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【小説】SNSの悪夢

そうだ弁護士が居た、夫の問題だし聞いてみたら良いんだ、お金はどうせ掛かるんだし。

考えたら直ぐに連絡してみる、駄目だったら次を考えなければ為らない、先生の仕事はもう終わっているだろうか?

「もしもし、清水と申します、先だって夫が逮捕されて、お願いした者なんですが。」先生の名前は忘れた、急いでいるんだから良いだろう。

「少々お待ちください。」音楽が流れる、待たされる時には、この音楽が耳に障る、いつもなら気にならない筈なのに。

「もしもし代わりました、どんな御用件ですか、ご主人さんには明日会ってくるつもりです、その後連絡しようと思っていたんですが。」落ち着いた調子で話をする。

「今日SNSで夫の痴漢が話題になっているのを知ったんですが、これは何とかなりませんか?」何とも解かりづらい言葉が出る。

自分でもこれで何がしたいのか解っていない、電話の向こうではどう考えているのだろう。

「SNSですか、それはどうにも為りませんね、止めて欲しいと言うのも一苦労ですよ、本人確定までにお金も時間も掛かります、それに如何するんですか?拡散された情報は消えませんよ。」冷静な対応の言葉を聞いて、やっと頭が冷えてきた。

「今の時点で止めて貰うのは無理でも、損害賠償とかできませんか?」本当の事なら出来ないんだろうか?

「損害賠償は誹謗中傷の類や個人情報の流出、ああ写真でも出来ると思います、どれかに当てはまりますか?」考えてみると、写真も個人情報も無い、夫を知っている人が聞けば、声は彼だろうと言う位だ。

「個人情報でも写真でも無くて、誰かが痴漢をしていた人が捕まった時の声を上げたんです、それが夫の声で。」駄目なのかな。

電話の向こうに沈黙が広がって、その後にフ~と深いため息が聞こえてきた。

「痴漢をしていた人が、警察に捕まった時の音声が流れただけでは、損害賠償には成りません、誰かと特定できるわけじゃ無いんでしょ。」弁護士は冷たく言った。

「でも、夫を知っている人ならだれでも特定出来るんですよ、そんなのを晒されたら、私達は生活できないじゃ無いですか。」ついつい声が大きくなる、しまった、近所に聞こえたかも、そう考えても後の祭りだ。

「でも、知っている人が見れば分かる程度なんですよね、それだと損害賠償は難しいでしょうね、それに今止めようとしてもSNSで流出してしまった物は如何にも為らないんですよ。」困った声が耳に響く。

「解かりました、駄目だって事ですね。」そう言って電話を切った。



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