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労働基準関係法制研究会

「労働基準関係法制研究会」は「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて開設された厚生労総省(労働基準局)有識者会議。


第4回 労働基準関係法制研究会

明日(2024年3月18日)開催される第4回「労働基準関係法制研究会」資料が厚生労働省の公式サイトに公開されている。この資料には労使コミュニケーションと過半数代表などに関する有識者意見がまとめられ、強い関心をもって読まさせていただいた。

労使コミュニケーションについて(抜粋)
第1回研究会でのご意見まとめ(労使コミュニケーション関係)
(1)集団的・個別的労使コミュニケーションの意義等
・健康経営、従業員のウェルビーイング向上の観点から時間管理・健康管理の仕組みがしっかり実施され、労働組合もモニタリングしているような企業である場合に、そこにデロゲーションを認める余地はあるのかという問題がある。(石﨑構成員)
・調査結果によれば、制度変更等におけるヒアリングでは、5割弱の企業が役員から意見を聴いているにもかかわらず、4分の1程度の企業しか労働者から意見を聴いていない。当事者は労働者であるので、会社が制度を作るとはいえ、労使コミュニケーションが不足しているのではないか。(黒田構成員)
・労働条件を確保するために集団的労使コミュニケーションの役割が重要であるとともに、マイノリティや支援を必要とする者の意見を聞くためには集団が適正にくみ取るというやり方のほか、個別の労使コミュニケーションも重要である。(水島構成員)
・労使が関わる手続きについて、労働協約方式も、今後選択肢のひとつとして考えることが重要である。(水町構成員)
・労使コミュニケーションとして、モニタリングやデロゲーション等の様々な機能があるが、どこにどういった問題があるのかという視点で検討が必要である。ま た、集団的な労使コミュニケーションと、個別の多様な労働者の利害とをどう集約して反映させていくかという点は、多様化と集団的規制の調整という観点から重要であるが、法律でどのように規律していくかが難しい。(山川構成員)
・働き方が多様化し一律の規制が妥当しなくなってきた中で、多様な現場に合わせるため、各国では法律の基準を労使の合意によって柔軟化させるデロゲーションといった仕組みが採用されており、日本では過半数代表との合意でできるとしている。これが公正に運用されているのか、国の設定する法規範をどう現場に合わ せていくかという論点がある。発想の視点を個人に置き、個人がどう働きたいかサポートしていくことが今後の労働施策として重要である。(荒木座長)

(2)過半数代表者のあり方
・特に過半数代表者が多様な働き手の利害を上手く代表できているのかが課題である。規制解除のための存在だったと思うが、実際には労働条件設定についても深く関わる役割を担うようになってきており、制度として適格かということを考えたい。(神吉構成員)
・過半数代表制を法制としてどのようにしていくかがメインの課題であり、意見集約の役割を果たすために必要な前提条件の基盤を整える必要がある。例えば、労働法制を理解し、意見の取りまとめ方を学べる、人材を育てられる環境を整備すべきである。(石﨑構成員)
・過半数代表者については、労働組合と異なり、プロセスが保障されていない中で、例えば、過半数代表者が問題意識を持っており協定の締結について使用者と 対立したとき、使用者が36協定を締結するために任期中に過半数代表者の改選手続きをするといった状況も聞いたことがある。任期を定めることが適当かも含 め、プロセスの在り方についても検討が必要である。(神吉構成員)
・過半数代表者の選出やどうやって職場の方の意見を集約しているのか実態を把握しないといけない。職場の意見集約の活動の時間的、労力的なコストを誰が補 償するのか。過半数代表に選出された方の活動のコスト補償がない中で精神論だけでルールをつくることは難しく、機能する仕組みの検討が必要である。(首藤構成員)
・過半数代表者が適切な役割を果たす上で、適切なサポートがどれほどなされるべきか検討が必要である。現実にどういった配慮がされているのか確認した上で、 どのような配慮をすべきか議論すべきである。使用者による配慮のみならず、例えば労働委員会が担えることや産業別組合が果たせる役割なども議論が必要ではないか。(石﨑構成員)
・労働者が多様化する中で、過半数代表者が意見をどのようにとりまとめるのか、昔より難しくなっている。過半数が推したからといって少数の方の意見をどこ までくみ取るかは重要な課題である。任期を定めて選出する実態もかなりある中で、どう望ましいルールを作るのか。任期を仮に認めたとして、過半数代表者 を選出するときにどう選出するのか、どういった点についてどのような発言が求められるのか議論しないといけない。(安藤構成員)

第3回研究会でのご意見まとめ(労使コミュニケーション関係)
・事業場単位では過半数組合となっていて様々なルールを決めているものの、企業全体では当該組合が過半数組合でないケースは多い。労使協議を企業単位化すると、このような従来の組合の機能が弱体化・消滅し、労使協議が形骸化してしまうのではないか。事業場単位は企業の負担も大きく煩雑であるが、労働者が声が 出せる面がある。現状の改善については、事業場毎の意見集約をどう改善すべきかを先に考えるべき。組合がない場合、過半数代表者がどこまで発言するかというところもあるが、企業単位では各職場の長時間労働など労働の実態を十分考慮した上で協議ができるか懸念している。36協定などは届出で終わりではなく、 遵守されているかチェック機能が必要だが、企業単位でチェック機能が上手く動くか懸念している。労働基準法や労働安全衛生法は最低基準であり、その上で多様性は存在するものと考える。最低基準を逸脱するときの労使協定を考える場合には、何らかの形で気を付けるべきではないか。(首藤構成員)
・企業単位化すると多様な労働者の意見を十分に集約できないのではないか。テレワークの導入やIT化も進んでいる中、事業場単位の規制は現実にそぐわないと いう意見があるが、個々の企業が事業場の範囲を見直せば解決するのではないか。一足飛びに企業単位を目指すことを議論すべきではない。(水島構成員)
・労働基準法だから、労働安全衛生法だからと一律に決めるのではなく、それぞれの規制の趣旨目的を踏まえ、他法制度も見ながら調整すべき課題ではないか。特に労使関係については、組合のない事業場で本当に労使コミュニケーションが機能するかということも含めながら議論すべきではないか。企業単位でみると過半数組合ではないが事業場でみると過半数組合をとる組合が積極的に現場の労使関係を支えていることは確かにあるが、そういうものを阻害しない形でどういう労使コミュニケーションの制度を構築するかが大切。事業場単位で分断化され、ノウハウ等のない事業場において労働者の意見が反映されず、実質的な労使コミュニケーションが果たされていない例がある。企業全体で働く人の意見をどのように集約していくか、多様な働く人の意見が反映されやすい労使コミュニケーショ ンを企業単位に変えるときにどう集約・凝縮していけるか。企業レベルで集約して、企業単位から一人の代表を選ぶのではなく、色んなところから複数の労働者を入れて企業全体で組織と企業で話し合う場を作っていくことが重要。現在の形骸化している日本の実態をどう考えていくのかという観点から制度設計を考えるべきではないか。(水町構成員)
・事業場単位の労使コミュニケーションはICT技術が発展していない状況では有効だったと考えるが、働き方が多様化し、同じ事業場でも異なる働き方、異なる希望を持って働いている人がいる。事業場単位か企業単位かという空間的な区切り方だけでなく、項目毎に望ましい区切り方を議論してはどうか。労使自治として、 一部労働者の代表でしかないにも関わらず、過半数代表者になれてしまうことがあるがそれでよいのか。事業場単位を選んだ場合に、その事業場で働く人の総意 が上手く反映されるかについて、多様化が進む中では上手く実現しなくなっているのではないかと感じている。(安藤構成員)
・個々の事業場の実態を踏まえた労使コミュニケーションの整備をしている場合に限り企業単位化するという考え方であれば良いかもしれない。(石﨑構成員) • 労働安全衛生の場合、「人」の管理に関することは企業単位、「場所」が重要なファクターであれば事業場、「物や行動」に起因するものは原則事業場単位では ないか。労使コミュニケーションの単位や、責任の所在は事業場単位がしっくりくると思う。企業単位の労働者の意見集約が効率的という面も確かにあり、 「人」の要素が強いものは企業単位の届出があっても良いのではないか。監督署の指導とも関連して考えるところ。(黒田構成員)
・事業場単位を維持した上で、労使コミュニケーションや労務管理において何らかの労働者保護の要件を満たした場合に企業単位とすることがありうるのではない か。(島田構成員)
・企業の労務管理の問題と、現場で生じる問題は、監督の実効性と関連するので切り分けて考えるべき。労使コミュニケーションについては企業毎の実態にかなり 左右されるので、制度化するときは、企業単位か事業場単位かを当事者が選択するような手法としなければ、事業場単位に傾くのではないか。労働基準法の意思 表明について、過半数代表者は、集団の代表である一方個人でもあり、集団的な意思表明なのか個人的な意思表明なのかは課題。過半数代表者は、過半数労働組 合と同じ役割を担うが、集団の意見集約のプロセスが保証されていないのがポイント。(神吉構成員)
・個別同意をするときに、集団的なコミュニケーションがその個別同意の真意性を担保する役割を担うのではないか。(石﨑構成員)
・過半数代表者との労使協定で最低基準の例外を認める制度には果たしてどこまで妥当性があるのかという課題がある。事業場単位は監督のためなのか、最低基準 のためなのか、あるいは新しい政策を実施する上で実効的な単位はどこかという観点から検討すべきなのか。(荒木座長)

第4回 労働基準関係法制研究会 資料「労使コミュニケーションについて」より

労働基準関係法制研究会 第4回資料(厚生労働省サイト)

労働基準関係法制研究会の議題

議題は毎回「労働基準関係法制」とあるが、第1回はメンバー(構成員)全員が意見を述べ、第2回は労働時間制度について、第3回は労働基準法における「事業」及び「労働者」について議論され、第4回は労使コミュニケーションについて議論される予定。

労働基準関係法制研究会の目的と検討事項

労働基準関係法制研究会の開催要綱には「今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うとともに、働き方改革関連法附則第12条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うことを目的として、『労働基準関係法制研究会』を開催する」と記載されている。

また、労働基準関係法制研究会の開催要綱によると労働基準関係法制研究会の検討事項は「『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を踏まえた、今後の労働基準関係法制の法的論点の整理」と「働き方改革関連法の施行状況を踏まえた、労働基準法等の検討」とされている。

なお、働き方改革関連法附則第12条第1項には「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、新労基法第三十六条の規定について、その施行の状況、労働時間の動向その他の事情を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と規定され、第2項には「政府は、新労基法第百三十九条に規定する事業及び新労基法第百四十条に規定する業務に係る新労基法第三十六条の規定の特例の廃止について、この法律の施行後の労働時間の動向その他の事情を勘案しつつ引き続き検討するものとする」と規定され、そして第3項には「政府は、前二項に定める事項のほか、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律の規定について、労働者と使用者の協議の促進等を通じて、仕事と生活の調和、労働条件の改善、雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保その他の労働者の職業生活の充実を図る観点から、改正後の各法律の施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とある。

労働基準関係法制研究会のメンバー(構成員)

労働基準関係法制研究会のメンバー(構成員)は次のとおり。

荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
安藤至大 日本大学経済学部教授
石﨑由希子 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
神吉知郁子 東京大学大学院法学政治学研究科教授
黒田玲子 東京大学環境安全本部准教授
島田裕子 京都大学大学院法学研究科教授
首藤若菜 立教大学経済学部教授
水島郁子 大阪大学理事・副学長
水町勇一郎 東京大学社会科学研究所比較現代法部門教授
山川隆一 明治大学法学部教授 (敬称略・五十音順、労働基準関係法制研究会開催要綱別紙より)

なお、座長は荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授。

労働基準関係法制研究会の議論・労働時間法制

厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第6回研究会(2024年4月23日開催)資料は「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」と題されている。

この資料は、今までの研究会で「労働時間法制」「労働基準法の事業」「労働基準法の労働者」「労使コミュニケーション 」といった各論点について各メンバー(構成員)の意見を整理し、リストアップしたものとされている。
なお、ここでは「労働時間法制」にかかわる箇所のみ抜粋して掲載したが、「つながらない権利」に関連する記載は皆無だった。

労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理
Ⅰ 今後の研究会に向けての整理
本研究会は、本年(2024年)1月23日の設置以来5回開催し、今後の労働基準関係法制を考えていくに当たって、
① 労働時間法制 
② 労働基準法の「事業」
③ 労働基準法の「労働者」
④ 労使コミュニケーション
の各論点について構成員から自由に意見をいただく形で議論を進めてきた。
本資料は、今後の研究会でより具体的に各論点について掘り下げていくため、各構成員の意見を整理し、リストアップしたものである。

Ⅱ各論点について、考え方と今後の議論の方向性
1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
本研究会では、労働基準法における労働時間の規制を以下の3つに大別し、それぞれについて趣旨目的と、どのように管理(規制)すべきか検討してきた。
① 最長労働時間規制
労働時間規制は、法定労働時間を超える労働を制限し、法違反に対しては罰則を科す強行法規となっている。現行法では、法定労働時間、36協定による時間外・休日労働、36協定の特別条項により認められる上限までの時間外・休日労働と段階を持って設けられている。
② 労働時間からの解放の規制(労働解放時間)
これは、休憩・休日・年次有給休暇・勤務間インターバルといった「労働から解放された時間」の考え方である。労働者の健康確保、心身の疲労回復や気分転換、仕事と生活との両立のために必要なものとなる。
③ 割増賃金規制
これは、時間外・休日・深夜の労働の抑制と、それらの労働をした場合の補償のため、使用者に通常の賃金に割増を設け、負担を求めるものとなる。

1-1 最長労働時間規制
(1)時間外・休日労働時間の上限規制
【働き方改革関連法の施行後の評価に関する意見】
・働き方改革で導入した時間外・休日労働時間の上限規制は、全体の労働時間の縮減に一定の効果を示しているという意見があった。
・当初から適用があった業種はもとより、本年(2024年)3月末まで適用猶予されていた業種においても、制度適用に向かって対策が進められてきたという意見があった。

【今後の議論の方向性に関する意見】
・長期的には、「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」(平成29年3月)にあるように、時間外労働の上限を36協定の原則である月45時間、年360時間に近づけていけるよう努めていくべきであり、目標を見据えて定期的に見直しの議論をすべきという意見があった。議論にあたっては、時間的余裕を持って行っていくことが必要であるという 意見があった。
・自動車運転者や医師などは、今年度から時間外・休日労働の上限規制が適用となったが、なお一般より長い上限が適用されることとなるため、健康確保措置のあり方や、一般則の適用に向けた取り組みをどのようにするか議論すべきという意見があった。
・上限規制の意義を、健康確保におくか、仕事と生活の両立におくか考えるべきという意見があった。労働時間のダンピングを防ぎ、家庭生活を豊かにするために上限引き下げを考えるべきという意見があった。また、労働者の働きたいという希望やキャリア形成を踏まえれば、一律に上限を引き下げるべきではないという意見もあった。
・毎年3桁の人が過労で倒れている状況で、長時間労働を撲滅するには、職場の多様性確保という観点よりも、時間の安売りを許さないという、公正な基準を入れていく、そうした政策的観点が重要という意見があった。
・労働基準法による強行法規での規制のみならず、企業による情報公表など市場誘導的な手法も含めて議論すべきという意見があった。

(2)労働時間の意義等
【今後の議論の方向性に関する意見】
・現在の労働時間制度は、健康確保のための制限を設けるという趣旨が中心となっている一方で、仕事と生活の両立の観点では、年次有給休暇の取得が生活ニーズの対応の中心になっている労働者もいるような状況があるという意見があった。
・法定労働時間や労働時間の上限規制の意義は、過労死防止や健康確保に限られているのか、仕事と生活の両立も入るのか、検討すべきという意見があった。
・多様な職場に合わせて制度の柔軟性を確保するという要請が労働時間の上限規制に関してどこまで正当化できる原理なのかという意見があった。
・労働者の心身の疲労回復、気分転換や仕事と生活の両立という観点から、日・週・月・年での労働解放時間を考えていくべきであるという意見があった。
・労働時間が短ければいいものではなく、労働者のキャリアアップ、スキルアップ、子育てや介護等の生活との両立、シニア期の能力発揮など、ライフステージに合わせたワークライフバランスを考えていくことができる制度を目指していくことが重要であるという意見があった。
・労働時間について、生活時間の確保の要請といった、健康確保を超えたところを促していく上では、労働基準法の枠を超えた規制手法によって推進していくということも考えられるという意見があった。
・労働時間に制約を設けるとスキルを十分に形成できないといった面もあるため、健康確保は守ったうえで、仕事と生活の両立はよく考えるといったような切り分けが必要であるという意見があった。また、仕事と生活の両立は多様であり、仕事と生活の時間の切り分けについて、外から介入すべきことであるのかという意見もあった。
・事業場外みなし労働時間制度については、「労働時間を算定しがたいとき」の該当性の問題や、司法上の法的安定性を考慮しつつ、制度創設当初から現在にかけてのテクノロジーの進歩も勘案した、抜本的見直しが必要ではないかという意見があった。
・テレワーク中の労働時間管理については、いろいろなセーフガードを取り入れたうえで、約定基準説のような考えを採用することはみなし労働時間制の一種として考えられるという意見があった。
・具体的な規制を考える際は、罰則付きの強行法規である労働基準法に馴染むもの、労働契約の中で定め、民事上義務関係を構築するもの、指針やガイドライン等を示し、企業の自主改善を促すものなど、ハードローとソフトローの役割分担や、シンプルで理解しやすいものにすることについても留意する必要があるという意見があった。

(3)裁量労働制・高度プロフェッショナル制度・管理監督者等
【今後の議論の方向性に関する意見】
・裁量労働制、高度プロフェッショナル制度ともに、適用対象者の満足度は高いが、一部に長時間労働も見られるという意見があった。
・裁量労働制や高度プロフェッショナル制度は、制度を導入する過程で、健康・福祉確保措置が設けられた。一方で、管理監督者等には、労働基準法制定当時から現在に至るまで、特別な健康・福祉確保措置は設けられていないという意見があった。
・現行の管理監督者等の範囲について、本来管理監督者等に当たらない労働者が管理監督者等と扱われている場合があると考えられることから、要件を明確化し取り扱いの適正化に努めるべきという意見があった。
・健康・福祉確保措置について、最も導入されているのは医師による面接指導や相談窓口の設置であるが、相談や指導後の改善方法を含め強化することを検討すべきという意見があった。
・各制度の健康・福祉確保措置をわかりやすく揃えていくとともに、より効果的な措置となるよう、労働基準法だけでなく安全衛生関係法令の観点からも、その内容を検討すべきという意見があった。
健康確保に関して、企業が内部の労働者に対して積極的に情報開示を行う仕組みや、労使が労働者の健康確保に向けた改善案を自発的に議論する場作りを後押しすることを検討すべきという意見があった。

(4)テレワーク等の柔軟な働き方
【働き方改革関連法の施行後の評価に関する意見】
・テレワークについては、仕事と生活を両立させやすく、柔軟に働ける働き方であるという意見があった。また、労働時間管理の観点からは課題が多いという意見もあった。
・テレワーク中の労働時間管理は、厳格にやっているところもあれば緩やかなところもあるところであり、緩やかな管理は労働者にとって利益がある場合もあり得るため、始業・終業時間の把握や、中抜け時間や始業が遅れた場合の取り扱いなどを、より実態に合わせやすいものとしていくことが求められるという意見があった。

【今後の議論の方向性に関する意見】
・家庭生活との近接や中抜けなどのテレワーク特有の事情を考えれば、フレックスタイム制やみなし労働時間制など緩やかな時間管理の下でテレワークを行えるよう検討すべきという意見があった。ただし、テレワーク下での長時間労働の問題も出ており、留意が必要という意見 があった。
・テレワークの実態に合わせたフレックスタイム制の見直しについて、テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にも活用しやすいよう、コアタイムの取り扱いを含めた具体的制度を検討すべきという意見があった。ただし、フレックスタイム制は裁量労働制よりも容易に導入できるため、長時間労働の抑制を含めた健康確保を同時に検討すべきという意見があった。
・テレワーク時の労務管理は、厳格なデジタルモニタリングも技術的には可能かもしれないが、監視的なものはメンタルヘルス上悪影響もあり、緩やかなモニタリングが望ましいのではないかという意見があった。
・緩やかな時間管理の中でテレワークを行い、中抜け等もある中で、客観的な労働時間がどこまで測定できるかという意見があった。また、一定の健康確保措置を設けた上で、労使合意で労働時間を定めていく ことも考え得るのではないかという意見もあった。

(5)法定労働時間週44時間の特例措置
【今後の議論の方向性に関する意見】
・法定労働時間を週44時間とする特例措置対象事業場について、8割の事業所がこの特例措置を使っていない現状に鑑みると、既にその役割を終えていると考えられるという意見があった。
・理美容業界など、業種に特徴的な労働時間の実態もあることから、業種による状況の違いを把握しつつ、一般原則を適用する方向で検討すべきという意見があった。

1-2 労働時間からの解放の規制
(1)法定休日制度
【今後の議論の方向性に関する意見】
・法定労働時間・休日は仕事と生活の両立のほか、労働で蓄積した疲労の回復のために定めがあるとも理解されるという意見があった。
・法定休日については、休日の特定が義務づけられていないこと、最低週休1日とした上で4週4休制も認めており、かなりの連続勤務が可能となることなど課題があるという意見があった。
・法定休日の特定や1週1休の原則を貫くことを含めて4週4休制の廃止・改善について、制度の要件を明確にすることを含め検討すべきという意見があった。
・疲労回復の程度は休養のタイミングと量に依存するため、週に1回は休日が必要という目安としてのルールは必要という意見があった。

(2)勤務間インターバル制度
【働き方改革関連法の施行後の評価に関する意見】
・勤務間インターバル制度を導入する企業は増えているものの、普及してきたとは言いがたい水準であり、より制度の普及を進めていくべきという意見があった。
・インターバルの時間は科学的にみて11時間を基本に考える方向ではないかという意見があった。また、勤務間インターバルの本来の形は、休息時間が確保されるような終業時刻を維持する(時間外労働を減らす)ことであり、始業時刻を動かすことではないことに留意するべきという意見もあった。

【今後の議論の方向性に関する意見】
・やむを得ない事由により、終業時刻が大幅に後ろ倒しになるようなケースでは、インターバル確保のために始業時刻がずれ、生活サイクルに悪影響が生じるという意見があった。また、本来的には始業・終業時刻は決まっているものであり、時間外労働を前提とした働き方を見直すべきではないかという意見もあった。
・始業時刻をずらしたとしても、その分の時間を就業扱いとし、終業時刻は変更しない企業もあるが、その義務化は困難であるという意見や、インターバルの厳守を厳格に求めると、突発的業務への対応が不可能になる、労働者のちょっとした確認(帰宅後のメールチェックなど)も許されないなど、弊害も考え得るといった意見があった。
・勤務間インターバル制度については、罰則付きの義務規定を法に設けるのではなく、現場の労使で話し合い、実現可能な取り組みの導入を広げていく方向ではないかという意見があった。
・その際、国が基本的な取り決め事項(例:通常時11時間のインター バルを確保することを原則とすること、一定の場合に例外を認めること、例外事例の代償措置(近接時期の休暇など)など)を示すこととしてはどうかという意見があった。
・深夜勤務は、常態的に行う場合も不規則に行う場合も健康に影響がる。不規則勤務労働者の健康を確保するため、インターバルを保つ規制をすべきではないかという意見があった。

(3)年次有給休暇制度について
【働き方改革関連法の施行後の評価に関する意見】
・年次有給休暇の時季指定義務は、年休取得率の向上に効果があったという意見があった。
・年次有給休暇の時間単位取得については、労使双方にニーズはあるが制度の本来の趣旨や、労働者の心身の疲労回復効果の面からは疑問があるという意見があった。また、時間外労働時間の計算との関係も整理が必要であり、拡大には慎重な議論が必要という意見があった。

【今後の議論の方向性に関する意見】
・年次有給休暇は、労使が計画的に完全消化を目指すべきものであり、取得促進をさらに進めるべきという意見があった。
・有給休暇の時季指定については、事前に計画的に取得できるような手法を検討すべきという意見があった。また、労働者が時季指定権を行使した分を使用者による年休の時季指定の日数にカウントするやり方についても制度の趣旨に照らして検討をすべきという意見があった。
・現状では、労働者は病気をはじめとした突発的事項に対応するために 年次有給休暇を取得しているケースが多く、年次有給休暇の計画的取得を促すためには、こうしたニーズにも対応できる休暇制度が必要と考えられるが、それがないのであれば、労働者の希望や状況に応じて年次有給休暇を取れる制度であることは必要なことではないかという意見があった。
・労働者が自身の持つ年次有給休暇の残日数を把握していないケースが 多いことも問題であり可視化が必要と考えられるという意見があった。
・時間単位年休については、法定休日・法定労働時間との関係を整理した上でその取り扱いを検討してはどうかという意見があった。

(4)休憩について
【今後の議論の方向性に関する意見】
・休憩は、疲労の蓄積を緩和するという観点から必要なもので、一定の休憩は基準として確保することが必要という意見があった。
・労働基準法第34条では休憩は一斉に付与することとされ、分ける場合は労使協定が必要とされているが、これは当時の工場労働を前提としたものであり、現代では交代で休憩を取ることは当たり前であって、一斉休憩原則の例外を労使協定でなければ認めないとまでする必要はないのではないかという意見があった。
・休憩時間は、6時間労働につき45分、8時間労働につき1時間という 規定があるのみであるため、もっと労働時間が長い場合にこのままで良いかという意見があった。勤務間インターバルがあれば良いが、義務化が難しい中で休憩時間をどうするかも検討すべきという意見があった。

1-3 割増賃金規制
(1)割増賃金の趣旨・目的
【働き方改革関連法の施行後の評価に関する意見】
・割増賃金は、時間外・休日・深夜の労働の抑制と、それらの労働をした場合の補償をその趣旨とするものであるが、実情として時間外・休日・深夜の労働は広く行われ、割増賃金による抑制効果が十分に発揮されていなかったため、上限規制が設けられるに至ったと考え得るという意見があった。また、深夜労働の割増賃金は、労働強度が高いものに対して補償的な性質があるが、健康管理の観点からは、危険手当のような位置づけではないかという意見もあった。

【今後の議論の方向性に関する意見】
・割増賃金規制は、企業が時間外等の労働を抑制する効果が期待されているが、反対に労働者に対しては割増賃金を目的とした長時間労働のインセンティブを生んでしまうという意見があった。また、その中には非生産的な労働もあり、これを防ぐことが必要ではないか、 より直接的な労働時間の規制が必要ではないかという意見があった。
・労働市場において人手不足の傾向が強まり、労働条件が上がりやすくなっている現状も踏まえると、労働者は、割増賃金に頼らなくても収入を確保できるようになるのではないかという意見があった。また、そうしたときに、長期的には割増賃金の趣旨・目的の再整理について議論していくことが必要ではないかという意見があった。
・割増賃金の過重労働への補償という趣旨に着目するならば、処遇の問題でもあり、ある程度労使自治に任せても良いのではないかという意見があった。

(2)副業・兼業の場合の割増賃金
【働き方改革関連法の施行後の評価に関する意見】
・働き方改革の結果、副業・兼業を認める企業は増加しているが、労働時間通算の煩雑さ等から、雇用でなく請負で副業・兼業を受け入れているケースが多くなっているという意見があった。
・労働者の保護の観点からも、請負ではなく、雇用での副業・兼業をやりやすくする検討をすべきという意見があった。

【今後の議論の方向性に関する意見】
・副業・兼業を行う労働者の健康確保のための労働時間通算は必要であるという意見があった。健康確保のための労働時間の把握・管理手法については、企業ごとに把握するか、労働者に申告義務を課すか、何らかのシステムを構築するか、雇用に限らず健康確保が必要 であるという観点から、就業者全体の問題として検討すべきという意見があった。
・割増賃金にかかる労働時間の通算を義務とすると、
① 企業が副業・兼業を受け入れづらくなる
② 雇用ではなく業務請負での受け入れが増え、実態との乖離や健康確保の欠如の恐れがある
③ 特に交渉力の低い労働者において、雇用機会を失う恐れがある
④ ③を回避するため、労働者が副業・兼業であることを隠し、結果として健康確保と割増賃金の双方が損なわれる事態になり得るといった弊害が生じることから、各社それぞれの労働時間で割増賃金を計算する方向で検討すべきという意見があった。
・ヨーロッパの主要国でも、割増賃金について労働時間通算を行う例はないことからも、見直しが必要という意見があった。
・なお、グループ企業や取引関係のある企業などとの間で名目上副業・兼業させ、割増賃金を逃れるようなケースを生じないようにする必要があるという意見があった。<以下略>

資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」

資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」(PDF)

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