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【2016.05.21】農業について最近考えていること(=就農ではなく周辺業界を選ぶこと)

記事が1本しかないのに、どこにも露出していないのに、毎日noteのフォロワーが増えていて、なぜなのかはわかりませんがとにかく嬉しいです。更新を期待してくださっているところ申し訳ないのですが、ここしばらく商業原稿の〆切にずっと追われていて、なかなかプライベートで書き下ろしすることができません。とりあえず既に閉じてしまった過去の個人サイトから、比較的に反響あった記事を転載したいと思います。こういう文章を書く人間ですよという、あいさつ代わりに。
この記事は、2016年5月21日に旧サイトで書いた記事を転載したものです。梨園に1年半籠もりきりだった私が、(実質)初めて農園の外に出て、業界に関わる若者と話をしたときの文章です。何者でもなかった頃。今なら別な表現、別な結論になるかも知れません。
最近では、山西牧場の倉持くんが言及してくれています(リンク先なくてすいませんでした/(^o^)\)。https://note.mu/nobuymnsfarm/n/nef797a811967

--- 以下転載(2016.5.21)---

先日、農学系サークルのOBOG会(通称GOBOの会、ゴボー?)主催の就活生向けイベントに参加させてもらった。農業に関わる各業界から若手社会人が集い、どんな仕事をしているか、何を感じているか伝え合うイベントだった。生産者は少なくて、小売、食品、農協、インフラ、金融、行政、種苗や資材などのサプライチェーン上流、果ては広告や法曹、ベンチャーまで。規模の割に幅広い守備範囲で、学生側にはめっちゃお得だったと思う。僕は学生時代、環境系サークルに所属していたので、農学系サークルは存在さえ知らなかった。OBOGじゃないのに誘ってもらって、今関わっている業界の知り合いが増えて、自分にとってもお得な機会になった。

パネルディスカッションに声をかけてもらって、超短い時間だったけど、自分の働き方のアッピールをした。農家に勤めてるけど生産しない。代わりに経営をアップデートする。特殊だし、あんまり例がないし、それなりに興味持ってもらえたように思う。さわりだけでも面白がってもらえるのであれば、深く踏み込む時間をもらえれば、もっと具体的に提供できる価値があるような気がした。そういう機会を作ることにもう少し積極的になってもいいかもしれない。

学生と色々話した中で、核心的だと思ったやりとり。「(僕)農業の現場に踏み込むの楽しいよ」「(相手)それ絶対おもしろいです。日本の農業に必要です」「(僕)じゃあ現場に出てみたいと思う?」「(相手)えーと、それはちょっと、、、(収入低そう)(不安定そう)(大変そう)」ってなる。結局、生産者の立場に立つには、蛮勇と言えるほどのリスクテイクが必要な雰囲気になる。無難に、農家を「支援」しようという考えになり、周辺業界に就職する。農学部生も非農家出身なら就農しないのが既定路線。僕も学生時代にはそう思ってた。周辺の、農業界全体を支えるような上流側もしくは下流側、行政やサービス業のほうがスケール感があり、付加価値も高くて、そのために大学で勉強してるつもりだった。でも、それって本当なのかな?本当ならなんでそういう構造なんだろう?っていう問いが頭に引っかかって、GOBOの会の帰り道でよくよく考えた。農家のことを助けたいけど、農家みたいな生活水準は敬遠するってどういうことなんだろう?

「生産者」と「周辺業界」に分ける。前者の産んだ価値(A)と後者の産んだ価値(B)を足し合わせたものを、消費者に届く末端の最終価値(A+B)だとする。「生産者」に比べて「周辺業界」のほうが安定して生活できる、つまり儲かるということは、ざっくり言ってA<B(A<<Bかも)ということの証左になる。優秀な人材が安定収入を求めて、ますますBに勾配が傾く。A+B=一定なら、Bの取り分が増えるほど、Aの取り分は少なくなる。

安定収入を得る中間業者が増えるほど、生産者は儲からない。A+Bが増えればお互いWIN-WINと言いたいところだけど、増分を分かち合ってくれる中間業者はおどろくほど少ない(みんな概ね、農産物の仕入れ価格が低ければ低いほどハッピー)。結局、Aはどんどん小さくなり、可能なものから単価の安い輸入品に互換される。廃棄してたもので六次産業化、みたいな落としどころに話題が集中しているのも、限定的なWIN-WINの例だと思う。

 よくよく考えたけど、これは別に誰も悪くない。周辺業界に就職するのも、市場主義に基づいて意思決定するなら、合理そのもの。自分もそうした。誰も悪くないんだけど敢えて言えば、生産者側が、これから就職する若者に十分な未来を見せていない。農家出身の生産者は、そのべらぼうなアドバンテージを活かしてもっと力強く事業展開してほしい。非農家出身の生産者の生存率が高まれば、新規就農の希望が生まれる。僕は、農家に非生産部門として働く仕事を、自ら成功事例になって一般化したい。

未知に対して不安な若者には、再現性を見せることが一番だと思う。 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」にこういうフレーズがある。

ヒデリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ

とにかく、農家に寄り添うということは、一緒に涙を流し、一緒にオロオロ歩くことに尽きる。だから僕は、自分がコンサルっぽくなってもダメだと思う。東大出身者が農業の現場に立つとして、昔の自分だったら上から目線で、内心では「下野(げや)」とか「都落ち」みたいな言葉が去来したはず。でも、本当に農業を尊い仕事だと思うなら、生産者と同じところに立つことを厭うべきではないし、そこからしか見えないものに隠された価値があるという実感を得ている。本質とは別の副産物として、現場にいる東大出身者は珍しいので、そのギャップで面白いことがあれこれ舞い込んでくる。僕は今の仕事で十分以上に幸せなので、できるだけ維持するためにこれからも頑張りたい。(2016.5.21)

東大農→修士→DuPont→阿部梨園の中の人→ファームサイド(株)代表。コンサル、講演、執筆。阿部梨園の知恵袋(https://tips.abe-nashien.com)で、農家の経営改善を旗振り中。著書『東大卒、農家の右腕になる。』https://amzn.to/3fdp9C9