいる。今回は2号を主題としているため、ほぼ問題はない。しかし、過去の裁判例や過去の書籍を見るときは、号が変わっている点に注意する必要がある。
関連する条文を隣接したところに入れたいという意図は分かる。だが道交法第71条1項の、4の2号や4の3号のように、従来の番号を変えずに割り込ませる方法を取れなかったものかと。
高速度類型危険運転致死傷罪
前節では危険運転の概略を示した。ここからは、危険運転の類型のうち、高速度類型に焦点をあてて話を進める。
条文
条文は以下のようになっている。
「進行を制御することが困難な高速度」という文章の指し示す運転行為、その適用範囲が問題となる。どのような運転行為だと「進行を制御することが困難な高速度」と言えるのか、単純な暴走運転はすべて適用されるのか、暴走運転に適用されるなら何キロオーバーが目安となるか、この文面からは読み取れない。
法律解釈、立法趣旨
危険運転の法律解釈や立法趣旨を伺い知ることができるものとして、書籍、裁判例、法制審議会議事録を順に示す。
書籍では、司法における法律解釈を示すものはいくつかある。司法における高速度類型の法律解釈では、東京高判平22・12・10(判タ1375・246)の解説がよく使われているように思う。これは例えば以下の書籍に記されている。
条文よりは少し掘り下げた状態になった。
しかし、これでも疑問は尽きない。
例示部分を削ぎ落すと「速度が速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度」「自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度」となる。こうなると、徐行義務違反との違いは何かという疑問が生じる。
制限速度40km/hの道路を、20km/hまで減速しなければ安全を保てない見通しの悪い交差点で、20km/hよりも高速度な40km/hないし多少超過した50km/hのまま走行すれば、徐行義務違反となる。ここで事故となれば、十分に減速していないために他車の状況に応じて進行させることができなかった、他車を避ける進路から逸脱してしまった、そのようにして起きた事故といえる。このような事故にも危険運転が適用されるのだろうか。高速度でないがゆえに危険運転が否定されるなら、どこまで高ければ高速度といえるのか。このような疑問が出てもおかしくない。
高速度類型の危険運転の法律解釈をさらに掘り下げた裁判例には、名古屋高裁刑1令和2(う)195がある。書籍では『ケーススタディ危険運転致死傷罪第3版』P.348でこの裁判に触れている。この裁判例は立法趣旨に触れている部分がある。そのため、法律解釈および立法趣旨の理解には有用と思う。
事前に。原審の津地裁令1(わ)187でも、控訴審の名古屋高裁刑1令和2(う)195でも、危険運転は否定されている。ただし、原審の法律解釈は不適切として、控訴審で法律解釈を正しつつも危険運転を否定している。
原審に記された情報をもとに、事故の概要を図とともに示す。
小雨の降るなか、三重県津市の片側3車線の直線道路を、法定速度60km/hのところ146km/hで走行する車両が、路外店舗より3車線横断のうえ右折しようとしたタクシーに追突したという事故。下図のようになる。
図のうち、薄い車両や点線は、予定あるいは期待していた進路を表す。また、一つ目の図の右部にある縦長の車線は、道路の途中を省略していることを表す。どの程度省略されているかは、二つ目の図を確認してほしい。二つ目の図は位置関係をほぼ正確に表している。
この事故では、加害車両の左が先行車両、右が中央分離帯で阻まれ、146km/h走行状態ではもはや回避不可能な状態にあった。
加害車両は146km/h=40.56m/s。132.6mを3.27秒で走行する。この時間で対処できることは限られる。
もしかすると、車線を維持したまま、速度を維持あるいは加速し、パッシングやクラクションでタクシーの横断を制止しながら走り抜けることで、事故回避できる可能性はあったのかもしれない。しかし事故が起こりそうなときに加速する人は少ないだろうと思うし、小雨の降る夜にタクシーの横断を制止できたかは疑問に思う。
この事故態様を掘り下げることはこの記事の主題からは外れる。そのため、この程度に留める。この事故の裁判におけるポイントを示しておく。
高速度類型の危険運転の要件は、「速度が速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度」「自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度」だった。このうち「道路の状況に応じて」「進路」の判断に他車の動きが含まれるか、ここがポイントとなっている。
「道路の状況に応じて」「進路」の判断に他車の動きが含まれるとするなら、加害車両左の先行車両、被害者車両の状況に応じて進行させる必要があるといえる。それを行わなかったことを理由に、この事故態様でも危険運転が成立する。そのように言えるのかが争点となる。
これが争点となっていることは、控訴審の判決で以下の部分に示されている。
そして、これに対する法律解釈において、立法時の議事録を参照して立法趣旨を確認している。
直線道路で歩行者や他車両横断を発見し、その手前で停まれない速度であること。これは進行制御困難の判断には含まれない。
また、先行車両によって進路が狭められていること。これも進行制御困難の判断には含まれない。
このような立法趣旨といえる。
これを踏まえて、進行制御困難性を以下のように判断している。
駐車車両は動かないので、同じく動かない道路構造物と同視できる。道路構造物と同視した範囲で進路を想定し、その想定進路どおりに進行できるかによって進行制御困難性を判断する。
他方、走行車両は動くので、道路構造物と同視できない。そのような不確定な要素を進行制御困難性の判断に含めるのは相応しくない。
このような法律判断となる。
加えて、なぜそのような法律判断をしたかを補足する説明が続く。
ここに、冒頭で示した故意犯が絡んでくる。これが徐行義務違反との違いになる。
見通しが悪い交差点で、予見義務やそれに基づく徐行義務を怠り、事故を起こした。これは他車の存在という不確定かつ流動的な事情が前提となる。この前提に基づいて予見する、これに対する予見可能性が問題となる。
危険運転、つまり故意犯の判断にこのような不確定かつ流動的な事情を含めるのはふさわしくない。不確定かつ流動的な事情を含めると、故意犯と過失犯の境界線があやふやなものとなる。罪刑法定主義の観点で、境界線に明確さが問われる。
このような事情から、歩行者や他車両の動きを進行制御困難の判断に含めないようにしていることが分かる。
罪刑法定主義を疎かにする人が多いように見えるのは、平和になった日本ゆえか。なお、罪刑法定主義は中学公民の分野。たとえば帝国書院の中学校向け教材の紹介サイト内に罪刑法定主義の記載がある。罪刑法定主義ができた経緯、それを学んだ記憶、それらを思い出してほしいところだ。
より具体的な適用ケース
ここまで抽象的な説明を続けた。では、高速度類型の危険運転致死傷罪が適用されるケースは具体的にどういうものか。
典型的には、カーブ路において限界旋回速度を超えた速度で進入し、走行進路を逸脱して死傷事故を起こすケースとなる。自車線からの逸脱で対向車両への衝突、道路からの逸脱で路外歩行者や自転車への衝突、これらが典型的な適用例となる。
これらから若干外れるケースを用いて補足する。
限界旋回速度を若干下回る程度の速度の場合、わずかなミスによって進路を逸脱しかねない。このような場合には「進行を制御することが困難」と扱われる。そのため、限界旋回速度を超えずとも高速度類型危険運転が適用される。
グリップ力の高いタイヤの車では、限界旋回速度は上がる。同じカーブ、同じ速度、同じ路面状況でも、スポーツタイプの車や高級車だと高速度類型危険運転が適用されにくくなる場合もありそうだ。
カーブ以外に、曲がり角や交差点右左折でも同様の話となる。
同乗者を死傷させた場合にも適用される。たとえばカーブを曲がり切れずに路外電柱などに衝突し、単独事故ながら同乗者への死傷があれば、危険運転致死傷害罪となる。
一方、緩やかなカーブで限界旋回速度を大きく下回る場合は、制限速度や法定速度を超えた高速度であっても、高速度類型の危険運転致死傷罪はほとんど適用されない。限界旋回速度未満ということは、物理的制御困難性が問われることはほとんどない。事故原因は前方不注視あるいはハンドル操作ミスにすぎないことが多い。そのような場合は過失運転致死傷害罪に留まる。ここに、如何ほど速度が高いかという要素は含まれない。
ここまでで示すように、典型的には曲がっている道路に限定される。直線道路にはほとんど適用されない。これに関連して、先に示した三重県津市の事故の控訴審を再掲する。
太字になっている部分の意味は何か。この道路でこの車両特性を前提とすると、法定速度を大きく超えているものの、直線道路から逸脱することなく走行できている。そのため物理的制御困難性は生じていない。つまり、そこまでの運転行為は高速度類型の危険運転とはみなせない。このようなことを意味している。
走行する他車の影響を排除し、その道路あるいは道路内の思い描いた走行路を走行できるか、それが物理的制御困難性の判断材料となる。
さて、直線道路でも高速度類型危険運転が適用可能なケースはある。『ケーススタディ危険運転致死傷第3版』では、路面が隆起している場合、雨天で路面が湿潤している場合を示している。
路面が隆起している場合。千葉地裁平成24(わ)1330などがある。これは、長さ約47.5mの橋梁を82km/hで通過する際、橋梁入口の隆起部分で車体が浮き上がり、橋梁を渡るあいだ断続的にゼロG状態となってコントロール不能となり、橋梁出口の交差点で歩行者および電柱に衝突、歩行者や同乗者を死傷させたというもの。判決文PDFには「体がふわっと浮き上がるような感覚を楽しんで自車内の雰囲気を盛り上げようと考え」と記されている。
雨天で路面が湿潤している場合。釧路地北見支判平17.7.28などがある。これは、タイヤが摩耗した状態で法定速度60km/hの直線道路を、雨天のなか100km/hで走行中、水たまりで滑走し路外に逸脱、側溝および電柱に衝突、同乗者を死傷させたというもの(『必携自動車事故・危険運転重要判例要旨集第3版』P.685)。なお、これを含めて裁判例検索で参照可能な場所のものは書籍の中から見つけられなかった。
釧路地北見支判平17.7.28のように、他車両と関係なく進路を逸脱するような場合には、カーブでなくとも高速度類型危険運転は適用されることになる。三重県津市の事故も、雨によって事故現場よりも手前でコントロールを失っていれば、高速度類型危険運転が適用されていたことだろう。
ドリフト走行にも触れておく。限界旋回速度よりもはるかに低い速度域でのドリフト走行で危険運転が否定されたケース、限界旋回速度近い速度域でのドリフト走行で危険運転が認定されたケースはある。ただどちらも、ドリフト走行そのものを理由とした判決ではなさそうだ。限界旋回速度で判断しているように思う。そして、大阪高裁3刑平27.7.2を見ると、ドリフト走行での危険運転成立は否定的といえそうに思う。
立法趣旨の原典
前節で取り上げた三重県津市の事故の裁判、そこで示された立法時の議事録を示す。これは、法務省の「法制審議会 刑事法(自動車運転による死傷事犯関係)部会」(平成13年)から入手できる。
その後の法制審議会「法制審議会 刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会」(平成24年~25年)でも、高速度類型に若干触れられている。これは、条文が分かりにくいのではという指摘に対するものであり、結果的に条文変更は行われなかった。そのやりとりは省略する。
前者(平成13年)の公開形式が圧縮形式LZHという点は変えてほしいと思う。中身はテキストファイルしかないのだから、非圧縮で直接リンクでもいいのではと思う。あるいは後者(平成24年~25年)のようなPDFに変換したものを公開するなどを考えてほしい。
さて、前者(平成13年)より気になった点をいくつか取り上げていく。
この審議会では、高速度類型に限らず危険運転全般について審議されている。
まずは、この記事冒頭に示した、故意犯に絡む部分を抜粋する。
「危険運転類型の道交法違反という故意犯」+「死傷という結果に伴う結果的加重犯」の犯罪類型と見える。このとき、死傷という結果に対する故意を問わない。
刑法125条「往来危険罪」と刑法127条「往来危険による汽車転覆等罪」の関係に近い印象。刑法125条が故意で行われている限り、結果発生によって刑法127条は成立する。そのとき、刑法127条そのものに対する故意は要求されない。
これと類似した犯罪類型といえる。
逆説的には、危険運転致死傷罪の成立には、死傷という結果に対する故意や未必の故意の立証は必要ないといえる。
なお、死傷という結果に対する明確な故意があれば、それは車両を使った殺傷。危険運転致死傷罪ではなく殺人罪や傷害罪が問われるべき事件となる。
そして、高速度類型の危険運転部分を抜粋する。既に上でまとめたものの根拠となる議事内容が記されている。
高速疾走直進事故と危険運転
ここまで示したように、直線路を高速で疾走する類型の事故には、高速度類型危険運転はほぼ適用できない。この類型を高速疾走直進事故と呼ぶことにする。これは『新・交通事故捜査の基本と要点』P.185にある「高速疾走等直進事故」という事故分類名称から取った。
この類型に含まれる事故には、以下の3種の類型があると思う。
① 単独事故で同乗者を死傷
② 追突事故
③ 自道路以外の通行車両等との事故(右直事故、路外施設等からの合流、横断者轢過など)
これらのうち、①には高速度類型危険運転が適用できると思う。
問題は②③である。これらに高速度類型危険運転がほぼ適用できないことは、前述のとおり。自爆的に進路逸脱あるいはコントロール不能となった上で②③の状況となる場合に限定して、高速度類型危険運転が成立する。
『ケーススタディ危険運転致死傷罪第3版』P.340では、③に対して妨害運転でカバーできる余地があると説明している。③が適用可能なら、②に対しても同様に適用できるようにも思う。
それを前提に、妨害運転の条文を示す。
① 人又は車の通行を妨害する目的で、
② 走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、
③ 重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
ここで②について補足。法令用語で「その他」は、それ以前に列記されたものとそれ以降に示されるものの並列的例示を表す。つまり「走行中の自動車の直前に進入」「通行中の人又は車に著しく接近」の一方を満たすことで②は成立する。
これを考えると②③が成立するのは明らかとして、問題は①となる。
ここで書籍は、平成25年2月22日東京高裁判決の判断を示している。
自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが確実であることを認識して、当該運転行為に及んだ場合には、故意が認定できるとしている。未必の故意と考えているように思う。
なお個人的には、この見解を根拠にして、高速疾走に妨害運転を適用することには否定的意見。車両は普通に走行するだけで十分に、他車にとって通行を妨害しうる存在だろうと思う。多少の過失があれば容易に「人や車に衝突等を避けるため急な回避措置をとらせる」ような妨害運転となりえる。そのような境界線のあやふやなものを用いて危険運転と判断するのは危険に思う。どちらかというと、名古屋高裁の以下の見解を支持する。
そして、妨害運転を曲解させるのではなく、高速疾走類型危険運転を制定するのが適切と考える。そして、どの程度の速度であれば高速疾走といえるのか、何らかの基準を立法で示すべきと考える。
立法府、議員は国民の負託を受けている。司法府、裁判官は最高裁判所の裁判官といったごく一部を除いて国民の負託を受けているとはいいがたい。その点を考えても、危険運転の適用範囲の設定は、司法判断ではなく立法判断で行ってほしいと思う。
報道の具体例
報道の取り上げ方は、別記事にまとめた。
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