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映画感想文「メタモルフォーゼの縁側」いっそ、全員ファーストネームで呼びたい

それは突然だった。

ある日を境に、上司があだ名や呼び捨て、「ちゃん」「くん」付けを辞めて、全員を「さん」付けで呼ぶようになった。

何十年も前だが、鮮明に記憶している。

会社での役割や先輩後輩など、目に見えない上下関係は呼び名に宿る。もちろんそれにより距離が近くなることもあるが、逆にそうではない人に疎外感を持たせたりもする。

そして年下上司が当たり前の昨今、役割の上下関係が変わることも多く、そこから呼び名を変えるのもなんだか、ダサい。

案外根深く、ややこしいのだ。

ならいっそ、全員さん付けでよいのでは?とよく考える。賛否両論あるだろうが、フラットな呼び名はフラットな関係を作るような気もしている。そんなことをこの映画で思い起こした。

BL漫画好きの引っ込み思案で冴えない女子高生うらら(芦田愛菜)がバイト先の本屋で出会う、ひょんなことからBL漫画にはまっていく75歳の雪(宮本信子)との出会いを通し、メタモルフォーゼ(変化、変身)を遂げていく春夏秋冬の物語が描かれる。

「うららさん」「ゆきさん」と。58歳差の二人は、お互いをファーストネームで呼びあう。共通の趣味のBLの話をしている時に、きゃっきゃと談笑する二人には年齢の壁はない。

母子家庭で団地住まいのうららは、度々雪の家を訪れる。ビルの狭間に建つ、古い日本家屋の縁側で雪のお手製のカレーライスを食べたり、お茶を飲んだり。時には誰にも言えない胸のうちを少しだけ、吐露したりする。

ぼんやりと学校に通い、授業にも身が入らず、授業中にノートの隅に漫画を描くうららは、リア充の幼なじみやてきぱきと進路を決めていくクラスメートを尻目に、将来の展望が持てず悶々としている。

そんな彼女にとって、その縁側は学校でも家でもない心地よいサードプレイスなのだ。

しかし、芦田愛菜、恐るべし。表現力が素晴らしい。様々なシーンで走る演技があるのだがそれぞれ異なる感情を乗せて走りわける身体能力の高さと賢さに舌を巻いた。

また、うららの背中をそっと押す、雪を演じる宮本信子がとても良い。年齢なりに身体が動かなくなる不自由あるものの、好奇心を忘れず誰とでもオープンに接し、いつも小綺麗な服装で活発に出かけ、料理したり花を植えたり、日々の暮らしを大切にする様に、こんなおばあちゃんになりたいとしみじみ思った(おばあちゃんの見本て案外ないので貴重!)。

ノーマークだったものの、あまりに口コミ評価高く観に行ったが、確かに良い作品。ほっこりと心が温まる映画でした。

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