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映画感想文「マエストロ その音楽と愛と」バーンスタイン夫妻の愛の軌跡。才能の罪深さに慄く

夫が若い女と浮気する。

何が残酷かって、大抵の場合、妻は若さを失っていることだ。自分が持ち得ないものを持つ相手との競争は、無力感に苛まれる。

同様に男と浮気する夫を、妻はどう処理すれば良いのだろう。これほどの無力感はないのではないか。

「ウエストサイド物語」などの映画音楽の作曲でも有名な、偉大なオーケストラ指揮者であり作曲家、ピアニストのバーンスタインの物語。

しかし、主人公は彼の妻である。

女優の妻フェリシア(キャリー・マリガン好演)は、夫の同性愛を知りながら結婚する。

2人はお互いを理解し、愛し合い結婚した。3人の子供も成した。それでも止まらない、次々と始まる、夫と若い男達の恋愛。

妻にとっては、わかっていても身を切るような痛さを伴い続けたに違いない。

何度も揉めたし何度も別れようとしただろう。

それでも夫の才能を信じ、才能に惚れて人として愛し、寄り添い続けた。彼女の包容力なしにこの関係はあり得なかったろう。

才能溢れる自分勝手な男を愛した女と、溢れる才能を飼い慣らそうと孤独に戦い続けた男。2人がいかに人生と愛に向き合ったかの軌跡。世間の基準で裁くことは難しい。

数少ないバーンスタインがオーケストラを指揮する場面の迫力が素晴らしい。これを聴くだけでも価値あり。

監督のブラッドリー・クーパーが主演を務め、マーティン・スコセッシ、スティーブン・スピルバーグが製作に名を連ねる力作。Netflix映画だが一部劇場上映。

素晴らしい作品であるが、劇場で観るには抑揚にかけ、眠気を伴う。

個人的には複雑な感情を表情や目線、声音に込め全身で演じた妻役のキャリー・マリガンに何らかの賞を受賞して欲しい。

才能って素晴らしくて恐ろしい

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