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【万葉集】新しき(巻二十・四五一六 大伴家持)

新(あらた)しき年の始(はじめ)の初春の
今日ふる雪のいや重(し)け吉事(よごと)
(巻二十・四五一六 大伴家持)

【解釈】

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新しい年の始めがやってきた。
初春の今日、どんどん降りつもっていく雪のように、良いことがたくさん重なりますように。

新しい年を迎えるにあたり何を題材にするかと考えたら、この歌をおいてはないように思います。

作者は大伴家持。元日の祝宴の中で詠まれた歌であると言われています。

お正月に雪が降った年は豊作になると言い伝えられていた時代、縁起の良い雪が降りつもる様子を見て作ったのでしょう。

「の」が重なるリズム感が心地よく、おめでたい雰囲気が楽しい歌です。
現代の作法では「の」が重なるのはあまり良い文とはされないけれど、この歌の響きはなかなかステキです。

この歌の特徴といえば、やはり万葉集の一番最後、大トリを飾っているという点でしょうか。

全20巻、4,516首もおさめられた古くて壮大な歌集は、この歌を最後にパタっと終わってしまうのです。

万葉集のトリにしては若干タッチが軽いのではないかしら、なんて学生時代には思っていました。ノリが良くてパーティ感はあるけれど、重厚さや優雅さに欠けるような気がしたのです。

作者である大伴家持は、万葉集の編纂に深く関わったとされる人物です。

最後の歌が大伴家持作であっても不思議はないけれど、この歌でなくてもよかったのではないかな、なんて思っていました。

しかし自分も年をとって改めてこの歌を目にすると、少し印象は変わります。

元日の夜、音もなく降りつもる雪。
今年も穏やかで、幸せでありますように。良いことがたくさん重なりますように。

新しい年だけでなく永遠に続いていく時間というものを想起させます。そして祝い歌というより、静かな祈りのようにも思います。

万葉集という歌集がずっと残りずっと愛され続けるようにと祈るような、そんな思いがあったのかな。

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