2023/09/02(土)のゾンビ論文 ゾンビ警察には石油パイプラインを守る使命がある

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -viability -gender」

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

  4. 「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)

  5. 「zombie -firm -consciousness」(取りこぼし確認その2)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」/「-consciousness」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」/「-bot」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、検索条件4と5では、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -botnett -xylazine -biolegend -gender」二件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -viability -gender」二件

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」二件

  4. 「zombie -firm -philosophical」三件(差分一件)

  5. 「zombie -firm -consciousness」一件(条件4との差分二件)

検索条件1-3は倫理学、評論が一件ずつだった。



検索条件1「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」

モラルハザードと企業のゾンビ化可能性の関係について

一件目。

原題:The Relationship between Moral Hazard and the Probability of a Company Becoming a Zombie
掲載:The Journal of Ethics in Science and Technology, 2023
著者:Iman MahmoodiとFerydoon Ohadi、 Ahmad Yaghobnezhadの三名
ジャンル:倫理学

企業のモラルハザードが企業のゾンビ化を促進するらしい。

Moral hazard is an opportunistic behavior of manager in order to increase self-interest in an unethical way. The moral hazard of managers has adverse consequences on the financial health of companies. Therefore, the purpose of this research is to investigate the relationship between moral hazard and the possibility of companies becoming zombies.
(モラルハザードは、非倫理的な方法で自己利益を高めるための経営者にとって都合のよい行動です。経営者のモラルハザードは企業の財務健全性に悪影響を及ぼします。そこで、本研究の目的は、モラルハザードと企業のゾンビ化の可能性との関係を調査することである。)

Iman Mahmoodiら著
The Journal of Ethics in Science and Technology
『The Relationship between Moral Hazard and the Probability of a Company Becoming a Zombie』より

ここでいう企業のゾンビ化とは、もちろん「自身の経済活動で利益を出せないにも関わらず銀行の支援によって生きながらえている企業」を指すゾンビ企業になることである。

モラルハザードを起こして利益を出せなくなった企業に果たして支援が入るのだろうか。ビッグモーターを支援するようなものだが、「失敗するには大きすぎる」企業がばれずにモラルハザードを起こしていれば支援も入るか。

と、紹介してみたが、ゾンビ企業を扱う論文は「zombie -firm」のキーワードで排除しているはずだ。なぜ引っ掛かったのかわからない。リンク先へ飛んで論文PDFをダウンロードすればわかるが、この論文はアラビア語で書かれている。だから英単語の「-firm」に反応しなかったかと考えたが、論文内の単語説明や参考文献にしっかりと"zombie firm"の文字列がある。そもそも英単語に反応しないのならばまず「zombie」に引っ掛からないはずだ。なぞは深まるばかり…。

ジャンルは倫理学。経済学とも悩んだが、経済学がモラルハザードを恒常的に扱っているとは思えなかったため。


「私たちはパイプラインの人々です」: ​​ネディ・オコラフォーのエコクリティカルな憶測

二件目。

原題:“We Are Pipeline People”: Nnedi Okorafor’s Ecocritical Speculations
掲載:Oil Fictions: World Literature and Our Contemporary Petrosphereの第五章
著者:Wendy W. Walters
ジャンル:評論

掲載誌に『Oil Fictions』とある通り、石油に関するフィクションに関する評論。論文タイトルの「パイプライン」というのは石油を通すパイプラインのことだろう。石油に関するフィクションの紹介とこの論文も目的を示す文を本文から引用する。

Two short stories by Nnedi Okorafor, “Spider the Artist” and “The Popular Mechanic,” are set in rural Niger Delta communities and demonstrate Black Atlantic cultures of resistance to oil’s local and global devastations.
(ンネディ・オコラフォルによる 2 つの短編小説、「Spider the Artist」と「The Popular Mechanic」は、ニジェール・デルタの田舎を舞台にしており、石油に関する地域的および世界的な惨状に対する黒人大西洋文化の抵抗を描写しています。)

Wendy W. Walters著
Oil Fictions: World Literature and Our Contemporary Petrosphere
『“We Are Pipeline People”: Nnedi Okorafor’s Ecocritical Speculations』より

どうやらニジェール・デルタ(ナイジャーデルタとも)は石油による環境破壊が地域を荒廃させているらしい。

一方、石油採掘にともなう原油流出や廃棄物、そして燃え上がる随伴ガス(随伴ガスは原油から分離され、ナイジェリアではそのまま廃棄物として燃やされます)は、ナイジャーデルタによくある光景となっています。こうした公害は、何十年にもわたってこの地域に影響を及ぼし、土壌、水、大気に深刻な影響を与えています。

アムネスティ日本『ナイジャーデルタ:石油採掘がもたらす環境破壊と暴力』より

2006年に入って、冒頭の原油パイプラインへの破壊に加えて、石油関連会社に勤める外国人労働者の誘拐が相次いでいた。一連のテロ行為によって、ナイジェリアの原油生産は、2割以上の減産を余儀なくされ、経済的損失は、約240億ドルにのぼるとされていた。

ニュースが少しスキになるノート from TBS NEWS DIG Powered by JNNのnote『〝見捨てられた人々〟の勝利』より

そんなニジェール・デルタで、オコラフォーはゾンビを次のように描写する。

These Zombies are not so much the undead of popular representation as they are programmed robots whose mission is to protect the pipeline, not the people.
(このようなゾンビは、一般的に表現される不死者というよりも、人命ではなくパイプラインを守ることを使命とするロボットとして描写されています。)

The Zombies were made to combat pipeline bunkering and terrorism.
ゾンビはパイプラインを掘る人間やテロと戦うために作られました。

The Zombie policers servicing the material value of petroleum’s infrastructure protect the pipelines, not the people’s bodies.
(石油インフラの物質的価値を維持するゾンビ警察は、人々の身体ではなくパイプラインを警護します。)

Wendy W. Walters著
Oil Fictions: World Literature and Our Contemporary Petrosphere
『“We Are Pipeline People”: Nnedi Okorafor’s Ecocritical Speculations』より

つまり、ゾンビを「何者かから思うがままに操られるヒト」「自由意思がないヒト」に喩えているのである。これはアメリカ発の作品・論文でよくみられる喩えなのだが、オコラフォーはナイジェリア系アメリカ人であるから妥当と言えるだろう。

ジャンルは評論。



検索条件1-3の差分(差分なし)

「DDoS/botnet」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。

今回は差分がなかった。



検索条件4「zombie -firm -philosophical」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは意図的に取りこぼすこととする。

メディアにおける先住民族の埋葬地:恐怖と神聖な場所としてのミグマク墓地の見方

原題:Indigenous Burial Spaces in Media: Views of Mi'gmaq Cemeteries as Sites of Horror and the Sacred
掲載:Review of International American Studies
著者:Jennifer Stern
ジャンル:評論

「-gender」で排除。評論はとにかくジェンダーが多い。

映画に関する評論で、先住民族の墓地に焦点を当てる。評論対象は『Rhymes for Young Gools』と『ペット・セメタリー』。



検索条件5「zombie -firm -consciousness」

「zombie -firm -philosophical」との差分を確認する。哲学的ゾンビのみを排除するには「-philosphical」(哲学的な)と「-cousciousness」(意識)のどちらが良いかを探る目的。前者は哲学的ゾンビが英語でphilosophical zombieとつづることから、後者は哲学的ゾンビが人間の意識の有無に注目した概念であることから、それぞれ排除可能。

差分となって排除されたのは次の二件。

  • ンネディ・オコラフォルのエコクリティカルな推測

  • メディアにおける先住民族の埋葬地:恐怖と神聖な場所としてのミグマク墓地の見方

後者には"Western consciousness has been fascinated with …"(西洋人の意識は惹きつけられました)というフレーズがあった。前者がなぜ「-consciousness」で排除されたか不明。

consciousnessはあまり使われない単語だと考えてキーワードに選んだのだが、もしかして日常的に使われる単語だったのだろうか。だとすれば、キーワードとして不適と言わざるを得ない。今後の検討次第か。

ちなみに、この記事内では触れないが、「-philosophical」でも「-consiousness」でも排除された論文が二件あった。どちらも哲学的ゾンビを扱った論文であった。



まとめ

検索条件1-3は倫理学、評論が一件ずつだった。

オコラフォーの石油フィクションにはちょっと興味がある。フィクションでゾンビが何かの比喩として登場したとき、ふつうはゾンビそのものを登場させるからだ。

何を言っているかわかりにくいが、論文の内容からすると、オコラフォーが作品内でゾンビと表現しているものはゾンビではなく「ゾンビと形容される人間」なのである。この読み取りが真実であれば、「現実世界をゾンビを導線としてフィクション世界に投影した」のではなく、「現実世界にゾンビを輸入した後で、改めてフィクション世界を構築した」と言える。

伝わるだろうか。伝わってほしい、この違和感が。ゾンビを使いたいならゾンビを使ったフィクションの作法に則ってほしい。ゾンビと名がついただけの人間をゾンビとして扱ってほしくない。ただそれだけなのだが。

今日はねらいのゾンビ論文なし。


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