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種をまく。そして育てる。

私が結婚してから暮らし始めた地区は、移住者が地区全体の半分を占めており、移住者のほとんどは農業をやりたくて来ている。(ちなみに夫も大阪からの移住者だが、農業ではなく林業を営んでいる。)

私はというと、たまたま結婚した相手が山奥に住んでいたというだけで農業には興味がない。

小学生の頃のケガが原因で腰椎が変形しており、激しい運動や体を曲げたり反ったりすると、動けなくなり1週間は寝込んでしまう。

そもそも長時間、中腰での農作業は無理なのだ。

それでも結婚したばかりの頃は、ご近所の方が家庭菜園用の場所を貸してくださり、仕事の合間にぼちぼちやってみたりもした。

ところが、初めての収穫間際にカラスにやられ、育てていた野菜が全滅し、やる気が0になり、ほったらかしにしていた。

当然、畑は荒れ放題になり、場所を貸してくださった方にお叱りを受けた。

そんな時、ある農法を知った。

植える場所を決めずに野菜の種をまくだけで、雑草取りもしない、肥料も水もやらないという農法だ。

「これは、(ズボラな)私にぴったりの農法じゃないか!!」

と、やってみようと思った。

ここは農業のプロがたくさんいる地区だ。相談する相手もたくさんいた。この農法を何人かに相談したが、ほとんど全員この農法を知っていた。

相談した相手全員にまず最初に言われたのは、

「さや玉さん、雑草と野菜の芽の区別は出来ますか?」

だった。

本やネットでは何もしなくていいと書いてはあったが、ほんとに何もしないと収穫はまず望めないそうだ。

野菜は長年、人の手によって守られて育つように開発されてきた。そのため、特に小さな芽のうちは雑草の生命力に負けてしまい、まず育たない。

だから野菜の芽が出てきたばかりの頃は、周りの雑草を抜いてやったり、必要ならば肥料や水もあげた方がいいそうだ。

その時、重要なのは雑草と野菜の芽の区別がつくかどうかだという。

確かに、せっかく生えてきた野菜の芽を雑草だと思って抜いてしまったり、雑草に肥料や水をあげたりしては意味がない。

もちろん農業に興味がない私には野菜の芽と雑草の区別など出来るはずがなく、この農法をやるのは諦めた。

畑を貸して下さった方には丁重にお詫びをして、私の短い家庭菜園生活は幕を閉じた。

今は、大阪でバリバリ働いていた夫が、移住20年目のアラ還になってから家庭菜園に目覚め、茄子やらトマトやら育ててくれている。もちろん種や苗を植える場所を決め、雑草を取り、肥料や水も与える普通のやり方だ。(無農薬にはこだわっている。)

種をまくだけでほったらかしにしていてはなかなか育たない。

これって人を育てることにも同じことが言えるのではないか。

娘が思春期を迎え、彼女なりに色々大変なことがあるようだ。

私は娘に覆いかぶさってくる雑草を抜いてやれているだろうか。肥料や水を適正な量与えてやれているだろうか。

夫にはどうだろう。

私より一回り近く年上なので、育ててもらっている感はすごく感じる。もうアラフィフの私をまだ何もできない子供のように思っているようだ。覆いかぶさってくる雑草を取り、肥料と水を存分に与えてくれているように感じる。

そんな夫に、私は何かの種をまき、育てるということが出来ているだろうか。

今度聴いてみよう。

私自身にはどうだろう。

私は自分の中に何かの種をまき、肥料や水を与え、周りの雑草を抜いてやるという作業が出来ているだろうか。

種をまくということは案外簡単に出来るかもしれないが、育てるということの方が難しい。

自分にも誰かにも、種をまくだけでほったらかしにせずに育てていける人でありたいと思う。




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