見出し画像

小話エッセイ/助けをもとめた野球少年


◆助けをもとめた野球少年

今朝、汗をかきながら駅まで来ると、
陽に焼けた中学生らしき野球少年たちが、改札前で大きな声を出していました。

「待って待って、コレどうやんの」
改札の外に取り残されたらしい男の子が慌てています。

「カード入れて、チャージってとこ押して」
改札を通過済の仲間たちが、それに応える。

「チャージじゃないよ。切符、どこで買えばいいの」
という男の子の言葉に、

「次を逃したら30分遅れになる」
「何してんの、あいつ」「どうするよ」
仲間たちの苛立った声が重なります。

見かねた私が
「どの駅まで行きたいの?」
と聞いた時、その異変は起こりました。

「・・・ウウンウ!」
話しかけられた男の子、この世のものとは思えぬ表情で伸びあがり、

「来て! こっち! コ・ッ・チ・ニ・来てェ」
と、絶叫して仲間に助けを求めたのです。


ごめんね、名前も知らぬ男の子。
知らない人に声かけられて、ビックリしたね。

マスクにグラサン、長手袋ながてぶくろ
えたいの知れぬ女が後ろから話しかければ、そりゃあ誰でも悲鳴を上げる。

結局出てきた駅員さんに、切符を買ってもらっていたね。
最初から呼んであげればよかったよ。

今日の野球は、勝てたかな。
キミは活躍できたかな。

おばさんはね。
チョッピリ傷心の一日でした。


◆許せよ・・

美容師は、おしなべて二種のタイプに分類されると私は思う。

すなわち、
客のはらが鳴っているのを笑えるタイプ」と
沈黙をもってそれに応じるタイプ」のいずれかだ。

本日私のカットを担当した若き男性美容師は、確かに後者のタイプであった。

常であれば「おなか鳴っちゃいましたぁ、おお、またしても」などとおどける私だ。
が、精神的ダメージ等により、それが適わぬ時もある。

それが今日という日であった。

腹はなかなか鳴りやまない。
グゴコきゅるると響くたびに、鮮やかだったハサミがぴくり。

気まずい思いをさせて、許せ男性美容師よ。
私とて、傷つきやすい人間なのだ。
こういう時も、あるのだ。


※本日はお休みのつもりでしたが、結局更新してしまいました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?