エッセイ「運命の女」

彼女、A は甘い香水と、煙草の煙を身にまとっている麻薬のような女だ。
小学生の頃からの友人で、中学校を卒業したのち音信不通になっていたが、大学入学後に再会した。
部活に専念し、真っ黒のスポーツ少女だった学生時代のAはどこへいったのやら、色白の、長い黒髪がよく似合う艶やかな女へと様変わりしている。
赤く彩られた長い爪が、同じく赤い、マルボロを手に取り、口にくわえ、笑う。
その表情だけは、脳裏に思い浮かぶ彼女と同一だった。
空いた期間は何だったのかと思うほど、A は私の中にぴったりと納まった。
まるで毎日一緒過ごしていた友人のように。
当時のA は夜に働いている、いわゆる夜の蝶で、様々な経験をしてきた彼女は私にはない考え方を持っていた。
化粧や服、女としての武器を最大限に使う彼女と、あまり見た目に気を遣う方ではなかった私、正反対だったからこそ磁石のように惹かれあってしまったのだろう。
今の私を形成しているものは、彼女から大きな影響を受けたといっても過言ではない。
A は非喫煙者だった私をよく喫煙所へと誘った。
煙から庇うように壁際に立たせ、ぼんやりと煙草を吸う彼女の横顔を見るのが好きで、不思議とその時だけは、彼女の甘い香りしか感じなくなる。
お互いに何も話さないその時間が不思議と心地良く、気づけば勝手に喫煙所へとついていくようになった。
煙草の匂いが嫌いだ。
なぜなら大嫌いな人間を思い出してしまうから。
女を髣髴とさせる甘い、人工的な匂いも嫌いだ。
しかし、気づけば両方をまとった彼女が、するりと私の中に入り込んでいた。
もしかしたら煙草の匂いが好きになっていたのかと思ったが、そうではなく、紙煙草から電子煙草に移行した彼女の香りが嫌いになることはない。
ただ、甘い香水の香りに拒絶反応が出ることはなくなった。
嫌いなところはもちろんある。
思ったことをすぐに口に出すところだ。
好きなこと、嫌なことも全部。
そのあけすけな態度は、時折思ってもないトラブルを持ち込む。
わがままな女だ。
だが、好きな人を構成するものが愛おしい、愛及屋烏とはよく言ったもので、彼女は私の運命の女なのかもしれない。




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