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【マウント】第1話「じょしうら」

これは「チャット小説」として書いたものです。
そのためセリフ以外の感情等の表現を極力簡潔にしてあります。
セリフをもとに想像してお読みください(*vωv)

 太い黒縁の眼鏡をかけて長い髪を後ろで1本に束ねている女子がスマホでメールを打つ。

ユキノ『分かりました。許可をありがとうございます。』

 彼女はそう送信するとスマホを消す。

ユキノ「風紀委員長として…必ず私がこの犯罪をやめさせてやる!」



 学園一のイケメン:マサキは視線を感じて振り向く。
 女生徒がこちらを見て居る。
 微笑見返すと女子生徒が黄色い声をあげた。

 マサキは颯爽と校舎の裏へ歩いていく。
 こっそりその後をつけるユキノ

ユキノ(壁に手をついて…何かつぶやいてる?)
マサキ「俺はモテる…なのに…なんで誰も告白してこないんだ!」
ユキノ(はぁ!?)
マサキ「もう高校生だぞ!?16年間遠巻きにキャッキャされるだけ…
 告白されたい…!告白されて「モテる人間だってことを証明」したいのに…!」
ユキノ(…………アホだわ)


 マサキが教室に帰って悶々としているところへ、ユキノが歩み寄る。

マサキ(?風紀委員長のユキノ…なんだ?違反なんかしてねーぞ?)


 ユキノはマサキの机にそっと手紙を置いた。
 その手紙には「放課後風紀委員室に来て」の文字。

マサキ(「告白」きたー!)


 興奮を抑え、あくまでクールなふりをして机に向かう。

マサキ(ユキノか…えーと…風紀委員長で、真面目な堅物…
 風紀委員なんて立候補がいなけりゃクラスから勝手に一人選ばれる
 ダルくて誰も実質やってない役割なのに
 あいつ一人で制服の乱れとか注意してまわってる…
 よく言えば責任感が強いんだろうけど…めんどくせえ女に惚れられたな…
 まあでも人を好きになるのは止められねえよな…グフフフ)


 手紙を見てにやつくマサキを見てユキノは思う。

ユキノ(…………アホだわ…………)




 放課後
 マサキは内心の興奮を必死に抑えながら風紀委員室に行く。

  カチャ

 開けるとそこにはユキノが居た。


ユキノ「来てくださってありがとうございます。マサキさん」
マサキ「(目いっぱいクールにキメて…)こんな手紙くれるなんて…なにかな?」
ユキノ「扉を閉めてくれますか?」
マサキ「お、おう…」


  ガチャ


マサキ(二人きりの教室で…か。真面目なだけの女かと思ってたけど、なかなか演出してくるじゃねえか。)
ユキノ「あなた…『じょしうら』って知ってますか?」
マサキ「へ?じょしうら?(なにそれ?つか告白は?)」
ユキノ「これです!」


 ユキノはケータイを取り出し画面を見せた。


マサキ「掲示板…?」
ユキノ「いわゆる学校裏サイト…の女子専用版です。このスレッドを見てください。」
マサキ「『マサキ推し』…!?」


 ユキノがそのスレッドを開くと、そこには彼の隠し撮り写真がズラリ。


マサキ「俺の写真がいっぱい!!!!(かっこよく撮れてる♪)」
ユキノ「『隠し撮り』です…」
マサキ「え…ちょ…トイレに言った回数とかも書かれてんの!?」
ユキノ「ええ…何分何秒かかったとかも…」
マサキ「誰と話したとか…すげえな…」
ユキノ「あなた…これを見てどう思います…?」
マサキ「え…俺ってモテてるんだなーって…いや!ちがくて!
 ちょ、ちょっとトイレの時間まで情報共有されるのはいやだな…」
ユキノ「そう…これはもはや…集団ストーキングです!」
マサキ「!?」
ユキノ「あなたのせいで学校で犯罪行為が行われているんです!」
マサキ「はあ!?」

ユキノ「これを撮ったのはあなたのファンたちです!匿名掲示板だからもうやりたい放題!」
マサキ「いや、それはやってる奴らが悪いんであって…俺にどうしろって…」
ユキノ「嫌われなさい!」
マサキ「は!?」
ユキノ「頭を丸めなさい。不潔にするのもいいですね。」
マサキ「待て待て待て!」
ユキノ「あなたが女生徒に嫌われれば盗撮なんて誰もしなくなります!
 犯罪撲滅のために協力してください!」

マサキ「…あのさあ…あんたの意見って…
 殺人事件が起きたから凶器の包丁売った店が悪い!
 って言ってんのと同じじゃね…?」
ユキノ「ぐ…でも、みんなあなたのことばかり…
 そうだわ…あなたに特定のカノジョが居ないから悪いのよ!
 特定のカノジョが居ればみんな諦めるわ!多分!」
マサキ「はぁ…(ダメだ…なんかネジが飛んでる…)」
ユキノ「誰でもいいからカノジョ作りなさい!
 モテるんなら簡単でしょ!?」
マサキ(この女…なんかムカついてきた…)

マサキ「…わかった。カノジョ作るわ」
ユキノ「そう。早くしてくださいね。」
マサキ「ああ。俺のカノジョになるのは… あんただ」

ユキノ「そうで…………はあ!?」
マサキ「俺にカノジョが居ればいいんだろ?
 ならあんたがなればいい。
 提案したのはあんただぜ?」
ユキノ「す、好きでもない人と付き合えません!」
マサキ「俺もだ。
 好きでもないやつとは付き合えねえ。
 それでもあんたは『誰でもいいからカノジョ作れ』っていうのか?」
ユキノ「それは…
 だ、誰でもいいから…好きな人と付き合いなさいって意味です!」
マサキ「好きな人なんて居ないんだからしょうがないだろ!」
ユキノ「なんで居ないんです!」
マサキ「知るか!」

ユキノ「と、とにかく!私はあなたと付き合えません!
 私は風紀委員長として学校の規律を守る責任があるだけです!
 私はそんな都合のいいカノジョ役にはなりません!」
マサキ「そうだよな?
 あんたは『じょしうら』の問題を解決したいだけだもんな?」
ユキノ「そ、そうです…だから色々提案して…」

マサキ「さっきからあんたの言ってることはめちゃくちゃだ!
 責任だのなんだの言って自分はそれを他人に押し付けてるだけじゃねえか!」
ユキノ「!」
マサキ「風紀委員長なら、責任もって誰にも迷惑かけないで解決してみろよ!
 他の女子たちにも、俺にも、誰にもだ!」
ユキノ「責任…………」
マサキ(まったく…テキトーばっかこきやがって…こんな奴と誰が付き合うかよ。
 お前も嫌だろ?
 さっさとアホ理論ひっこめて別な方向から勝手に解決しやがれ。)

ユキノ「…わかりました…………あなたのカノジョになります。」
マサキ「ふうん。…え!?」

ユキノ「これが私の責任の取り方です!
 あなたは私にカノジョになれと言いました!
 私はカノジョを作れと言いました!
 お互い自分の発言への責任を取りましょう!」
マサキ(マジかよ…ズレてるとは思ってたけど…
 それであんたはいいのかよ…クソ…)
マサキ「そうだな…
 俺もあんたにカノジョになれって言ったもんな…分かったよ。
 今からあんたは俺のカノジョだ!」


 マサキはユキノの手を取ると裏庭に行く。


マサキ「ここは見せてもらった写真でよく撮られてた場所だ…ここなら誰かが撮るだろう…」
ユキノ「?」
マサキ「カノジョの証明写真を撮ってもらうんだよ。」


 マサキはユキノにキスする。


ユキノ「!!!!!!」


 いくつものシャッター音が聞こえる。


ユキノ「な、なにするの!」
マサキ「あんたは俺のカノジョなんだから、キスくらいしてもおかしくないだろ?」
ユキノ「サイテー!」


 ユキノは走って逃げて行った。
 泣いていたように見えた。


マサキ(…なんで俺が悪いことした気分にならなきゃなんねえんだよ…あいつが言い出したことじゃねえか…
 でも…ファーストキスだったな…あいつも…多分そうなんだろうな…真面目な奴だし…
 頭にきてて…売り言葉に買い言葉で…勢いでキスなんて…………やりすぎた…)


 マサキが罪悪感に後悔していたが
 その瞬間の『じょしうら』は
 彼らのキスシーン写真で埋め尽くされていた。




 その夜、ユキノの自宅 ユキノの部屋

 ユキノは涙を拭いながら自分の行動に後悔していた。


ユキノ(私は…なぜあんなことを言ってしまったのだろう。
 なぜあんなことを受け入れてしまったのだろう。
 なぜあんなことをさせてしまったのだろう。
 大切なファーストキスをあんなアホに…いや、そんなことより…)


 彼女は自分の携帯を見ると、『じょしうら』を見た。
 そこには、彼とのキスシーン写真が何枚も掲載されていた。


ユキノ「コ、コメント欄が…」

『これどういうこと!?』
『付き合ってんの!?』
『なんでこいつなの!?』
『風紀委員長のくせに風紀乱しまくり!』
『サイテー女!』

ユキノ(これが私の責任…?
 私はこれが誰にも迷惑をかけない方法だと思った…
 だから嫌だったけど…………
 でも…これは…こんなの…)


 ユキノは携帯を投げ捨てると、枕に顔を埋めて泣き出した。

 一方、マサキも自分の部屋に帰っていた。


マサキ(あーあ…なんであんなことを言っちまったのだろう。
 なぜあんなことしちまったのだろう。)


 彼も自分の携帯を見る


マサキ(『じょしうら』のサイト…
 アドレスとパス、聞いとけばよかった…
 シャッター音が聞こえてた…
 きっとキスシーンの写真を撮られてる。載せられてるよな…)

マサキ「確かめたいけど確かめらんねえ!」

マサキ(…もし載ってたら…ユキノはどう思っただろう…
 あいつ…泣いてたよな…ファーストキス(多分)奪われて泣いてたんだと思うけど…
 写真載せられて…どう思ってんだろ…)


 彼も携帯を投げ捨てると、ベッドに寝転がって溜息をついた。




 <翌日>

 翌日、学校に行くと、二人は周囲の女子から注目される。
 冷ややかな視線やひそひそ噂する声。
 男子生徒はその女子たちの異様な行動に困惑し
 あれこれ想像してまた噂していた。


マサキ「ユキノ…」


 マサキはユキノに話しかけようとしたが
 彼女は無言で立ち去ってしまった。
 去り際に見えた暗く沈んだ顔に罪悪感が増す。


マサキ(そうだ…委員長は放課後きっとあそこへ行く。)


マサキは職員室へ行く。




 <放課後 風紀委員室>

 ユキノが風紀委員室のドアを開ける。
 ガチャ…
 そこにはなぜかマサキが。


ユキノ「!! なんで…あなたがここに居るの」
マサキ「先生に言って鍵借りた。委員長に借りるように言われたって言って。」
ユキノ「ここに入っていいのは風紀委員だけです!出て行ってください!」
マサキ「嫌だ。お前と…話がしたくてわざわざ来たんだ」
ユキノ「嘘ついて鍵借りてくるような人と話すことはありません!」
マサキ「いいから聞け!」


 声を荒げるマサキにユキノはビクッとする。


マサキ「『じょしうら』を見せてくれ。」
ユキノ「…嫌です」
マサキ「責任の結果を見るのも責任だ」


 「責任」という言葉を剣にして委員長に突きつけるマサキ。
 ユキノはしぶしぶ『じょしうら」を開いてケータイを貸す。


マサキ「…やっぱり、こうなってたか…
 これがお前の責任の結果だ。
 お前はこれで誰にも迷惑をかけないで済んだと思ってたんだろ?
 でも、これは…お前が思った結果か?
 これは他のだれかでも同じ結果になったんじゃないか?
 そこまで考えて『カノジョを作りなさい』って言ったのか?」


 マサキはユキノの顔を見ると、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
 言葉に詰まる。



マサキ(う…なんだよ…俺はお前に怒りたいんだ…
 お前が言い出したことじゃねえか…
 でも…こんな風に泣かせるつもりは…)

ユキノ「ごめんなさい…ごめんなさい…
 私は『じょしうら』の問題を解決したかっただけなんです…」
マサキ「わかってるよ」


 マサキはユキノの涙をぬぐう。


マサキ「…キスなんてして悪かった…やりすぎた。反省してる。
 俺は…勝手なことばっか言われてカッとなってた…言い訳する気はない。
 一発思いっきりビンタしてくれ。
 それで別れよう。」

ユキノ「…は?」
マサキ「お前は今、俺のカノジョだけど、『付き合ってる奴が喧嘩別れ。』よくある話じゃん。
 無理やりキスした。ってのは十分あんたが怒って別れる理由になる。」

ユキノ「…たった一日のカノジョですか…」
マサキ「そうだな。そういうのも居るだろ。」
ユキノ「…………」
マサキ「まあ…ちょっともったいなかったけどな…」
ユキノ「…?」
マサキ「もっと違う出会い方してたら違ったのかなってさ…」
ユキノ「…………」

マサキ「あんたは変な責任感持ってて、妙に強気で、明後日の方向に突っ走って…
 めんどくせーし変な女だよ。
 でも、それがお前だ。
 そんなふうに泣いてるお前はお前じゃねえよ。
 強気でぶん殴って『クズ!だからあなたには本物のカノジョができないのよ!』とか言って怒れ。
 そのうちそんなこと言えねーくらいいい男になって
 ちゃんと『したくてするキス』できるようになってやるよ。」

ユキノ「…………それはどういう意味ですか…………」
マサキ「お前は俺のこと、少なくとも好きじゃねえだろ?
 いつかお前が惚れるような男になってみせるって言ってんの。」
ユキノ「…………」
マサキ「言っとくけどアレ
 俺のファーストキスだからな?」
ユキノ「…………私もです。」
マサキ「お互い最悪な思い出作っちまったな。」
ユキノ「ホントですよ…………

ユキノ「でも最悪ってことは…………
 これ以上、下はないってことですよね?」
マサキ「…………まあ…そうだな」

ユキノ「私、あなたのカノジョをやめません!」
マサキ「は?」

ユキノ「無理やりキスするようなサイテー男のカノジョやります。
 どんな罵詈雑言を受けても構いません。
 私はもう泣きません!
 ビンタもしません!
 あなたの思い通りになんかなりません!」

マサキ「なんで…」
ユキノ「あなたと別れたら、あなたはそのうち別なカノジョを作るでしょ?
 あなたなんかと付き合ったらその彼女は泣きます!」
マサキ「すっげー変な決めつけされてるけど…だから…カノジョ続けるってのか?」
ユキノ「あなただって私のことを好きでもなんでもないんでしょ!?
 いいですよ。好きにさせてみせます!」

マサキ(こいつ…ズレてるとは思ってたけど…ハンパねえな…
 ハンパなく…強ぇじゃねえか…)

ユキノ「お互いどっちが先に惚れるか勝負しようじゃないですか!」
マサキ「おもしれえ。望むところだ!」


<第2話へ続く>





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