【掌編】 約束
僕の好きな人は、幼馴染みの『みーちゃん』だ。
長い黒髪をお下げにして、いつもにこにこしている。
僕は、そんなみーちゃんを見ると、緊張して何も言えなくなる。
「どうしたの?」って、折角話しかけてくれているのに、
「なんでもない!」って顔が赤くなって突っぱねてしまう。
そんな僕を見て、みーちゃんは笑顔を見せる。
僕はその笑顔が好きだった。
そんなみーちゃんがある日、引っ越すことになった。
なんてことはない。またすぐ会えるよ。
そう大人達は言うけれど、幼かった僕とみーちゃんにとっては、
ただの気休めに過ぎなかった。
「行きたくない」
「でも、みーちゃん」
「行きたくない」
こういう時のみーちゃんは頑固だ。何を言っても聞かない。
「でも、みーちゃん。お父さんとお母さんが待ってるよ」
「行きたくない」
「でも」
「行きたくないの」
みーちゃんが泣いていた。鼻をすすって泣いていた。
「私が引っ越す星は、時間の流れが違うんだよ」
……わかってる。
「君が大人になった時、私は死んでるかもしれない」
……そんなことわかってる。
僕らの国で、他の星への旅行や、移住が当たり前になって、
早くも三十年が過ぎた。
ただ、問題もその中で多数発見されており、そのうちのひとつが、
みーちゃんの言う『時間のズレ』だ。
そのせいで、里帰りをしたくて戻っても、家族が亡くなっていたり、
浦島太郎のように、自分だけが年老いたりしている、という話を、
僕もみーちゃんも何度も聞いていた。
僕が十年生きている間に、引っ越したみーちゃんは七十年の時を生きる。
「みーちゃん」
僕は言う。泣いている好きな人に。
顔が赤くなって、ドキドキしても、僕は言う。
「僕が、時間を超えて、必ずみーちゃんに会いに行くよ」
それからのことは少し曖昧で、みーちゃんは予定通り引っ越していった。
僕は去り行くみーちゃんの乗った船を見て、少しだけ泣いた。
僕は今、タイムマシンを実現させようと、みーちゃんの住んでいた星で
研究を重ねている。
全ては、約束を守るために。
みーちゃんに、会いに行くために。
(無駄に設定を拗れさせたかった。突貫工事だからあちこち変なのはご容赦)
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