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『Ribing Fossil』- 待ち続けた「生きた化石」の物語

久しぶりのりぶわんお疲れ様でした。
アルバム『Ribing Fossil』の感想は去年のうちに書いてあったんだけど、りぶわんのチケットが取れず、傷心のあまり放置していました。セトリ見て結構本当に泣いています。
10周年ライブは絶対に行くぞ!という思いのもと、3ヶ月越しで公開してみます。

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4年間待ち続けたりぶさんのアルバム『Ribing Fossil』は、こんな歌い出しの「リア」から始まった。

10年ちょっとの思い出 少年なら大人になって
好きなものなんて 変わり果ててしまったんだ
  --「リア」

わたしが彼の歌やボーカロイドと出会ったのは、たしか高校を卒業する直前のこと。まだ、せいぜい7~8年ほどしか経っていない。それでも、10代後半から20代半ばにかけてのこの期間は、好きなものが"変わり果てる"には十分な長さだった。大学生の頃にどハマりし、卒論のテーマにまでしたボカロ曲でさえ、新しいものはほぼ追えていない。このアルバムの1曲目の歌い出しは、そんなわたしにぐさりと突き刺さってしまった。

〈夢をまた見させてくれるなら/もう一度 その歌声を〉という歌詞は、何年もりぶさんの活動再開(完全に停止していたわけではないけれど)を待っていたわたしの心境とぴったり重なった。わたしだけじゃない、同じ思いだった人が大勢いたことだろう。もしかしたら、曲を書いたEveさんもそんな思いだったのかもしれない。美しいファルセットや、続くフレーズの力強さを耳にして、自分の夢が叶ったことを少しずつ噛みしめた。

「りぶ」は、ニコニコ動画を中心とした"歌ってみた"界隈で絶大な人気を誇る歌い手だ。抜群の歌唱力と表現力で、様々なアーティストが提供する楽曲を見事に歌い上げるのが彼の最大の魅力だ。これまでの3枚のアルバムでもその歌声を存分に楽しむことができたけれど、今作ではまた新たな深みに触れることができる。

たとえば、Q-MHzによる提供楽曲「カナリユラレテル」。気持ち良い言葉やリズムが随所に散りばめられていて、つい口ずさみたくなってしまうパワフルな楽曲だ(UNISON SQUARE GARDENの大ファンでもあるわたしにとってはある種、ご褒美のようなコラボでもある)。それを高らかに歌う彼の声、特にビブラートは、4年前のそれより明らかに厚みを増していて、ちょっと嬉しい形で歳月の長さを思い知った。早くライブで聴きたい、この歌の力強さを直に感じたい、そう思わされる。

あるいは、清竜人が提供した「Princess」。こちらは、小洒落たメロディに乗せて切ない恋を歌う。〈きっと 貴女にとって 僕など所詮 問題外なヒトでしょう?〉と、少しずつ熱を帯びていくメロディが小気味良い。この「Princess」や高橋海(LUCKY TAPES)提供の「Focus」では、囁くような低音が出てきたり、切なげな高音が印象的だったりと、改めて表現力の幅広さを思い知らされる。

それから、りぶファンにとって語らざるを得ないのはやはりTOKOTOKO(西沢さんP)とのコラボ楽曲。"りぶ沢"の最新曲は「生命の名前」だ。決して長い曲ではないのに、この曲を聴き終えると1本の映画を見終えたかのような充足感に包まれる。

「生命の名前」は、彼のこれまでの活動をまるっと総括したような歌だ。〈時代の向こうまで届くような歌/未来の僕らにはじめまして〉という歌詞は、前作『singing Rib』の隠しトラックでの独白に通じるし、〈退屈な日々を喰う/優柔不断なモンスター〉という歌詞は「singing」の〈退屈な日々を貪っていく 不格好な獣〉という歌詞とリンクする。なにより印象的なのは、〈生まれた時から主人公だった/僕は僕の勇者になった/ブレイブストーリー更新中〉のワンフレーズだ。ここも、「singing」の〈弱虫な勇者の 他愛もないストーリーを照らすのは/ただ 歌うことだけ〉という歌詞とつながっている。彼の物語が"更新"されていくこと、それがこうしてきっぱりと歌われていることが、ずっと待っていた身としてはたまらなく嬉しかった。

今作には「シャルル」「ドラマツルギー」「ロキ」と、わたしが離れていた間に発表されたボカロ曲も収録されている。"オワコン"と言われて久しいボカロ界隈だが、なんだ、全然良い曲あるじゃん!という感じ。全盛期に持て囃された、そしてわたし自身も大好きだった、高音・高速のいかにも"ボカロっぽい"曲とはまた少し違うけれど、こういう曲がインターネット上にふと現れる現象は相変わらず面白いと思う。りぶさんのカバーを聴き、原曲を聴き、ほかの「歌ってみた」を聴き…という一連の流れを久しぶりに行ったからか、何年かタイムスリップした気分になった(そして「やっぱりりぶさんの歌が一番好きだ~!」となるところまでテンプレなのである)。

ネットシーンやメジャーシーンを問わず、様々なアーティストの提供曲が収録された『Ribing Fossil』は、りぶ自身が作詞作曲を手掛けた表題曲「fossil」で幕を下ろす。ここ数年の活動ペースがかなり遅い彼は、ファンから「化石」と呼ばれることがあった。その愛称を題材としたこの曲は、ほかの曲とはどこか一線を画している。ほんの少しぎこちなくて、でもどの曲よりもまっすぐな言葉で紡がれた、とっても温かい曲。

進み出す日常 朝焼けの紅
奏でるコード 日々をつないで
巡り巡る 無味乾燥な季節も
響き合う声が 彩るユニバース
冴えない自前のメロディすら もう一度
輝けるから
 --「fossil」

〈冴えない自前のメロディ〉と自ら歌う彼の自己評価の低さには、どこか親近感を抱いてしまう(笑)。前回の「singing」にも〈ただ 歌うことだけ〉しかできない、というような描写がいくつもあった。でもわたしに言わせれば、その〈歌うこと〉を続けてくれるだけで十分すぎるのだ。彼の歌声は、ほんとうに宇宙さえも彩ってしまうほど美しい。少なくともわたしはそう言い切れるし、「りぶさんの新しいアルバムが出る」というニュースだけで3ヶ月頑張れてしまった。ベタな言い方をすれば、わたしは彼の歌声に恋をしているんだと思う。

学生時代、狂ったように聴き続けていたボカロ曲とりぶさんの歌。今までのわたしにとってそれは、楽しかった(そして大量のレポートに苛まれた)大学生活の象徴だった。でも多分、これからは違う。今日も勤務中に『Ribing Fossil』を聴いていたし、先日は「定時退社してニコ生に備えなきゃ!」と仕事に励んだし、りぶさんの歌にまつわるわたしの思い出は徐々に更新されていくのだろう。それが今、この上なく幸せだ。我儘は言えないが、これからも彼の"今"の歌声を少しずつでも聴くことができたら、と願ってやまない。

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