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数字はただの記号だと思っていたけれど 〜小川洋子『博士の愛した数式』/読書感想文


好きな科目は国語。
学生時代のめり込んでことは、クラシック音楽。
休日の過ごし方は美術館めぐり。読書。

こうして振り返ってみると、あいまいな世界を、正解や不正解の無い世界を、好んで生きてきた。


算数は苦手だった。

どれくらい苦手かというと、驚異の0点をとったことがあるくらいだ。
0点のテストは、親が絶対に見ないと思っていた「友達と交換したお手紙を入れておく箱」に隠した。ズルい子どもだった。それでも、バレて叱られた。子どもの手紙入れを覗くなんて、大人の方が一枚も二枚も、ズルいと思った。

その頃からずっと、
数字とは仲良くなれない、と思っていた。
数字はただの記号であって、情緒がない。文脈がない。
紙の上に突然現れて、

「ほらこの問題を解いてごらんなさい。
 正解はたった一つだけですよ。
 それ以外は受け付けません。」

みたいな様子で。
気に食わない。仲良くなれない。
そんなふうに思っていた。


そんな私が、
名作『博士の愛した数式』をずっと避けてきた理由は、なんとなく理解してもらえるのではないかと思う。

大好きな読書の世界にまで、数字やら、数式やら、そんな頭の痛くなりそうな話題を持ち出されたら、たまったもんじゃない。

けれど、2022年に思いは変わった。

小川洋子さんの本をいくつか読んだからだ。
『ことり』
『最果てアーケード』
『人質の朗読会』
どれも、静かに深く広がる一人の人、一つのものにじっくりフォーカスされた物語は、心に沁みた。

この人の書くベストセラーならば、
読んでみたい。
たとえそれが、苦手な数字の分野にまつわるものでも。

そうして、私はついに『博士の愛した数式』を読み始めた。

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