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プライマリ・ケアの質

 中間発表や講義に関することなど、九州大学大学院でどのような学びがなされているかをブログでまとめてきましたが、自分が何をしているか、少しまとめていこうと思います。中間発表のあと、ほどなく『第58回日本医療・病院管理学会学術総会』の一般演題に自分の成果物を発表するための準備もあり、やっと落ち着いたというのもあります。

 大学院に入って私が取り組んできたこととして、外来におけるプライマリ・ケアの質を測定し、いかに質改善につなげるか、ということをやってきました。それをやる中での学びの経緯や、プライマリ・ケアの質についてまとめていきたいと思います。

プライマリ・ケアの定義

 そもそも、プライマリ・ケアとはなんでしょうか?分かりやすいのは、日本プライマリ・ケア連合学会のHPにまとまっています。すでに実地で活躍されている方からしたら釈迦に説法のようなことですが、改めて読んでみると大事なことが書かれています。

 ここでも引用されていますが、プライマリ・ケアの定義とは以下のようになります。

「患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービス」

 太文字にした部分がキーワードとして特徴づけられています。

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 プライマリ・ケアが、より良い健康アウトカムや公平性、コストに寄与することはエビデンスがあり、プライマリ・ケアの質の測定や改善はヘルスケアシステムをより良くするために重要です。このことについては『Contribution of Primary Care to Health Systems and Health』に詳しく、また別の機会にまとめたいと思います。

医療の質という3つの軸

 医療の質をどう測るかという概念の一つに、IHI(Institute for Health Improvement)が提唱しているTriple Aimがあります。IHIは、「医療制度に費やされるリソースに対し、より大きな価値を生み出して、高齢化と様々な健康問題における課題を対処するため」に、ヘルスケアシステムのパフォーマンスを最適化するフレームワークとしてTriple Aimを提唱しました。
 背景に、2001年に出版された『Crossing the Quality Chasm; A New Health System for the 21st Century』により、社会に求められる医療の質として、安全性、効果、患者中心性、適時性、効率性、公平性が重要であるとされ、これを参考に、
▶︎ケアの患者経験の改善(品質と満足度を含む)
▶︎地域の健康の改善(公衆衛生
▶︎ヘルスケアの一人当たりのコストを削減
という3つの軸が挙がりました。
 これら3つの軸を同時に取り組むような活動を行うため、ヘルスケアシステム全体を変えるようなアプローチが重要とされています。

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Institute for Healthcare Improvement. http://www.ihi.org/engage/initiatives/tripleaim/pages/default.aspx.  より筆者改変

プライマリ・ケアの質

 このプライマリ・ケアの質を測定するツール、特に日本におけるものとして、JPCAT(Japanese version of Primary Care Assessment Tool)があります。これは、Triple Aimの中の「患者経験」を測定するツールです。
 プライマリ・ケアの質を測定するツールとして諸外国には、「Components of Primary Care Instrument(J Fam Pract 1997; 45: 64–74.)」「Primary Care Assessment Survey(Med Care 1998; 36: 728–39.)」など多数あり、その中の「Primary Care Assessment Tool(J Fam Pract 2001; 50: 161–75.)」を日本で適用できるようなツールとしてJPCATは開発されました。

 日本の医療制度の特徴である、「フリーアクセス」と「診療所でも病院でも外来診療が提供されていること」による弊害として、multimorbidityとして認識される多くの高齢者や健康の社会的決定要因などで認識される健康格差など、医療の非効率性が認識されています。さらに、プライマリ・ケアを提供する教育やトレーニングが十分であるかどうか、という面においても日本のプライマリ・ケアの質を考える必要があると思います(19番めの専門医として2018年度より始まった「総合診療専門医」はプライマリ・ケアの専門医とも言えるでしょう)。

 現在、このJPCATを用いて自施設の診療所における質改善の調査を行っています。臨床業務だけでは見えなかった統計学的な視点からの結果や、プライマリ・ケアの質を測定すること、そもそもプライマリ・ケアとは、というところを深く考えるきっかけになりました。
 JPCATによる調査を通じた学びを、ここでまたまとめていきたいと思います。

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