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ほな参りまひょか

『え。コレいいのかよ』
(かまへんかまへん)
『いや、でも、背徳的タブーというか』
(ほんにお堅いお人やなぁ)

『やっぱ長年つちかった常識が邪魔する。なんせ生まれて65年、一夫一婦制の国で暮らしてきたからね』

(そうどすなぁ。65年いうたら高齢者ですもん。いったん身に沁みついた習慣やから、簡単には手放せまへんな)

『あはは~そう言われちまうと調子狂うね……ここは幽界ゆうかいだから時間はないか。なるほど。たーしかに確かに』

(ご理解お早いことでよろしおすなぁ。ご案内のしがいありますや。ほな参りまひょか)

☆☆☆

こんにちは!
フジミドリです♡

9月17日に再起動リスタートしております私物語わたしものがたりのシーズン4、今日は第三回となります。

このシーズンは幽界見聞録です。

守護しゅご神霊しんれいに導かれた私が、眠りの中で幽界へ遊び、見聞したことをお伝え致します。

体験記エッセイのような幻想小説ファンタジーのような、どちらでもあってどちらでもなくて。

ゆる~くふんわり、穏やかな気持ちでお読み頂ければ嬉しいご縁です。

では早速──

☆☆☆

(あらあらあきまへんな。気の利かん女子おなご堪忍かんにんしとくれやす。これでどないですやろ)

突然、私は和室にいた。
妖艶な着物姿と向かい合う。

彼女は正座で、ふっくらした白い両手を腿の上に重ねていた。豊かな黒髪は結い上げられる。柔らかな笑みに引き込まれそうだ。

つい目を逸らす。自分の体が視野に入った。和服姿でやはり正座している。

え……和服?

☆☆☆

ふと左へ顔を向ければ障子が開け放たれていた。整った庭園は広がる。穏やかな日差し。風が爽やかに吹く──

オレは何をやっているのだ?

柔らかな笑みを前にして、何か言わなければと焦る。だが、適切な言葉は浮かばない。

不意に気づく。

これまで女性と接して、こんな思いに乱されながら、ずっと生きてきたのだ。

☆☆☆

旦那だんなはん、どないしはりました)
『いや。なんというか。うーん……』
(うふふ。遠慮することありまへんえ)
『と言われてもな。どうしたもんか』

(お好きになさったらよろしおす)
『あはは~いざとなるとヘタレだぜ』
(ほな。うちがリードしまひょか)
『ちょっと待ってくれ。心の準備が……』

☆☆☆

スッと彼女が手を挙げて横へ流す。

私から見て右側の障子は音も無く開いた。薄暗い奥に寝具が用意されている。

面倒な手続きはいらない。肉体の世界と違うのだ。欲望のまま過ごせばいいじゃないか。

そんな思いが湧き起こる。

すると、私は寝屋ねやの中にいた。

☆☆☆

中真から熱い流れがほとばしる。

手足の指先にまで、震えるような熱さは染み渡っていく。

力強い野生がみなぎった。体の芯から込み上げてくる。力強くそして心地よい。

私は精力いのちの流れそのものだった。

言葉も思いもない。道徳的な観念など消え去ってしまう。ただ溢れ出る流れだった。

☆☆☆

(ああ。旦那はんでいっぱいや)
『オレも包み込まれて……心地よい』
(旦那はんも。ほんま。嬉しい)
『うん。満たされた。若返る』

(ああもう、飛んでまう)
『そうか。女がイクって……』
(芯からびりびりどすわ)
『何もかも吹っ飛っじまう』

☆☆☆

ここは幽界──

時のない次元
永遠の今

私の幽体ゆうたいは波動として漂うだけ。

当然のことであるが、幽界での交わりには、肉体の重さが感じられなかった。

ああ……そうか。

これまで経験した交わりは、いつも何か欠けている、そんな思いが消せないでいた。

どれほど心地よくどれほど愛おしくどれほど満ち足りても、時と共に消えていく。

だから求めてしまう
失われた何かを

それが何であるか気づけなかった。

☆☆☆

『若い頃はギンギンっつうかね。つい女の子に目がいっちまったもんだよ』

(あらま。そないなことを。いやどすわぁ。ほんまになぁ。うふふ)

『ところがさ~この歳になると、何を見てもシーンとしちゃってね』

(そらあきまへんな。まだまだ老け込むお歳やおまへんやろ。しっかりしとくんなはれ)

『やっぱり精力っていうか、生きようとする元気そのものが枯れちまってんだろうよ』

(けぇど、さっきの旦那はん、なかなかどうして……うち、ぞくぞくしましたわ)

☆☆☆

満ち足りていた。

これが真の融合まじわりだろうか。何の憂いも感じられない。ただ心地よかった。

このままでよい──

もう既に得ているのだ。

生まれてから、ずっと探し続けた何かは、初めから自分の中いまここにあった。

自分の中にあるから外へ探す。

あれは違うこれが近い。あと一息。そう感じるのは、求めている何かの正体を知っているという証拠あかしなのだ。

もう探す必要はない。

☆☆☆

『また来るよ』
(嬉しおすなぁ)
『楽しみに生きるさ』
(お待ちしておりますえ)



イラストは朔川揺さん💖

☆☆☆

お読み頂き、ありがとうございます!
次回の私物語は10月8日午後3時です。

そして、今週の木曜朝8時にはイラスト担当の揺さんと創作談話お届け致します。

是非いらして下さい♡

ではまた💚



ありがとうございます🎊