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第11話 ふくの湯で、私とあなたが「整う」まで

こんばんは。サウナのサチコです。

前回の「広の湯」に引き続きまして、今回も銭湯の中にあるサウナに行ってまいりました。その名も「ふくの湯」。埼玉高速鉄道、川口元郷駅より徒歩で15分くらいのところにあります。

この日は北風がとても強く、風に体を押されたり戻されたりしながら、なんとか「ふくの湯」まで到着しました。うー、寒かった。

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「くの湯」になってますね。「ふくの湯」です。

どこか古い市民会館のような印象ですが、この白い建物すべてが銭湯とサウナになっています。創業は1967年だとか。途中リニューアルもしているようなので、中はとても綺麗です。平日だというのにたくさんのお客さんで賑わっていました。

下足入れに靴を入れたらエレベーターで3階に上がり、券売機で入館料を払います。カウンターには姉妹かと思われるような、女性が二人。お二人ともグレーヘアの痩せ型、上品な方です。

「あら。サウナね。こちらのシステムはご存じですか」

「初めてです」

「それじゃあ、ご案内しますね」

姉妹のうちの姉(私が勝手にそう思っている)が、一緒に脱衣所まで行って、館内を説明してくださいました。お姉さんの説明によると、

「サウナを利用する方はこの階段を上がって、4階の専用ロッカーを使ってくださいね。4階にはロッカーの他に休憩所も付いています。そこで着替えたら階段を降りてきて、この3階にある大浴場へ。(大浴場に入りながら説明は続く)お風呂は奥にジェットバスや打たせ湯なんかもありますよ。サウナは右手、普通のサウナと塩サウナの二つ。サウナに入るときは専用の鍵を使って扉を開けてください。それから反対側に見えるあの石段を上がると、露天風呂もありますよ」

お姉さんの白い手が、説明と一緒に右に左に動きます。

「それじゃあ、ごゆっくり」

そう言って渡されたサウナ利用者専用のロッカーと、サウナの鍵がこれ。

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ロッカーの鍵はいいとして、この白い巨大な厚紙でできた鍵(?)は何でしょう。これでどうやってサウナの重い扉を開けるのか、非常に謎です。


4階のロッカールームは広く、65番から82番までありました。休憩所というだけあって、テーブルが三つと、椅子が二つずつ並んでいます。奥には籐で出来たドレッサーが一つ。その上に3分30円のドライヤーがこれまた一つだけ、ポツンと置かれています。ドレッサーの隣には手を洗うだけの小さな洗面台も。

うーん、何だか旅館の一室というイメージ。サウナ利用者にはちょっとしたプレミア感を出したのかもしれません。一応VIP扱いですね(笑

それを象徴するかのように正面の大きな窓からは、3階の大浴場がすべて見下ろせるようになっています。お風呂に入っている人たちも度々こちらを見上げるので、目が合うと大変気まずい・・・。たった140円の差で、小さな格差社会を経験できます。でも困ったことに、3階の大浴場に行くためには、真っ裸で階段を降りていかねばなりません。VIPなのに・・・。

どうでもいい前置きが長くなりました。


ようやくお風呂へ。

前回の失敗を踏まえて、今回はちゃんとアメニティグッズを持ってまいりました。と言っても、前回の「広の湯」で買ったシャンプーやらが残っていたのでそれを持参しただけですが。ここでもケロリン洗面器とイスを持って洗い場に座り、体を洗いました。それからお風呂に入り、ジェットバスも体験し(下から突き上げるタイプがすごかった。体が浮きます)、温まったところで石段を上がって露天風呂へ。

露天風呂はどこかアパートの屋上という感じがして、楽しかったー。

小さなお風呂が二つあるんですが、日陰になるお風呂の方にはすでにご婦人が二人、入っていらっしゃったので、日向の方のお風呂に入りました。するとなぜご婦人たちが日陰の方に入っていたのかが、すぐにわかりました。私の方は北風がすごいんです。目を開けていられないほど。すぐに隣のお風呂に移ろうかと思いましたが、隣は小さいので三人ではキツそう。何かの修行かと思うほど、私はそのままじっと北風に耐えました。

一方、隣のご婦人たちはおしゃべりに花が咲いています。話題はもっぱら、「野良猫が自宅の庭に入ってきて、おしっこをして困る」というもの。

「猫よけの薬をまいても、やりやがったなと言わんばかりにもっとやらかしていくの。高いのに損したわ」

「レノアがいいらしいわよ」

「え、そうなの?」

レノアってあの柔軟剤でしょうか。被害者は友人の思わぬアドバイスに救われたようで、何度も頷いてました。本当にレノアを庭に撒くつもりなのか、気になります。まあ、とにかく猫の話にはカタがついたようなので、私もそろそろ露天を出ることにしました。


いざ、サウナへ。

ここは確か女性サウナが100度あると聞いていたので、ドキドキワクワクしながら扉の前に立ちました。早速、あの巨大な白い鍵を取り出します。

これです(2度目)

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これでどうやって開くのか。厚紙と見せかけて実は、これをかざしただけでサウナの扉が自動で開くのかもしれません。期待に胸が膨らみます。


衝撃的な事実。

実際はこうでした。サウナの扉には横1センチ、たて5センチほどの穴があり、その隙間にこの白い鍵の先を引っ掛けて、扉を引っ張る・・・!

つまりこの巨大でおかしな形状の鍵は、単に扉を引っ張るだけのものだったのです。1967年からこのシステムなのかなぁ。面白くていいですけど、もうちょっとこの鍵、小さくできないでしょうか。手首につけてるとかなり邪魔です。

さ、肝心のサウナですが、温度計は確かにもう少しで100度というところを指していました。でも、そんなに熱くない。なぜ・・・。

これまで入ったサウナの中では、草加健康センターが一番熱かったのですが、あの熱さ、痛さでも90度でした。おかしいなと思って後ろを振り返ると、隣の塩サウナとの壁が途中までしかありません。こちらのサウナの熱気が塩サウナの方に流れている・・・!

それでそれほど熱さを感じなかったのかと納得しました。まあそれでも90度を超えていますから、8分いるのが限度でした。

水風呂に入ったあと、外気浴をする場所がないので洗い場でぼんやり。でもどこからか風が入り込んできて、結構寒いんです。換気でもしているのか、露天からの風が石段から降りてきているのか・・・。

中にいても、外気浴しているのと変わりませんでした(笑


2セット目。

サウナ室に入ると、今度は先客がいました。

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サチコ、不覚にも足が止まってしまいました。すっかり忘れていたんです。この銭湯が、そういう所であったことを。


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狭いサウナ室で隣に並んで座るのもおかしいので、私は思い切ってその人の前に座りました。


腕にある本気のそれを、その人は私の前で隠すわけでもなく、見せるわけでもなく、じっと同じ姿勢で下を向いたままでいました。そしてそのまま、一度も私の方を見ようとはしませんでした。

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熱さに耐えきれず、先に外に出たのは私の方。


そのあと、4階のロッカーでもう一度その人に会いました。その人は私の後ろで素早く着替えて、髪も乾かさずにそのまま帰っていってしまいました。鏡ごしにこっそり見送りましたが、その後ろ姿に私は驚きました。OLさんにしか見えなかったから。

サウナに二人でいた時も、怖いという気持ちより、どんな人なのか知りたいという気持ちの方が優っていました。それが洋服を来た途端、さらに強まりました。どんな仕事をしているのか、なぜこの時間にサウナに来ているのか、水風呂に入らないのはなぜか、髪を乾かさずにおしゃれしてこれからどこに行くのか。聞けるはずもないのに、聞きたかったと心から思いました。

シナリオを書くようになってから、私の中の常識や価値観が変わって行きました。刺青オーケーの銭湯は広の湯とふくの湯に限らず、全国にはまだいくつもあります。そうしているのには理由があるし、そこに訪れる人にも理由がある。そういうことにとても興味があります。

今回、粘土でその人を作ることにちょっとためらいもありました。私の粘土の人形はどこかふざけてるから。面白半分でその人を取り上げたように皆さんに受け取られたら、それが一番嫌だなと思ったからです。でも今回、一番気になったのはこの人でした。だから、この出会いは絶対書いておかなければ、作っておかなければと思いました。

他人のことばかり見ていて、考えていて、自分が整うことなどすっかり忘れていました。こうして意識をしていない時に整うものなのか、しっかり自分と向き合っている時に整うものなのかはわかりませんが、この日は「整う」どころか、胸の中にモヤモヤしたものを残したまま、帰る時間になってしまいました。

髪を乾かすために10円玉を探していたら、お財布に100円玉しかありません。100円玉を握りしめて階段を降りていったら、階下に姉妹の妹の方(私が勝手にそう思っている)が、待ち構えていました。

「両替?」

「えっ。なぜわかったんですか?」

「感じちゃったの」

感じちゃったの・・・って。

どこかに隠しカメラでもあるんじゃ・・・。


広の湯のドライヤーで慣れたのか、今回は3分で十分乾きました。というかあのドライヤー、絶対3分以上動いてました。VIP仕様だからかな。


滞在時間     2時間

入館料      450円(平日価格)

サウナ      140円

ドライヤー(3分) 30円


帰りにカウンターで売っているシャンプーを見たら、広の湯で売っていたものと同じエッセンシャルでした。こちらはちゃんと値段が書いてあります。

「シャンプー、リンス、ボディソープのセット 140円」

ん? 広の湯では100円だったけど。おそらく広の湯のおばちゃんの計算間違いです。暗算してたから。

帰りも強い北風の中を15分歩きました。駅に着く頃にはサウナで温まった体もすっかり冷えてしまいました。皆さんは川口駅からバスを利用した方がよろしいかと思います。バス停から「ふくの湯」はすぐです。


次回は「湯屋敷孝楽」、この3月16日にリニューアルオープンしたばかりのサウナ施設です。

埼玉県北浦和でお待ちしています。


楽しい3連休を。

サウナのサチコより。

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