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プライマリ・ケアの、健康やヘルスケアシステムへの寄与(3)

 引き続き、『Contribution of Primary Care to Health Systems and Health』の内容をまとめていきます。今回は、プライマリ・ケア特性の達成度を、国ごとの比較したものについてです。

プライマリ・ケアの国際比較

 まずは、1980年代・1990年代という2つのデータを使用いた研究が、プライマリ・ケアが強力である国ほどより良い健康アウトカムと関連していることを示しています。また、強力なプライマリケア実践の確立には、政策が重要であることも示されました。
 その中の1つに、10の西欧諸国の先進国を対象として、
「主な保健サービスの範囲」
「健康指標のレベル(例:乳児死亡率や平均余命など)」
「満足度-費用比」
を、既存の公開データを用いて調査した研究があります。プライマリ・ケア実践の特徴として、First Contact:最初の窓口としてのケア、Longitudinarity:長期にわたる個人中心のケア、Comprehensiveness:包括的ケア、Coordination:調整性としてのケア、Family Centeredness:家族志向性、Community Orinented:地域志向性という現在でも変わらず重要な点を踏まえて測定されました。また、政策の特性として、ヘルスケアのシステム、プライマリ・ケア提供者のタイプ、費用負担、専門医への受診頻度、プライマリ・ケア医への報酬などが測定の対象となっていました。
 結果としては、10か国のうち9か国で、プライマリ・ケア、健康指標、満足度-費用比の一致を認め、米国や西ドイツで評価が低く、カナダ・スウェーデン・オランダは、3つすべての項目で高い評価を得ました。

Starfield, B. 1991. Primary Care and Health. A Cross-National Comparison. Journal of the American Medical Association 266:2268–71.
※政策やプライマリ・ケアのそれぞれの特徴の採点方法は、他文献に明示されており確認ができませんでした。

 こういった国際比較の研究によって分かった重要な知見として、
▶︎プライマリ・ケア実践特性のスコアが、政策特性のスコアと有意に関連している(所得格差や喫煙率を調整済み)
▶︎プライマリ・ケア実践特性のスコアが低い国では、特に低出生時体重児の頻度や出生後の死亡率が高いなど、小児に関する健康アウトカムが悪かった
ことが分かりました。
 こういった研究結果から、プライマリ・ケアサービスの適切な提供には、政府の支援的な政策が鍵であることが示唆されています。

 また、プライマリ・ケア実践の特性スコアが高い国と低い国の違いは、
▶︎包括性(例:プライマリケア医が専門医への紹介ではなくより幅広い範囲のケアを提供したかどうか)
▶︎家族志向性(一人のプライマリ・ケア医によって他の家族にサービスが提供された度合い)
で強く認められました。
 より良いプライマリ・ケア提供と関連した政策の特徴としては、
▶︎公平にリソースを分配している
▶︎プライマリ・ケアサービスに係る患者負担を、政府が管理し財政として普遍的なものにした結果、患者負担分が軽い
というものでした。
 さらに、プライマリ・ケア実践の特性スコアが低かった国では、自殺のために失われる可能性のある寿命(years of potential life lost)のようなメンタルヘルス含めた健康アウトカムが不良だったことも明らかになりました。

Starfield B., L. Shi. 2002. Policy Relevant Determinants of Health: An International Perspective. Health Policy 60:201–18.

OECDのデータを用いた国際比較

 プライマリ・ケアとそれに関連する政策と、健康アウトカムとの関係について、米国を含む18の先進国で数十年にわたる変化をみた研究があります。OECDのデータを用いて、健康アウトカムやヘルスケアのシステムの特徴などをスコア化し、調査したものです。スコアは以下の図のように測定されました。

図1

 プライマリ・ケア志向の強さは、喘息と気管支炎、肺気腫と肺炎、心血管疾患、心臓病による全死亡率、全原因の早期死亡率、原因別の早期死亡率の低さと関連しており、さまざまなシステム特性(1人あたりのGDP、1,000人あたりの総医師数、高齢者の割合)、平均的な外来診療回数、1人あたりの収入、アルコール消費量、タバコ消費量といった人口特性を調整した後も有意に関連を認めました。
 1970年代の時点で高い得点であった国は、その後も高い得点を維持できていたものの、逆に得点が平均よりも低かった得点がどんどん上昇していったという国はありませんでした。

 政策の変更がプライマリ・ケア実践の改善につながった一例として、スペインの税制の例があります。スペインでは、1980年代後半から1990年代初頭にかけて、税ベースの資金調達システムに移行し、プライマリ・ケア提供を踏まえた地理的配分、かかりつけの医の供給を増加、統合・家族志向ケア・調整性、健康増進サービスをより良く行うプライマリ・ヘルスケアセンターを設置などによって、プライマリ・ケアを強化しました。
 他に米国では、マネジドケアの一つであるHMO(health maintenance organizations)のプライマリ・ケア医がゲートキーパーとしての役割を果たすことで、スコアが上昇しました。

 さらに、このスコアの改善と健康アウトカムの関連も示唆されています。
 プライマリ・ケアのスコアが5ポイント(上記表の通り、20ポイントが上限)増加すると、喘息・気管支炎による早期死亡率は6.5%減少、心臓疾患による早期死亡率は15%減少すると予測されました。

Macinko, J., B. Starfield, and L. Shi. 2003. The Contribution of Primary Care Systems to Health Outcomes within Organization for Economic Cooperation and Development (OECD) Countries, 1970–1998. Health Services Research 38:831–65.

 最近のOECDのプライマリ・ケアに関する内容は、以下HPに詳しいです。様々なプライマリ・ケアの効果やその出典も非常に詳しく記載されています。


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