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【小説】恋の幻想

ハイハイ、そうですね、そんな風に言ってしまうとそれまでなのに、声に出してしまいそうな自分が居る。

大体自分の方が婚約破棄をして、他の人と付き合って居る時にはここに来ないのに、誰かと恋人になるかもと言うと、問題視するのはおかしい。

きっと怒った顔をしていたんだと思う、裕子さんが真剣な目をしていて、目を合わせるのは辛い。

「恋愛ってさ、好きだったら突き進んでいく気持ちなんだよ、覚悟ある?って言ってんのはそういう話、拾って貰ったから好きに成るって、猫じゃ無いんだから。」そうなんだ、私は猫じゃ無いから、人間だから、良平さんに擦り付けるだけじゃ駄目なんだよね。

「拾われたから好きに為ったんじゃないですよ、こんな穏やかな人知らなかったから、好きに為ったんです、それじゃ駄目なんですか?」何処かの政治家みたいな物言いになってしまった、生まれてからこの方こんな言い方下事無いんだけどな。

「分かった、私時々来るからね、本気を見せてよね。」裕子さんも負けてない、いい他人なんだけど、言葉が矛盾してるんだよね。

「俺の意見は如何なの?俺は裕子とは付き合う気無いし、忍は大事にしたいと思っている、裕子は親族でも無いしね。」良平さんが主張してくれてるのが解る。

「親族では無いけど、他人よりは近いんだよ、私はそう思っている。」裕子さんは兄妹みたいに、恋人みたいに、良平さんが横に居て欲しいんだ。

呆れて言葉は出てこない、自分が放って置いたおもちゃを誰かが拾って遊ぼうとすると、「それ、私のよ。」と言ってのける幼児みたい。

自分はそうは為らないと思うと同時に、羨ましくもあった、婚約までしても嫌だって破棄して、それでもその人は抱きかかえたまま、自分は他の人と恋愛をする。

自由ではっきりした裕子さんに憧れは有る、私がそんな物言いをしたら、誰からも嫌われるだろう、親でさえ自分を守ってはくれなかったのだから。

「余計なお世話なんだよな、裕子って自分は覚悟なんて無いのに、人には言うんだよな。」そう思ったら本当なら、しっかり辞めろと言うだろう。

けれど、言えない雰囲気を裕子さんが纏わせている、お節介だけど本当の言葉が出てくるしね。


「高校生くらいで覚悟を持って恋愛しろって無茶なんだよな。」優しさが手から流れて忍に流れ込めばいい、そう考えながら体に触れる。

きっと男は嫌悪の対象だろうが、肌の暖かさは人の心に近づいてゆく、昔を忘れてしまう時期が来るだろう、そう思った。

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