「こどもの あそぶ ところは」-子どもの本専門店とかこさとしの選挙の本

「大きな本屋さんにいこうか」

と声をかけると、9歳の小さくも大きいひとは、「いいやん!」と言った。弾けるような笑顔だった。

京都の大垣書店かなあと考えてみる。あそこの本店はいろんな本があって楽しい。久しぶりにデザイン系の本を眺めたい。カフェもあるし、お昼ごはんもそこで食べようかな。丸善でもいいな。そんなふうに考えていた。

しかしふと、京都の大垣書店本店のこどもの本コーナーを考えてみる。んんん…あそこには、『おしりたんてい』と『うんこドリル』くらいしかない。いや、正直それは語弊だ。もっとある。でも、そんなようなのしかない。

9歳のこのひとは、古き児童書『大草原の小さな家』や『ライオンと魔女』、『グリックの冒険』あたりを愛読している。さらに最近出た児童書『ランド・オブ・ストーリーズ』『天山の巫女ソニン』なんかも読む。おしりたんていが悪いわけではないが、とてもおしりたんていで満足しそうにない。

「待って。大垣書店、いい本ない気がしてきた」とはっきり言うと、
「ああ〜、そうやな…わかる。」と返される。わかるんだ。
丸善もいいかなと思いつつ…、
「メリーゴーランドに行こうか」と言うと、
「いいやん!」と返された。

メリーゴーランド京都は子どもの本の専門店だ。

https://www.mgr-kyoto2007.com/

本屋にたどりつくと、ふたりで嬉々として本をいくつも手にとった。

狭い店内に所狭しと並ぶ本。はしごを使って本を取りに行くのもたのしい。彼女は悩みに悩んで、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を買うことにした。しかし、文庫版とハードカバー版のふたつがあり、どちらにしようか更に悩んでいた。「文庫だったら持ち歩けるけど…」と悩みつつ、あの、ハードカバーへの憧れが止まらなかったみたいで「おおきいほうにする!」と言ってハードカバー版に決めていた。わかるよ…あの、ハードカバーへの憧れ…あの装丁…あの萌えは止まらぬよな…!!!!と子の肩をバンバン叩きたい気持ちを抑えて、いたって冷静にレジに向かった。

実は、この間に不思議な出来事があった。

ちょうどお店の隣のTOBICHI京都で、幡野広志さんの展示会を開催していたのだ。わたしは幡野さんの連載は毎回欠かさず読んでいる。書籍もうちにある。写真も好きだ。中を見てみようかなと思ったけど、入場制限をしていたので、あきらめることにした。

このとき、入場制限のために幡野さんの展示会の会場に入るのを待たなければいけないひとが、隣のメリーゴーランド京都のお店のなかに入ってきていた。ゆっくりと本を楽しむひとのほうが多かったのだけど、なかに、明らかに時間を潰すために本屋さんに入ってきて、本とは関係のない話を大声でしながら店内を闊歩しているひとたちがいた。ひえええ…となってしまった。

なにかお伝えしようかなと思ったけど、ちょっと迷ってしまって声に出せなかった。静かに本を選んでいた娘が、ひそかにチラリと大人たちを見やった。(あとになって「あのひとたち声張り上げてて、うるさかったわ」とぽつりと話していて、やっぱりあのときわたしから何か声かければよかったなあ、と思った。)

その時にふと、私の目に、かこさとしさんの本のタイトルが飛び込んできた。

『こどものとうひょう おとなのせんきょ』

というタイトルだ。ずいぶんレトロな装丁は、復刻版だという。

そうだよな。みんしゅしゅぎは、 いいことを みんなで きめるんだよな。かずが おおいから、 いいんじゃなくて、 たとえ、 ひとりでも、 いい かんがえなら、 みんなで だいじにするのが、 みんしゅしゅぎの いい ところだろ。それを まちがると、 かずが おおい やつが、 かってに いばったり、 わるい ことを しだすんだよな。

こんなことが書いてある。ちょっと説教くさい言い回しだけど、でも、まさにそうだ。多数決って、数が多いひとが強くなるしくみではないのだ。

わたしが、衝撃だったのは最後のページだった。

こどもの あそぶ ところは、 せまくて ちいさくて どうぐもないのに、 おとなの あそぶ ところは、 どんどん ひろく ずんずん りっぱに ふえていく ことです。 ケンちゃんたちは、 これは、 せんきょを するのは おとなだけなので、 おかねもうけにならない こどもの ことなんかは あとまわしになるからと、 おもいました。おとなだけの せんきょで かずが おおくなった ものが、 かってな ことを している ためだろうと、 おもいました。

「こどもの あそぶ ところは、 せまくて ちいさくて どうぐもないのに、 おとなの あそぶ ところは、 どんどん ひろく ずんずん りっぱに ふえていく」

大垣書店の小さな子ども本コーナー。わたしにはとても魅力的な大垣書店本店だけど、そこに置かれるのは「こどもだからこんなふうにすれば喜ぶんでしょ?」という本だ。展示会の待ち時間に時間を潰しに、こどものための本屋さんを大声でずんずん闊歩するひと。おとなの あそぶところは どんどん ひろく ずんずん りっぱに ふえていく。

なんだか、衝撃的だった。

いろんなことが頭をよぎった。

コロナ禍で、修学旅行がなくなってしまった子の話(三重→沖縄の旅行なんて問題ないんじゃないか?と思った)。体育祭がなくなってしまった子の話。感染予防にと、全面的にテープが貼られた公園の遊具。こういうときも最初に閉ざされるのはこどもの選択肢だ。いくところがない。本当にない。おかねもうけにならない こどもの ことなんかは あとまわしになるから。

あらためて、涙が出てきた。こどもの場を守ることって、この社会でなんて難しいんだろう。せめて、こどもの場をなんとかつくっているところを応援したい。メリーゴーランド京都がもしなくなってしまったらものすごく悲しい。もっと買えばよかった。次は1万円分くらい買う。

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