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【小説】告白から描いた絵

「絵を書いて貰えませんか?」

その頃何でも屋のアルバイトで絵を書いていた自分は、もとより絵は描くつもりだった。

さて何を描くんだろう、そう思って通された部屋には衝立が有って、他には椅子しかない白い部屋だ。

部屋には花の匂いがする、これは本物の花では無く香水か、そう考えながら見渡していた。

あの衝立の中に描くものが有るのだな、そう思って部屋に入ると、衝立に向けて歩き始めた。

「ちょっと待ってください、こっちに来ては困ります。」凛とした声が響いた。

命令口調ではありながら、何処か優しさを湛えた声で、きっと美しい人なんだろうと感じていた。

「じゃあ何を描くんですか、描くのは椅子ですか、衝立ですか?」椅子と衝立しか無い部屋に通された自分は、思わず聞いた。

「描いて頂くものは無いんです、物としてはね。」衝立の向こうから声が響く。

「何を描いたら良いんですか、描くものが無ければ何も描けない。」ここに来たのは、無駄足だったと思いながら、厳しい口調が口を衝く。

何時ものアルバイトの倍の金額を提示されたから、苦学生にはもってこいの仕事だと思って引き受けたが、こんな事になるとは。

「描いて頂くのは、私の姿なんです、あなたの想像の。」衝立の向こうがそう言ってくる。

「はあ。」思わず変な声が出る、想像の姿ですか、どう言えばいいんだろう。

一時考え込んで、それでもここに残って絵を描くのは金になると、椅子に座り直してみた。

「これから、私の人生について話していきます、それを聞いて、あなたに私を描いて貰いたいのです、この部屋でその椅子に座って。」凛とした優しい声が迫ってくる。

考えが有るのだろうが、何処の世界に行っても、絵を描く対象を見せずに描けというのは無謀だ。

「せめて顔の形位は教えてくれませんか、何も解らないのでは。」絵を描けという依頼は多いが、描くものを見ずに描けと云うのは聞いたことが無い。

「目で見える物に対しては何も言えないです、あなたが私の言葉から想像する物を描いて云って下さい、きっとそれが私なのです、どんなに醜くともあなたの描くのが私なのです、外に被っている物では無く。」どうしても見た物を描くのはいけないらしい。

こうなったら、ここで話をして、想像力を広げるのみ、自分は覚悟を決めて、この声の持ち主を見ずに描いてゆくことにした、その人の話だけで。

「じゃあ、ゆっくり聞いてから描いていきましょうか?自分が考えるあなたの姿を。」


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