見出し画像

【マウント】第3話「開始」

これは「チャット小説」として書いたものです。
そのためセリフ以外の感情等の表現を極力簡潔にしてあります。
セリフをもとに想像してお読みください(*vωv)


 翌日、登校したユキノの机の上に、花瓶に飾られた花が置いてあった。


ユキノ(早速来ましたか…)


 教室では同級生たちが花を見てザワザワしていた。
 ユキノは何食わぬ顔で花瓶を窓際の棚に移して、席につく。


事情を知らない同級生「ユキノ…あの花…」
ユキノ「どなたか知りませんが、奇麗な花をプレゼントしてくださったようですね。
 でもここに置いてたら私が授業を受けられないので移動させていただきました。
 いけませんでしたか?」


 ニッコリ笑うユキノに同級生たちは困惑する。


事情を知らない同級生「ユキノさん、机に花置かれる意味わかんないのかな?」
事情を知らない同級生「風紀委員長のユキノだよ!?知らないわけないと思うんだけど…」
事情を知らない同級生「ていうか誰がこんなことを…」


 物陰から犯人が舌打ちしていた


犯人(こんなんじゃダメだわ…)


 犯人はトイレに駆け込み
 マサキ推しスレッドに書き込む


 『シーザーサラダ3個』


 そしてその後に『ムレジ リコフホ』と書かれる。

 ローカルルールで私刑が行われる際
 そのスレッドで私刑の相談はできない。
 エスカレートすると私刑内容が犯罪に抵触することもある。
 実際行われなくてもヤバいワードを書き込んだだけでアウトだ。

 そうなると書き込んだ人は管理人から制裁を受けるし
 大事なスレッドそのものも消されてしまう。

 そのため私刑人たちは連絡用の避難所をあらかじめ決めている。

 シーザーサラダ3個は「シーザー暗号で3つずらすこと」を意味していた。
 シーザー暗号とは辞書順に特定の数だけ後ろ(または前)にある文字と置き換える簡単な暗号だ。
 「ムレジ リコフホ」を50音表で3文字ずらすと「ホラゲ ユキノヒ」になる。

 マサキ推しスレの私刑人は「ゲーム攻略スレ ホラゲ「雪の日」」のスレッドに移動する。
 ホラーゲームの攻略を装って作られた架空ゲームのスレッドだった。
 ホラーゲームの攻略なら残虐なワードを書き込んでも不自然さがないからだ。

 避難所はスレごとにコアな住人によって決められているので
 そのスレのコアな住人しか知らない。
 そのため標的には分からないことが多い。
 もっとも標的にバレても問題はない。
 あくまで「ゲームの攻略」なのだから、掲示板的にはOKだし
 私刑内容を事前に知ったからと言って「いつどこで」がわからなければ防ぎようがない。

 避難所である架空ゲームスレには


『葬式ごっこ 効果なし』


 と、さっそく書き込まれた。

 すぐに次の人が書き込む


『デスクアート』


 その書き込みを見て犯人はニヤッとする



 3時限目、移動教室から帰ってくると
 ユキノの机に油性ペンで落書きがされていた。


事情を知らない同級生「なにこれ…」
事情を知らない同級生「泥棒猫 淫行風紀委員 風紀を乱すな! クソ女…ひでえ…」


 ユキノは机の落書を指でこすると
 ため息をついて机に群がっている無関係の同級生に言う。


ユキノ「すみません。どうやら油性ペンで書いているようなのでシンナーで拭きます。
 換気しますが、においがするので離れてください。」


 掃除用具庫から落書掃除用シンナーを取り出すと
 ユキノはマスクをして手早く落書きを消す。
 落書は壁などにもよくされることなので安全性に配慮した掃除用のものが用意されていた。
 ふき取り用の使い捨てシートでさらに拭き、それをビニール袋に入れて捨てる。
 シンナー臭が消えたのを確認すると
 マスクを外してみんなに言う。


ユキノ「お騒がせしました。ご迷惑をおかけしてすみません。」


 何事もなかったようにユキノは席につく。


事情を知らない同級生「ユキノさん…あの…なんか困ってることない?」
ユキノ「何もありません。お騒がせして申し訳ありません
 (無関係な人を巻き込むわけにいかない…それにここに犯人が居ないとも限らない)」
事情を知らない同級生「そんなのどうでもいいよ!これって…」
ユキノ「こんな落書き子供のいたずらです。
 高校生にもなってこんなことをする人は恥ずかしい人ですよね。」
マサキ(おいおい、挑発すんなよ!)


 マサキは遠巻きにユキノの様子を見ていたが心配になってくる。

 犯人は廊下の窓越しにその様子を見ていた。
 犯人はトイレに行き掲示板に書き込む。


『落書き 効果なし』
『子供のいたずら。高校生が恥ずかしいとか言ってた』


 次の人の文章が書き込まれる


『裸足 実行』




 放課後、風紀委員室


マサキ「ユキノ!」
ユキノ「いらっしゃい。」
マサキ「この程度は予想してた範囲だと思う…でも挑発するようなことは言うな!」
ユキノ「私の身体に直接危害が加われたわけじゃありません。大したことじゃ…」
マサキ「エスカレートするって言ってんだよ!」
ユキノ「その時は守ってくれるんでしょ?」
マサキ「…ああ…守るよ。一緒に帰ろう」
ユキノ「…その方が挑発だと思いますけど…」
マサキ「近くに居ねえと守れねえよ!」
ユキノ「まあ…しかたないですね」


 下校しようとすると、ユキノの下駄箱の外履きがなくなっていた。


ユキノ「ふう…古典的なことが好きな人たちですね」
マサキ「…犯人の姿が見えないことばっかりだな…」
ユキノ「痛んできたんで新しい外履きにしようと思っていたところです。
 ただで処分してくださってありがたいじゃないですか。」
マサキ「強がるな」
ユキノ「…内履きで帰ればいいだけです。くだらない。帰りましょう」


 マサキと一緒に下校するユキノを見て
 ユキノの外履きを持った犯人は外履きをぞうきんを絞るように握りつぶし
 焼却炉に放り込んだ。

 家に帰った犯人は掲示板に書き込む


『裸足 効果なし』
『内履きのままMと下校した』


 返信がいくつもつく。


『Yゆるせない』
『調子に乗りすぎ』


 Yはユキノ、Mはマサキのことだ。
 そして次の私刑内容が書き込まれる


『ゴミ箱』




 翌日、ユキノの下駄箱と机にはゴミが詰められていた。
 さすがに同級生も連日のユキノへのいたずらに不安の色を見せる


事情を知らない同級生「あれって…イジメだよね?」
事情を知らない同級生「風紀委員長だからって、結構威張ってたもんね…」
事情を知らない同級生「つまんないことでいちいち周囲してきてうざかった。」
事情を知らない同級生「でも…イジメされるほど…?」
事情を知らない同級生「どっちにしろ関わらない方がいいよ」
事情を知らない同級生「とばっちり受けるのはゴメンだよ!」


 ひそひそと遠巻きに話すのが聞こえる。


ユキノ(そうですよね…イジメの雰囲気があっても見て見ぬふり…
 冷たいんじゃなく…自己防衛のため…
 そして被害者は孤立していく…単純な図式…)


 独りでゴミを片付けながらユキノは思う。


ユキノ(ここまでの攻撃は犯人の姿が見えない…
 もしかしたら私の自作自演かもしれないという可能性さえある。
 そう思ってる人もいるかもしれない…
 「姿なき犯人」では犯人を捕まえられない…なすすべがない…
 みんな自分が下手にかかわって
 とばっちりで被害者になるのを恐れてる。
 当たり前の自己防衛…
 関わらないという選択をするみんなを私は責められない…
 これがイジメがなくならない理由の一つでもあるんですね…)


 孤立したユキノを見て、犯人はほくそ笑む。
 トイレに行って掲示板に書き込む。


『ゴミ箱攻撃 Y孤立』


 すぐにまた次の私刑計画が書き込まれる
 犯人はにやにやしながらそれを見ていた。




 移動教室の後、教室に戻ると
 ユキノの机の中にあった教科書やノートがビリビリに破かれていた。


事情を知らない同級生「やっば…」
事情を知らない同級生「確定だね…」
事情を知らない同級生「移動教室の間にやられてるってことは違うクラスの子だね…」


 ユキノは破かれた教科書やノートを集めてゴミ袋へ入れる。


ユキノ「…次の授業でどなたか教科書を見せていただけませんか?」


 ひそひそするだけで同級生はユキノを無視する。


ユキノ(やっぱり…下手に関わってとばっちりを食うのが怖いのですね…)


 同級生の私刑メンバーはその様子を見て内心大笑いしている。
 と、


マサキ「俺が貸すよ」


 マサキが名乗り出る。
 マサキはユキノの隣の席の子に言う。


マサキ「彼女に教科書を貸さないなら、席代わってくれる?」
ユキノの隣の席の子「あ、うん…」


 隣同士で1つの教科書を見合うユキノとマサキに
 同級生の私刑メンバーの子はギリギリと憎しみを募らせる。


犯人(なにこれ…これじゃ逆効果じゃない!
 てか、マサキ君イケメン過ぎる…
 みんな無視してるのにこんなに堂々と貸すって名乗りあげるなんて…
 やっぱ素敵…大好き…
 ってそうじゃないのよ!これじゃダメ!)


 いつものようにトイレに行って書き込む。


『引き裂き 失敗』
『Mが貸して隣になった』


 その書き込みを見て私刑メンバーはヒートアップする


『M君男前!』
『やっぱM君優しい!』
『かっこよすぎ!』
『でもそんな彼の優しさにつけこんで仲良くなるのは許せない』
『噂流す?Mを誘惑してエッチしてるとか』
『嘘噂でもそんなのヤダ!』
『クソY…』
『もっとすごいことしないと』


 すると次の私刑内容が書き込まれる。
 それは恐ろしい3文字だった。


『燃やす』


<第4話に続く>





いただいたサポートは活動費に使わせていただきます! ハートやフォローも制作のエネルギーになります! 読んでくださってありがとうございます(*'ー')