映画感想文「パトリシア・ハイスミスに恋して」ベールに包まれた作家の知られざる生涯を描く
誰かの物語が好きだ。
その人の人生を思うと、見知らぬ誰かであっても、胸がキュッとする。
誰であってもどこかしら共感ポイントがあり、人間なんて結局みんな同じ。地球はひとつ、みたいな感覚になれる。
だからドキュメンタリー映画が好き。
本作は作家パトリシア・ハイスミスの直筆の日記をスイスで見つけた監督が、その日記と彼女と関わりのあった関係者へのインタビューで構成した映画である。
パトリシア・ハイスミスはその作品の多くが映画化され高い評価を得ていることで知られている。
だから、映画好きとして名前は知っていた。
アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」(1960年公開)。これはリメイクで1999年にマット・デイモン主役で公開された「リプリー」と同じ作品である。
リメイクされるということは、それだけ原作の評価が高いということを物語る。
そして有名なヒッチコックの「見知らぬ乗客」(1951年公開)。これは彼女のデビュー作である。
つまり作家としての彼女は、早いうちから高い評価を受け、20冊の著作のほとんどが次々と映画化され金銭的にも豊かな、エリート人生を歩んでいる。
しかし、映画で語られる彼女の生い立ちは愛に恵まれたものではなかった。そして彼女の性的指向が更に孤独へと追いやった。
唯一彼女が残しているレズビアン小説が2015年に映画化された「キャロル」の原作である。当時は実名で公開できず偽名で小説を発表し、ベストセラーになったという。
この映画はなかなか素敵な映画であり、とてもおすすめだ。
もともとなぜその映画を観たかと言えば、女優ケイト・ブランシェットが出ていたからだ。
映画に感動し、原作を手に取った。そこで初めて、パトリシア・ハイスミスの小説に触れた。
性的指向はさておき、この小説は愛によって互いに成長していくということを描いた名作である。また、人間が逃れることのできない、孤独についての描写が所々に見え隠れし、そこがとても素晴らしい小説だ。
さて、本作に話を戻す。印象的であったシーンである。パトリシア・スミスの家族(彼女は子供がいないので彼女の親戚達)が登場し生前の彼女を語る場面があるのだが、何よりそれが切なかった。
彼らは自分が見たいものしか見ない。そして、それを真実として語る。それが垣間見え、下手なホラーよりもよほど薄寒くて、震えた。
そこに、パトリシア・ハイスミスが抱いていたであろう孤独をひしひしと感じた。
内容充実のドキュメンタリー映画である。
唯一惜しいのが、少し抑揚にかける展開なこと。映画館で見る時は睡眠をよく取った状態で臨むべし。それだけが注意点である。
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