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ハートネットTV〜コロナの向こう側で〜を見て

 COVID-19に関して、医師という立場の私が何か発言することは、状況が刻々と変わる中ではなかなか難しさを感じ、これまで控えてきたところがあります。むしろ医師という立場だからこそ、発言しなければならないこともあると思うのですが、うまく表現できる自信がなかった(今もないです)というのが正直なところです。
 そんな中で、ハートネットTVというNHKの番組で、熊谷晋一郎先生が出てらっしゃるということで録画して拝見しました。熊谷晋一郎先生のことは、書籍『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』で存じ上げており、その後も障害に関する発信を意識的にキャッチアップしておりました。今回のこの番組も、covid-19の流行について熊谷先生がどのように捉えているのかを聞きたいと思ったからでした。

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 番組では、障害者がcovid-19流行に伴う影響について語られました。様々な差別が生じている原因になる「差別の仕組み」や、自己スティグマという概念など、COVID-19の流行によって起こっていることの根底にある問題が分かりやすく解説されました。特に、医療資源分配の考えが脆弱性の原則で行われているのにも関わらず、優生思想による命の選別が顕在化しているという指摘には、非常にはっとさせられました。
 番組の記事がありますので、ぜひ読んでいただきたいと思います。

障害者に対する医師の無意識の偏見

 障害者の診療にあたる際、医師は患者さんのQOLに関して誤った推測をし、提示する治療方針に大きく影響していることが分かっています。複雑な障害があることを末期の状態と見なしてしまうという、無意識の偏見がそこにはあるといいます。その無意識の偏見を認識することが、医師にとって患者さんにより良いケアを提供することにつながります。
 具体的な対応策として、患者さんの生活状況をきちんと把握する、意思決定に多職種が関わる、障害それぞれの特有の治療やケアのゴールがあることを知る、などが挙げられています。
 この無意識の偏見も、命の選別の原因になっているのではないでしょうか。

Clarissa Kripke. Patients with Disabilities: Avoiding Unconscious Bias When Discussing Goals of Care. Am Fam Physician. 2017 Aug 1;96(3):192-195.

アジャイル

 熊谷先生が注目した「アジャイル」という言葉は、あまり聞き慣れないかもしれません。
 アジャイル=「機動性が高い」ということは、プロセスより「態度」、方法論ではなく「環境」を意識したものであるとされています。以下のような比較が分かりやすいです。

プロセスやツール よりも 個人と対話
包括的なドキュメント よりも 動作する製品
契約の交渉 よりも 顧客との協調
計画に従うこと よりも 変化への対応

※左が重要でない、ということではないことに注意が必要です

 激変するビジネス環境から利益を生み出すために、変化に対応する・変化を作り出す能力・柔軟性と安定性のバランスをとる能力を重視した考え方といえます。
 例えば、人材支援のために組織に必要なこととしては、
▶︎変化を受け入れる適応的な文化
▶︎自己組織化を促す最小限のルールとそれにできるだけ忠実に従おうとする自発的規律
▶︎プロジェクトコミュニティ内部の密なコラボレーションと対話
が重要です。

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Policy Brief: A Disability-Inclusive Response to COVID-19

 熊谷先生の番組でも紹介されていましたが、国連から出されたCOVID-19流行下における障害者のinclusiveな対応の重要性についてのレポートが出されています。こちらは無料で見ることができます(英語です)。
 今回はこれが本題でした(前置きが長くなってしまいました)。非常に重要なことが書かれているので、まとめていきたいと思います。

①概要

 まず概要として、COVID-19の世界的な流行による、既存の不平等の深まりや排除の傾向が強くなっていることが指摘されています。COVID-19の流行がない通常の状況であっても、障害者は医療、教育、雇用の機会が得にくいだけでなく、貧困・暴力・虐待にも遭いやすいです。COVID-19によってこの状況はさらに悪化しており、直接的にも間接的にも障害者に不均衡な影響を与えています。
 障害のある人がCOVID-19への対応やその復興に取り残されないようにするため、障害のある人たちを対応の中心に据え、計画と実施の主体として参加することが重要です(このことを「包含する:inclusion」と言っています)。いわゆる障害だけでなく、性別や年齢によって受ける影響の違いにも考慮が必要です。障害の包含は、誰しもにとってより良いCOVID-19への対応や復興につながり、より効果的な対処や改善につながります。それは、複雑な状況に対応できるより機敏で臨機応変(アジャイル)なシステムを提供します。
 主要なセクターに焦点を当てた具体的な推奨事項について、すべてに適用できる4つの包括的な行動領域を以下に示します。

1. すべてのCOVID-19の対応や復興において、対象を絞った行動をとるとともに、障害者に焦点を確実に当てましょう。障害者を体系的に含めるためには、障害に固有の手段をメインストリームに置くことが必要です。
2. COVID-19の対応と復興において、情報、施設、サービス、プログラムへの利用を確実なものにします。利用可能性は、COVID-19流行におけるヘルスケアや社会経済的対応の基本です。公衆衛生的な情報、環境面、通信技術、商品やサービスの利用に支障があると、必要な意思決定・自立した生活・安全な隔離・平等な健康と公共サービスの利用がうまくできません。
3. COVID-19への対応と復興のすべての段階において、障害者とその代表組織との有意義な協議と積極的な参加を確保します。障害者は、危機的な状況への取り組みと未来の構築に重要な貢献をしています。多くの障害者は、現在の状況を生き抜くためのモデルとなる、孤立した状況や活動の場を代えてきた経験を持っており、その視点や経験は、創造的で、新しいアプローチのきっかけとなり、課題に対する革新的な解決策に貢献できます
4. COVID-19の対応に障害のことが含まれるようにするため、説明責任が明確な組織を確立します。政府、援助者、国連、その他関係者は、投資が障害者に確実に届くような、投資を監視するメカニズムを確立する必要があります。障害によってデータをそれぞれ構成要素に分けることは、説明責任を確実にするための鍵となります。

 COVID-19の対応と復興に障害者を含めることは、誰も置き去りにしないという誓約を達成するための重要な要素であり、障害者権利条約、持続可能な開発のための2030年の、そして人類のためのアジェンダ、国連の障害者包含戦略といった世界的な取り組みを、真に可能なものにできるかどうか試されているといえます。

②COVID-19が障害者に与える影響

 障害のある人は、COVID-19の流行によって不釣り合いに影響を受けやすいです。60歳以上の高齢者の約46%が障害者と言われます。女性の5人に1人は人生において何らかの障害・不都合を経験する可能性が高く、10人に1人の子供は障害を持っています。障害者の10億人の人口のうち、80%は途上国に住んでいます。

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 何らかの障害があったり支援を要したりする人々は多様で、人生において権利を行使しようとするときに重大な障壁にぶつかります。何らかの形で排除される人々(例えば、知的障害や精神疾患、視力障害や聴覚障害)は、必要なサービスを利用できなかったり、利用できても手間がかかったり、暴力や虐待を被る可能性が非常に高いです。

 『Shared Responsibility, Global Solidarity』によると、COVID-19は単なる医学的な危機ではなく、社会的に核心的な部分に影響しています。この影響は、障害に関連した既存の社会経済的不均衡を生み、障害者をより悪い状況へと脅かしています。

 障害のある人は、COVID-19に感染するリスクが高いです。
 なぜなら、以下のような理由で、手洗いや物理的な距離の維持などの基本的な保護対策を実施するのに支障があるからです。
▶︎水、衛生、衛生(WASH:water, sanitation, hygiene)のある施設の利用に支障がある
▶︎支援・介護を受けるのに物理的な接触がどうしても必要
▶︎公衆衛生的な情報の収集に支障がある
▶︎しばしば密で不衛生な制度的環境に置かれることもある

 これらは、非公式の居住地や人道上の緊急事態の影響を受けている場合に特に悪化しやすいです。

 障害のある人は、より健康状態が悪いことも多く、COVID-19による死亡リスクも高いです。たとえば、呼吸器疾患や、糖尿病や心疾患、肥満などの二次的な状態や併存疾患の影響を受けやすく、COVID-19の感染はそう言った条件で悪化しやすいです。COVID-19流行によって、通常のヘルスケア利用が難しくなり、障害者にとってタイムリーで適切なケアが困難となります。
 施設に住む障害者は、その居住環境のために感染する可能性が高く、当然死亡率も高くなります。高齢者を含め、障害者は、施設入所していることが多いですが、これは世界的に共通です。障害者、特に知的障害や心理社会的な障害を抱えた人は、刑務所にいる率も高いです。ナーシングホーム、ソーシャルケアホーム、精神科施設、拘置所、刑務所などの施設内の人々は、基本的な衛生対策や物理的距離、COVID-19に関する情報、検査や医療機関の受診などに、支障をきたしやすいです。

 障害のある人は、COVID-19の発生時に医療や救命処置への利用の際、差別を受けるリスクも高いと言われています。一部の国では、トリアージプロトコル(集中治療室、人工呼吸器など)を含む医療配給の決定は、個々の予後に基づくのではなく、年齢や障害に基づく生活の質や価値に関する仮定などの差別的な基準に基づいています(前述の通りですね)。さらに、障害者のためのヘルスケア、リハビリテーション、支援技術の利用も、ヘルスケアシステムへの圧力の高まりにより削減されてしまいかねないです。

 障害のある人は、COVID-19の社会経済的影響とパンデミックを制御するための措置によって特に不利になってしまいます。COVID-19は、生活の多くの分野で障害を持つ人々に短期的および広範囲にわたる影響を及ぼし、人道的・災害的状況や脆弱な状況でさらに悪化しえます。

▶︎雇用と社会的保護への影響
 すでに雇用の点では排除に直面しており、障害のある人は仕事を失いやすく、復興しても仕事に戻るのはより困難です。ほとんどの国の社会保障制度は、社会保険の利用がはるかに少ない障害者やその家族に、ほとんど支援を提供できていません。世界的には、重大な障害を持つ人の28%だけが障害手当を利用でき、低所得国で見れば1%にとどまります。世界的流行に関連した無給のケアと家事労働に対する需要の高まりは、既存の不平等が深まり、女性において特に悪化しています。
▶︎教育への影響
 障害のある学生に関する信頼できるデータは不十分ですが、教育からの排除も悪い状況に陥っているでしょう。COVID-19が子供に与える影響として、障害のある学生は遠隔教育ソリューションの恩恵を受ける可能性が最も低いことです。インターネットへのアクセス、利用可能なソフトウェア、学習教材の欠如など、障害を持つ学生への溝を深めてしまいかねません。スキル訓練や研修プログラムの中断は、労働力への参入に対する多くの障壁に直面している障害のある若者に対し、広範囲にわたる影響を与えるでしょう。
▶︎支援サービスへの影響
 多くの障害者にとって、安全で健康的で自立した生活を送るためには、支援サービスの利用が不可欠です。COVID-19流行拡大を抑えるための措置は、そういったサービス、支援システム、個々の介助、手話や接触による解釈(手話を学んでいる妻から教わったのですが、手話は表情・仕草もコミュニケーションの大きな部分を占めており、マスクで顔が隠れてしまうのは致命的なのです)、心理社会的サポートなど、非公式なつながりに重大な混乱をもたらしました。
▶︎障害者に対する暴力の影響
 COVID-19の女性への影響に関する政策概要で、ロックダウンの最中に家庭内暴力が大幅に増加していることが早い段階で報告されており、これは特に障害のある女性と少女に大きな影響を及ぼしています。障害のある小児も成人も、障害のない仲間よりも暴力を受けるリスクがはるかに高いため、不釣り合いな影響を受けてしまっているでしょう。コミュニティ内の障害者に対するスティグマと差別の増加も報告されています。

③障害を包含した、COVID-19の対応と復興のための基本

 障害者が取り残されないようにするため、障害者の人権に基づくアプローチが必要です。
 すべての介入において、メインストリームに置くことと、焦点を絞った対策の組み合わせが必要です。障害のある人は、医療保障と治療、基本的なサービス、避難所と収入といった、他の人と同じ主要なニーズを共有しています。それらの包含に取り組む最良の方法は、すべての計画と努力において障害者を主体に置くことです。一般のニーズの包含では満たせない特定のニーズにも対応できるよう、障害があることを主体に置くことで、対象を絞った対策だと包括的なものにすることでは満たせない特定の要件に対処することにより、メインストリーム化を補完しなければな利ません。

●差別がない
 差別がないことは、人権の核となる原則です。障害に基づく差別、障害者に不釣り合いな影響を与える可能性のある基準は禁止しなければなりません。障害者が確実にCOVID-19の対応策の恩恵を等しく受けられるように、合理的配慮を含む積極的な措置を講じることによって、障害者が経験する不利益を認識し、対策を講じなければならないのです。
●交差性(様々な差別の軸が組み合わさり相互作用して独特の抑圧があること)
 性同一性、年齢、民族性、人種、性的指向、出身地、場所、法的地位などの要因の結果として、交差する複数の差別を経験している障害者は社会的影響を受けやすいです。障害者が直面する複数の交差する形態の差別を反映して対応し、障害者の中で最も疎外されたグループが取り残されないようにすることが必要です。
●利用可能性
 施設、サービス、情報への利用を確かなものにすることは、障害を包含したCOVID-19の対応と復興の基本である。公衆衛生的な情報、建物、輸送、通信、技術、商品、サービスなどにアクセスできない場合、障害者は必要な決定を下すことができず、自立して安全に隔離または検疫することも、他の人と平等に健康と公共サービスにアクセスすることもできなくなります。こういった対策は、初期設計で最大数のユーザーのニーズが考慮されているれば、特に全体的なコストを大幅に増やす必要はないとされています。実際に、それらを設計段階から検討しても、利用可能性の確保にかかるコストはわずか1%であることが分かっています。
●参加
 障害のある人は、自分たちの生活に影響を与える決定に完全かつ効果的に参加する権利があります。彼らは、他の人にはない独特の知識と障害の生きた経験を持っている多様な不均一な集団なのです。
 計画・設計、実施と監視までのすべての段階で、障害者とその代表的な組織の緊密な協議と積極的な関与が、包括的な対応を確実にするための鍵です。連携と協働は、有効性と説明責任を改善し、包含を直接的に達成し、関連するすべての行動が障害者に利益をもたらすことを保証し、長期的な発達と回復につながります。
●責任
 COVID-19の対応と復興が包括的であり、障害者の権利を尊重することを保証するためには、説明責任が不可欠です。政府、国連機関、その他の関係者は、障害者を含む影響を受けた人々に説明責任を負っており、適切に情報提供し、フィードバックに従い調整して、コミュニティと連携する仕組みを確立しなければなりません。
●データの分類
 障害を持つ人々がCOVID-19の影響を経験するさまざまな方法を理解し、対応と回復のすべての段階で彼らが含まれることを監視するには、障害によって分類されたデータの収集と可用性を確保することが不可欠です。そのためには、国際的に認められた方法を使用してデータを収集する必要で、WHOモデル障害調査などのニーズ評価や調査を通じて、より詳細な定性的データとして収集すべきです。

④部門別の行動と推奨事項

 障害者がCOVID-19に感染するのを防ぎ、封鎖、物理的な距離と隔離対策の影響から保護し、対応と回復を達成するための主要な行動について概説します。

●アクセス可能な公衆衛生情報の確保
 適切な対応には、適切に最新の情報が得られ、急速に変化する知識と歩調を合わせた対策が必要です。たとえば、Inclusion Europeという、COVID-19に関する情報とリンクを、複数の言語で読みやすい形式で作成したものもあります。ネパールでは、障害者の権利に関する共同国連パートナーシップ(UN PRPD)プログラムを通じ、COVID-19に関する情報を手話を含む利用しやすい形で情報提供しています。

https://www.inclusion-europe.eu/easy-to-read-information-about-coronavirus/

●COVID-19に対する保護対策の実施
 頻繁な手洗いを可能にする適切なWASH(water, sanitation, hygiene)施設へのアクセスや、自宅または施設で障害者を支援する人々を対象とした保護措置の提供は不可欠です。障害者への個人用保護具の配布は、障害に合わせた調整が必要です。
●サービスへの利用確保
 医療施設への輸送、病院での手話通訳の活用、商品、医薬品、サービスの調達など、障害者の医療サービスへのタイムリーな利用を促進するための措置を講じなければなりません。性と生殖に関する健康を含む基本的な医療サービスも重要です。さまざまなコミュニケーションの方法を必要とする障害者が、遠隔医療プログラムであっても利用できるようにする必要があります。
●希少な医療資源の配分を差別なく行う
 特定の脆弱性のある状況にある人の治療を優先する倫理原則を適用し、障害者を非常な不利益にさらすような資源配分の差別的決定が起こらないようにすることが重要です。
●障害者を含むメンタルヘルス介入
 不安、封鎖、孤立、情報消費、生計手段や支援環境の喪失など、メンタルヘルスに与える影響は大きく、障害者を含むすべての人々にとってそれは同様です。施設での訪問者やグループ活動を制限する「フィジカル・ディスタンス」は、身体的、精神的健康はもちろん、幸福度にも悪影響を与えてしまいます。メンタルヘルスや心理社会的な支援は、障害者を差別することなく、利用しやすいものにする必要があります。
●施設入居者を守る
 施設ではCOVID-19の集団感染を起こしやすく、大きな課題となっています。施設入居中の障害者は、COVID-19に感染して死亡するリスクが高いですが、その状況は虐待・拘束・孤立・暴力などのより大きなリスクによって悪化しています。
 感染リスクを軽減するための施設内での検査と予防措置の優先順位、居住者間の過密・隔離・物理的距離への対処、訪問時間の変更、保護具の使用の義務化、衛生状態の改善などが重要です。感染した人が適切な治療と医療を受け、必要に応じて病院や救急医療ユニットに移送されることを保証することも重要です。
 場合によっては、障害者を施設から出すという思いきった行動が必要なこともあります。脱施設化戦略は、明確なタイムラインと具体的なベンチマークで加速・強化しなければなりません。
●刑務所内の障害者の数を減らす
 可能な限り、早期釈放と保護観察、または判決の短縮または通勤を検討することが重要です。他の可能な対策には、裁判前の拘禁の使用を減らす、家族や非公式のネットワークを通じ地域社会での支援を迅速に確保することなどです。世界中の多くの国で、障害のある囚人が釈放されました。
●支援サービス
 多くの障害者は、日常生活や地域社会への参加を支援サービスに依存しています。これらには、個人的な支援、手話と触覚の解釈、在宅サービスとピアサポートが含まれます。
 特にニーズが高い障害を持つ人々のために、サービス継続計画を作成して実施し、サービスの提供中にCOVID-19への潜在的な曝露を減らすための対策が求められます。
 そういった対応ができるサービスがない地域では、支援サービスに対する需要の高まりによって家族に無給の非公式なケアを提供するよう圧力をかけ、障害者と家族、特に女性の両方に悪影響を与えてしまいます
 たとえば、アルゼンチン、ペルー、スペイン、その他の国では、障害を持つ人々を支援する人は、移動や身体的距離の制限から免除されています。コロンビアやその他の国でも、障害者や食料品やその他の購入品で高齢者を支援するボランティアを募集するコミュニティ支援ネットワークが発達しています。
●社会的保護や雇用
 社会的保護は、危機の社会経済的影響の影響を受けた人々に提供される即時救済として重要です。これは、仕事を失った障害者や、非公式な経済問題の結果として仕事や収入を失った人々に特に関係しており、そのすべては貧困のリスクにつながります。
 以下のような方法があります。
・障害手当の支払いを進める、増やす
・障害者の(オンライン)登録を進め、すでに登録されているが以前は資格がなかった障害者への適用範囲を拡大する
・障害者を支援するために仕事をやめなければならない家族を含む、主流の社会扶助制度の受益者に障害者の補充を提供する
・現金および必須食品と非食品の電子決済と宅配を確立する
●雇用と労働条件を利用可能性と包含に対応する
 働き続ける障害者は、この流行下で安全を保つために特定の保護または調整を必要とするでしょう。雇用主と職場が、個々のニーズに基づいて必要な環境と合理的な職場調整を提供すること求められます。事業を有する、または非公式な形で働いている障害者は、生計を維持するための特別な支援が必要な場合もあるでしょう。
 たとえば、障害者が自宅で仕事ができるように適切な調整も必要です。
 障害を包含した確実な労働安全衛生対策として、在宅勤務や有給休暇の優先順位など、さまざまな手配が必要です。
●封鎖から抜け出すためのアプローチとして、障害者の特定の状況に敏感となる
 障害のある人とその家族、支援サービスの提供者は、COVID-19に対してさまざまなレベルの脆弱性をはらんでいます。高齢者を含む一部の障害者は、他のグループよりも長く隔離する必要があるかもしれません。社会的保護と労働の取り決めは、これを行う能力をサポートするためにうまく適応しなければならないでしょう。国際労働機関は、障害者の社会経済的行動に関する指針やWebinarなどを作成しています
●教育
 障害のある学生は、遠隔教育を利用したり、クラスが利用可能になったら再びクラスに参加したりする際に、より大きな障壁に直面する可能性が高く、学習の中断中に教育から脱落するリスクが高いです。
 教育関係者は、障害のある生徒の学習の継続性を確保し、学校のプログラムに戻るための対策を講じる必要があります。これには、支援技術や機器など、学習をサポートするための特殊な機器の提供や、障害児の保護者/親へのサポートを含みます。ユニセフからは、障害のある子供たちの継続的な学習や、学校が閉鎖された状態でも子供たちの学習を支援するスタッフに向けた指針が出されています。
 多くの障害児にとって、仲間との関係、社会的認識、社会的能力は、個人教育計画の重要な側面です。学校が閉鎖されるということは、障害のある多くの子供たちが、食事や健康診断、虐待やネグレクトの相談といったサービスにアクセスできないことを意味します。
 教育関係者は、学習と達成のギャップの拡大を認識して、学校への復帰プログラムに障害のある子供や若者が含まれるようにしなければなりません。
●暴力からの予防
 障害のある人は孤立した状況で暴力に巻き込まれることが多く、障害のある女性と少女はそのリスクがさらに高いです。家庭内暴力サービスと支援への報告や利用は、一般的に障害者を包含していないため、障害者が利用しにくくなっています。
 障害者が報告メカニズムと被害者支援サービスにアクセスできるようにすることが重要で、自発的なネットワークを介するなど、孤立した人々へのアウトリーチが求められます。オンラインカウンセリング含めテクノロジーベースのソリューションの利用を以て、障害を持つ人々の多様性に対応できるようにするための重要な手段としなければなりません。
 障害者、特に女性と女児に対する暴力についての意識向上を促進するのと同様に、障害関連の暴力を防ぐためのサービスとコミュニティの能力を構築することが重要です。たとえば、UN Women Papua New Guineaはパートナーと協力して、COVID-19の側面を統合し、特に障害のある女性を対象とするカウンセリングや事例マネジメントの質と基準が改善しました。
●人道主義的な文脈
 人道的および災害的状況にある障害者は、COVID-19の発生において、特定の深刻な課題に直面します。
・基本的な衛生対策を実施する上での障壁
・密な場所における物理的な距離の制限
・障害と法的地位の両方に基づいてヘルスケアにアクセスする際の障壁
 これらにより、ヘルスケアやその他のサービスへのアクセスが決定および制限されてしまうでしょう。人道的行動への障害者の包含に関する機関間常任委員会のガイドラインは、そういった利害関係者に詳細な情報を提供しています。
 国や地方レベルで準備・対応計画が障害を包含していなければなりません。特に、人道的対応計画が、必要に応じて適切な資源、監視、調整を行い、WASH、健康、食料と栄養などの障害者を対象とした対応を考慮に入れることが重要です。
 具体的には以下があります。
・WASH施設の利用可能性の向上
・障害に固有の衛生用品および備品の配布や追加
・身体的距離を可能にするための危険にさらされている個人のための的を絞った避難所支援
・商品の現物支給、現金や補助券による支援、直接サービスの提供
・障害者の世帯に食料品と非食料品を配布するための代替の取り決め

⑤SDGsでの提供—より良い復興

 パンデミックや私たちが直面する他の多くの世界的な課題に対し、より平等で包摂的で持続可能な経済と社会を構築することに重点を置く必要があります。

 社会的・経済的回復に向けた各国の早急な取り組みは、不平等への取り組みや誰も取り残されないようにすることなど、持続可能な開発目標(SDGs:the Sustainable Development Goals)に向けた進展にとって極めて重要です。
 より良く構築する一方、障害者が国連の支援を受けて、各国が準備している対応の一部となることも重要です。これらは、適切に設計されれば、障害者が直面する排除や差別に対処できるため、より有効なコミュニティとシステム構築につながります。

 平等で包括的で回復力のあるコミュニティを構築するには、次のことが重要です。

1. 対応のすべての段階で障害者を有意義に関与させる
 地域の先導的な動きを支援する場合、政府、国連機関、国際支援者、市民社会組織は、障害者の設計と実施のすべての段階と関連する措置の実施において、障害者の包含を促進、資金提供、監視する必要がある。
2. 社会経済的対応において障害者に優先順位を付ける
 国および地方の経済モデルと仮定を批判的に見直し、障害者に不釣り合いに影響を与える溝を特定し、障害者包含へ過少投資になることのコストを考慮する必要がある。
3. 国の対応および回復計画における障害者の包含とエンパワーメントの追跡
 長期的な包括的対応は、包括的国家開発計画および資金調達プロセスと密接に関連している必要がある。障害の包含は、追跡と説明責任を可能にするために、すべてのCOVID-19アクションとシステムの要件とする(例:OECD DAC disability marker)。
4. 障害者の健康転帰の改善
 利用可能な医療システムの構築、医療従事者の権利に基づくトレーニング、健康関連のSDGs目標を達成するための基礎としての障害者の国民皆保険の確保を含む。さらに、障害者の健康の決定要因を改善することが重要となる。
5. 持続可能で障害を含む社会的保護システムを構築する
 障害関連の追加費用に必要な、ライフサイクル全体にわたる普遍的な障害手当は、基本的な所得保障を目的とした雇用およびその他の社会扶助制度と互換性があるように設計する必要がある。
6. すべてのセクターにおける障害のある労働者の特定の状況に対処する
 環境に優しい経済への移行に向け、一般に障害のある人、特に女性と障害のある若者を明示的に含めることを意識した内容にする。
7. コミュニティベースのソリューションへ即時の投資
 住宅施設に住む障害者に特に注意を払い、脱施設化戦略を開始・加速・完了し、コミュニティベースのソリューションに移行するための資金を投入する。これには、障害者のSDGs目標を達成するための基礎として、支援サービスへの投資と開発、および教育やリハビリテーションを含むプライマリヘルスケアなどの地域レベルでの包括的サービスの実施を含む
8. 複数の利害関係者との対話とコラボレーションを開始する
 障害の多面的な性質と必要なセクター間の対応に対処するには、セクター間の連携が必要である。長期的な再建計画の設計、実施、監視において、政府、国連機関、民間部門、障害者団体、より広範な市民社会など、すべての利害関係者を結集することが重要である。

⑥結論

 COVID-19は、前例のない規模の人的危機を引き起こし、10億人の障害者に不釣り合いに影響を与えています。障害のある人々が危機を乗り切るため、ただちに健康・社会的保護サービスを含む重要なサービスを利用できるよう、これまでにない対応、つまり支援と政治的コミットメントの並外れたスケールアップが必要です。
 障害を包含したCOVID-19の対応と復興は、すべての人にとってより良いサービス提供につながります。複雑な状況に対応することができ、最も遠くにあるものに手が届くような、より包括的で利用可能で機敏なシステムを提供することになります。
 それはすべての人にとってより良い未来への道を開くでしょう。

まとめ

 最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
 いかがだったでしょうか?国連が世界に向けて発信したレポートなので、日本やそれぞれの地域でそのまま当てはまることばかりではありませんが、非常に重要なことが書かれていたと思います。
 アジャイルなシステムを達成するために、現場の人間がきちんと声を上げ、実行に移せるよう、より良いコミュニケーションをとることが必要だと感じました。

 そして、今回COVID-19流行による障害を持つ方への甚大な影響について、国連のレポートをまとめましたが、この時期だからこそ顕在化しやすいのであって、読んでハッとさせられてしまいました。こういったことはCOVID-19があったから語るのではなく、普段から考え実践できていなければならないことだと思います。熊谷先生の番組をきっかけに、改めて多くの気づきと学びを得ることができたのでした。

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