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雪の降る日、拾った子猫 (5)

 対面

 「そうか、、、分かった。そのお母さんと男二人と会おう。場所は警察の中だ。信、お前も同席しろ。穂香は母さんと智と一緒に、別な部屋に居ろ。」
 帰宅して、仁と礼に警察での話をした。
 仁はこうなる事を予想していたのかもしれない。即答だった。

 数日して警察署へ向かう穂香と仁達家族。
 会議室に案内され、仁と信のみ入室する。礼と智、穂香は隣の会議室へと入る。穂香たちが入った部屋は壁際にマジックミラーがあり、隣の部屋が見え、会話も聞こえるようになっていた。
 会議室には既に、穂香の母と思われる女性と男性二人がいた。また立会人として先日の生活安全課の林、強硬犯係の山田、少年課の佐藤がいた。
 仁と信が入室すると、全員が立ち上がる。
 少年課の佐藤がそれぞれの氏名を述べ、挨拶を行った。
 母親は山際静香(しずか)、二人の男性は工藤竜司(りゅうじ)と桧山健司。
 「この度は穂香が大変お世話になりました。安心しました。あれ、、、穂香は?」穂香の母、静香がまず先陣を切った。
 「穂香さんは別室に。」少年課の佐藤が答える。
 「会わせて貰えないんですか?、連れて帰れないんですか?、、、なんで、、、」静香、早くも半キレ状態。
 「捜索願も出してただろう、、、早く連れて来いよ。」連れの男性の内、体格の良い工藤竜司が苛立っている。
 【こいつがおじさんと呼ばれてた奴か。】信、その男性を睨みつける。あの動画で見た蜘蛛のタトゥーの、穂香を食い物にしている鬼畜が、信の頭に浮かぶ。
 男性の隣には、信とあまり変わらない年齢と思われる桧山健司が、面倒臭そうに椅子に浅く座り背もたれに身体をあずけながら、仁と信を睨んでいた。

 「穂香さんはお返しできません。お引き取り下さい。捜索願も取り下げて頂きます。」と仁の低い声が響く。
 「何だとっ!、訳を言え、訳をっ!」工藤が叫ぶ。
 「穂香さんの身の安全を確保する為です。」落ち着いて即答する、仁。
 「母親の元に帰った方が、安全だろうがっ!」と工藤。
 「穂香さんがあなた方の元に帰ると、、、、鬼畜の餌食になってしまうからです。」
 「誰が鬼畜だっ!俺たちの事を言ってるのかっ!」
 「あなた方が鬼畜なのかどうかは知りません。ただ、いかがわしいサイトへ穂香さんがまた出演する事になると思われるから、、、、返せません。」
 「……」工藤の言葉が出てこなかった。隣の桧山も驚いた顔で見ている。静香はバツが悪そうに俯いた。
 「穂香さんは18歳です。親の同意が無くても独立できます。どこに住もうか、どんな仕事に就くか、誰と一緒になろうかも含めて、、、成人している一人の大人です。」
 「穂香は頭が悪いのっ、バカなのっ、、、だから私が付いていないと生きていけないのっ。」俯いていた静香が顔を上げ、そう叫んだ。
 「穂香ちゃんはバカじゃありません。読む事や聞いた事を理解することは苦手かもしれませんが、そばで手本を見せると出来るようになります。」
 信は、穂香が智に習いながら今まで家事をしてきた事を言う。確かにこうしてあれしてと言葉で伝えても、困った顔をしていた穂香が、智が手本を見せれば、出来るようになっていた。

 【あっ、、、男二人にされていた事って、、、、、この母親がしていた事を穂香が見ていたからなのか?、、、、一体、いつから見せていたんだ?】

 信は気付いた。男二人に抵抗もせずされるがままだったのは、同じことを母親がしていた行為を傍で見ていたからだと。悪い事だと思わずに、みんなしていると言われ信じたのも、母親が同じことをしていたからだと。
 同室していた刑事たちが、内輪で何か話し始めていた。話している内容が、わざと会議室のみんなに聞こえるような大きさだった。
 「虚言を言い、騙していたとなれば立件も可能かも。」「詐欺、、近親者でも成り立つか。」「検察送致できる可能性が見えてきましたね。」
 動画への出演も、男性二人との性行為も、同意があったとは言えなくなってきた、騙されていたのではないか。仁と信、刑事3人はそう考え始めたのだった。

 「お母さん、そしてお二方。いかがわしいサイトへの穂香さんの出演を強要した人、、、撮影時に卑劣な行為をした人、御存じありませんか?」仁が問う。
 「し、、知ってたとすりゃ、ど、どうすんだっ!」工藤、動揺し始めた。
 「この手で、、、、好きなようにさせて貰います。二度と陽の目を見れない様にします。」
 「そんなことしたら犯罪じゃんか。おい警察さん、捕まえろよこの男。」桧山が狼狽えている。
 「現行犯では無いし、あなた方への脅迫でも無いし、ご自身の考えを述べられただけですので、、、なんとも。」強硬犯係の山田が答えた。
 「か、帰るぞ。」工藤が突然、言い放つ。
 「でも、穂香が、、、穂香に会って連れて帰らないと、、、」と静香。
 「御三人さん、お伺いしたい事もありますのでどうぞ、このまま御留まりいただけますか?」と生活安全課の林。
 「そうですよ。いま動揺されて帰られると、先程の卑劣な鬼畜が自分たちの事で、それを知られたくないんだと思われますよ。」と仁。
 「うるせえ!何を偉そうにっ!」工藤はそう言うと立ち上がり、仁の席めがけて歩み寄っていく。仁が席から立ち上がる。
 工藤は興奮している。ここが警察署だという事も頭からは消えた様だ。仁の目前まで来た工藤の右手が、仁の胸元を掴んだ。
 ” バシッ ! ” 乾いた音がした。仁の右手のひらが工藤の左頬を捉えた音だった。
 工藤が床に転んだ。「いっ、、、痛ってぇ~。」
 それを見た桧山も立ち上がり、仁のところへと駆けてきた。
 ” バンッ !” 今度は仁の左手のひらが、桧山の顔面へ強く覆いかぶさった。まるで掌底突きの様に。
 桧山も床に転んだ。
 「ぼ、暴行の現行犯、、、だろうがっ!」工藤が弱弱しく叫んだ。
 「う~ん、、、正当防衛かな?、、、危害を加えられようとしたところ、それを払った、、、としか見れませんが、、、どうでしょう。」
 「拳とかパンチではなかったですよね。攻撃の意思は見られなかったのでは。」
 「先に手を出そうとしたのは工藤さんの方だったし、、、しかし、一応調書は取らせていただきます。」
 同席している刑事3人、意見の一致を見た。
 「そ、そんな暴力を振るう様な人の所に、、、穂香は置いておけませんっ!」と静香。
 「お母さん、、、穂香さんはもう、うちの家族です。家族を守る為には持ってる力を使い、私は犯罪者となっても守ります。もし相手が命を奪おうとするなら、、、、、私は躊躇なく相手を殺します。
  良いですか、、、、それが親です。家族の父親としての私の役目です。」仁は落ち着いた声で、静香へ告げた。
 「お母さん、貴女が穂香ちゃんを守らなければいけなかったんです。誰にも守って貰えなかった穂香ちゃんは、俺に助けを求めた。だから、、、、俺は穂香ちゃんを守ります。」と信も続けた。

 「他人の貴方たちに何が分かるのよっ!」静香がそう叫ぶ。目には涙が浮かんでいる。
 「あの子は、、、あの子は頭が良くないから、、、自分じゃどうして良いか分かんないから、誰かに縋って生きていかないといけないの、、、
  そんな子が生きていける方法って、、、何があるって言うのよっ!、、、恵まれて育った人には分かんないわよ。
  誰かの言う事を聞いて、、、身体を張って、、、、、騙されても利用されても、、、、生きていくにはそうするしかない時だってあるわよ。
  私もそうして生きてきたの、、、だって、、、、だって、、、」
 静香はそう言うと、目の前のテーブルに突っ伏した。

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