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スコーンの話

カフェでも、ちょっと気の利いたスーパーでもしばしば目にするスコーン。

「クッキーの親戚です」みたいな顔して今ではすっかり世の中に浸透している。けれども、これって私が高校生くらいのときはずいぶんマイナーな食べ物だったはずだ。

私の住んでいた町がカフェなんてないど田舎だったからかもしれないけれど、私はおそらく大学で東京に出てくるまでただの一度もこのタイプのスコーンを食べたことはなかった。

「このタイプの」という言い回しをしたが、これはもちろん「その他のタイプのスコーン」の存在を意図している。

それはどんなタイプかというと、これである。

コイケヤのスコーン。

「スコーン、スコーン、コイケヤスコーン♪」「カリッとサクッと美味しいスコーン♪」
のCMでお馴染みのこれ。

スコーンといえばこれだった。これが

このスコーンの、バーベキュー味かのりしお味こそがザ・スコーンだった時代が確かにあったはずなのだ。

そんな時代のど真ん中に生まれた私にとって、冒頭のクッキーの親戚をスコーンと呼ぶことには長年大きな抵抗があった。

ケンタッキーでチキンのお供についてくる、メイプルシロップをつけて食べる円形のアレを「ビスケット」と呼ぶのと同様の抵抗があった。(アレはどう贔屓目にみても、まごうことなきドーナッツである)

なので、以前の私は彼女がクッキーの親戚をスタバで食べてるのを見ては「そんなのスコーンじゃない!ギッ!(鋭い眼光)」という感じで厳しくことにあたり、たいそうウザがられていた。

しかし、最近は齢も35を過ぎ、可愛い娘も生まれ、私もずいぶん丸くなってしまった。

そもそもコイケヤのスコーンを食べる機会もグッと減ってしまい、今では奥さんが焼いてくれるスコーン(クッキーの親戚の方の)は実は好物の一つである。

若かりし頃の理想は潰えた。
ただ、妥協にまみれた日常の中で味わうスコーンはとても美味しい。

これは一般的にはコーヒーと一緒にいただくのが推奨されていると思うが、私の好きな食べ方は違う。

まずはスコーンにカブガブとかぶりつき、小麦粉とチョコチップのハーモニーを存分に味わう。そして、ひとしきり食べ終え、口の中の水分が根こそぎもっていかれたあとで、コップ一杯の水を一気に飲み干すのである。

これが実に甘露なのだ。

明日は日曜日。奥さんに頼んでスコーンを焼いてもらおう。

すまない、コイケヤスコーン。変わっていく私を許してくれ。

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