スクリーンショット_2019-06-24_20

自治体の事業の評価

 今回は自治体の事業の評価についてです。

 自治体の事業としては、乳幼児医療費助成制度を最初に行ったと言われている岩手県の沢内村が代表的です(1961年に制度導入。1957年に69.6人/1000人だった乳幼児死亡が、1962年に0人/1000人になった。ただし細かいデータが残っておらず制度導入の効果だったかは判然としないとされている)。

子どもの医療費助成の効果

 講義では、国民生活基礎調査を用いた別所先生の論文(http://websv.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19653507.pdf)が扱われました。別所先生の論文の特徴として、医療費助成の運営主体は市町村だが都道府県レベルでの解析であること、操作変数法を用いているがクロスセクション分析にとどまっていることが挙がっています。結果としては、助成により小学生の医療サービスのアクセスを改善しているものの、小学校低学年までの医療サービスのアクセスを改善しておらず、助成は(アクセス改善による)子どもの健康状態を改善していない、というものでした。そもそも、事業の評価をどうしたらいいのか、ということも学びだったので、単に結果がどうだったかというよりも、評価の解釈の難しさを感じました。

自治体のがん検診への取り組み

 自治体の事業として、がん検診もあります。がん検診の歴史としては、1960年ごろ宮城県で検診車による巡回検診がはじまりとされています。90年代以降、特に1992年の老人保健法による「保健事業第3次8ヶ年計画」によって、個別検診の政策的展開の必要性が打ち出され、集団検診の補完策として個別検診が急速に普及していきました。しかし、1998年に老人保健法の対象からがん検診が除外されたり、国庫負担金が一般財源化されて使途に定めのない交付税として財源の配分がなされたりしたことで、自治体のがん検診に対する取り組みは後退したと言われています(「がん検診の失われた10年」とも言われる)。2007年にがん対策基本法が施行され、以下の図のように徐々に受診率は向上していますが、世界的にみるとまだ受診率としては低いと言われています(https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/campaign_30/outline/low.html)。

図は「国立がん研究センター がん情報サービス」 ホームページ(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl_screening/index.html)より作成

 がん検診には、自治体や検診期間が指定した時間と場所に受診者がいく「集団検診」と、それぞれが検診を提供する医療機関へ行って受診する「個別検診」があり、後者は受診者の多様な要望に応えることで受診率の向上を図ることを目的としていますが、その分自己負担は割高になる傾向があります。

 この自治体におけるがん検診の受診率と個別検診との相関をみた研究があります(『自治体はがん検診の受診率を向上させたいのか?』)。以下論文のポイントです。
特徴:市町村の3年分のパネルデータを用いている(パネルデータを用いることで、観察されない変数のもたらすバイアスへの対処がられている)。
結果:個別検診の普及は、受診率を上昇させる財政状況の改善した自治体ほど個別検診割合を上昇させている。財政的に厳しい自治体では、がん検診の受診率向上よりも受診率をむしろ低下させて財政負担を避ける傾向があるかもしれない(がん検診に回すべき費用を他の支出に充当?安価な検診機関に委託?)

 難しいのは、検診が人々のケアの質や死亡率などにどう効果があったかという判断ですね。今後の課題として、さらにがん登録を活用したデータ解析の必要性が示されまていました。

 実際に臨床をやっていると、個々で検診をどこまで医療者として推奨するかは、かなり悩ましい時も多いです。単に年齢で検診をやる・やらないの線を引くことがいいとは思いませんし、若い方はそもそも医療機関に定期通院していること自体相対的に少ないはずなので、直接はアプローチできていないと思います。また、実際に検診を受けたほうがいいと思ったときに、自分のいる地域のリソースを具体的にどう提示するかまでは知識が足りていないことに気がつきました。地域へのアプローチとして、検診事業にどう医療者として取り組めるか考えさせられました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?