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『組織戦略の考え方』 沼上幹 (ちくま新書)

 『医療行政学』という講義の導入部分で、官僚制についてのお話を聞く機会がありました。官僚制について考える機会などこれまでなく、講義で紹介いただいた沼上幹先生の『組織戦略の考え方』を読んでみました。

 若い頃は組織の一員であることについて深く考えたことはありませんでしたが、コミュニティ・ヘルスケア・リーダーシップ学科という研修に参加し、「地域の活動を広げる知識・スキル」として、組織に関する書籍を読みケース・スタディで学ぶ機会がありました。そこで初めて、自分が組織にいることで何ができるのか、などと考えるようになりました。この『組織戦略の考え方』は、2003年に出版されていながら、これまで読んだことがなく、官僚制のことに限らず関心を持って読ませていただきました。

 本書は、「組織設計の基本は官僚制」から始まり、「決断不足」「奇妙な権力の生まれる瞬間」「組織腐敗のメカニズム」など、組織が悪い方向にいく過程についてかなり厳しく論じられた内容になっています。講義で話題になった官僚制については、ポイントとしては以下のように指摘されていました。
・一般に「官僚制」というと悪い意味にとられる
・だが組織には「同じ問題に同じ答えを返せる」ことが重要
・融通が利かない=case by caseを作らない、ということ
・クリエイティブであることを官僚に求めてはいけない、しっかりした官僚制があってこそのクリエイティブ
・「官僚制は創造性の母」

 つまり、組織の根幹として官僚制があることが、非常に重要なのですね。とても勉強になりました。

 また、この本の「決断不足」の項について、非常に納得というか、痛いところを突かれた思いをしたので、少しまとめてみます。
 痛みを伴うような大胆な、でも必要な意思決定がなされるのは、現実的に難しいことが多いと思います。決断は、誰かの痛みを伴ったり、一時的に全員に負担を強いたりという意思決定であり、決断してもしなくても多かれ少なかれ批判されるものである。そこには、日本の民主主義を背景とした文化もあってか、安易な「落としどころ」とか「みんなのコンセンサス」を優先してしまい、決断できないことがしばしばある、と指摘されています。そういった「決断不足」に至るときの、3つの徴候を沼上先生は挙げています。


⑴ フルライン・フルスペック要求
⑵ 経営改革検討委員会の増殖
⑶ 人材育成プロジェクトの提案

⑴:多様な目標値に関して、競争相手と同等かそれ以上を書き記しているような戦略計画は、何も考えていないことの証、つまり、競争相手より上回ろうという目標は定義的に誰も反対し得ないし、誰でも決められることである。自分では「決断した」と幻想を抱き、○○部署の力不足だったとか、□□部署が抵抗勢力だったとか自己弁護に走る、と切り捨てている。
⑵:経営に関しては、新たな経営用語や経営モデルがどんどん出てきている。そういったことに経営者は敏感であることが多く、自組織の経営に合うような経営手法の「落としどころ」を探すが、周囲のコンセンサスをとることに気が向いてしまい、新たな経営改革にあたっての「検討」委員会設立に繋がっていく。経営者としては委員会設立で「決断」したと思ってしまうが、組織としての方向性を決めているわけではない
⑶:人材育成はどんな時でも常に必要なもので、かつ誰も批判はしない。だが何より、時間がかかり直近の問題解決にはならない。問題解決の時間的間尺が合っていない提案は、思考が足りていない

 など、決断が必要とされるタイミングで、まずい状況と思われる徴候が書かれているわけですね。

 そして、何が自分に響いたかというと、それに続いて「まずはトップが決断を」としながら、「トップが決めてくれなくちゃこっちは何も決められない、とトップを批判しつつ自らも実は決断できないでいるミドルは逃げ道を奪われる。ミドルたちを無理矢理にでも決断せざるを得ない状況に追い込むようにトップがまず決断を下す」という部分に、ちょうどミドルである自分のことだなと思わずにいられなかったのです。非常に痛いところ突かれた感じでした。よく考えたら、「決断不足の3徴候」の似たようなことを、ミドルの自分もやっていることに気づきました。例えば、他の総合診療プログラムの例を引き合いに出して色々不満を言ったり、横文字の目新しいマネジメントワードに飛びついてみたりしてしまっています。

 沼上先生の『組織戦略の考え方』は、官僚制に対して偏見を抱いていたことに気づかされただけでなく、自分の組織でのあり方や立ち振る舞いにも学びを得ることができました。きちんとシステムとして機能したプログラムを骨格から作り上げること、必要な「決断」ができているか内省することを意識していきたいと思ったのでした。

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