栗岡志百

アクション要素のあるシスターフッド物語を読みたい、なかなか見つからない——から、自分で…

栗岡志百

アクション要素のあるシスターフッド物語を読みたい、なかなか見つからない——から、自分で書いてみように。障害で中断している合気道への思いが、養父母にすくわれ、血縁家庭でのヤングケアラー、毒親、精神的ネグレクトが、書くことで昇華されているところがあります。

マガジン

  • アイス・スチール:チョコミント

    親友の娘、ミオの後見人になった怜佳は、非合法な仕事をしている夫ディオゴの横領から守るため、夫のビジネスパートナーである佐藤アインスレー、通称アイスを味方に雇い込もうとする。  故障を抱え引退を考えていたアイスだが、感じるところがあって受け、白杖を〝操る〟整体師グウィンとともに、ディオゴの内縁の息子でもある一太たちからミオを護ろうとする。理系の知識を悪用してディオゴへの報復をはかる怜佳、グウィンは故国で叶わなかったことをミオに重ね、一太はアイスへの複雑な思いを持ち、それぞれが遺産をめぐる狂宴に加わっていた。  そしてアイスは、本心を押し殺した故に行き違いを大きくしたディオゴを相手に、一身を投げうった決着にでる。アイス自身の再生でもあった。

  • [小説]青と黒のチーズイーター

    <あらすじ> 市内最大の繁華街「ミナミ」を管区にもつ、南方面分署警ら課のクドーとリウは、<モレリア・カルテル>の内部情報を持ち出した、元構成員ダニエラ折場の近親者、高城ルシアの警護と証拠品の回収にあたることになる。  警察側に内通者がいたことで疑心暗鬼になっているふたりに苦心しながら協力を得るものの、内通者によって追手が迫り、動きを封じられていく。援護が得られず孤立するなか、挽回するキーは、違法建築を含めた建物が密集し、立体迷路となっている地の利。そして、この街の〝幽霊〟だった。

最近の記事

[連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 4話 物騒な女子会

4話 物騒な女子会  アイスは対面するソファに腰をおろした。怜佳との気持ちの距離が縮まったわけではなく、単に左足がつらくなってきたから。  そして主導権を握らせる気もない。話をずらした。 「ディオゴはいちおうでも、あなたの夫だよね。窮地に陥れていいの?」 「好きになって結婚したわけじゃない。ディオゴへの思いなんて最初からないから、浮気して息子までつくったってわかっても、言うことはなかった。わたしに飽きたのでも、子どもが欲しかったのでも、どうでもいい」  そして、黙って聞いて

    • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 3話 こっちの水は甘い

      3話 こっちの水は甘い  長く使った建物は、愛着もそれなりに大きくなる。  そうはいっても、麻生嶋怜佳のもうひとつの家といえる<オーシロ運送>社屋は、廃墟の二歩手前といってよかった。  波型スレートの外壁や屋根はすっかり色があせ、紫外線で劣化した看板は、社名がぼやけてしまっている。内部も外観と同じく、埃と汚れが厚く染み込んでいた。  事務所は殺風景かつ簡素につき、デスクやイスは予算不足の役所のフロアのものより古びている。ファイルがごっそり減ったキャビネットも、こうして見ると

      • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 2話 その仕事、業務範囲外

        2話 その仕事、業務範囲外  ほとんど自宅と化した安いゲストハウスで、アイスは朝を迎えた。  朝食の定番は、買い置きしておいたパンと豆乳。時間に余裕がある日は、階下のフードコートまで下りる。オフのこの日は、グリーンカレーヌードルをテイクアウトしてきた。  食後は新聞を斜め読みしながらインスタントコーヒを飲むのも習慣になっている。ベッドだけでスペースがほぼ埋まる狭い宿泊部屋で、ドリップコーヒーなど望めないし、なくてもいい。お手軽第一のコーヒーで充分なのがアイスの味覚で、ゆった

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 1話 逃走は女の子をつれて

          1話 逃走は女の子をつれて  佐藤アインスレーの容姿で目立つところといえば、平均より少し高い身長ぐらいしかない。略名の「アイス」からアイスクリームを連想する者もいたが、ふくよかな体型というわけでもなかった。  アイスがまだ十代の頃、北欧系の血が混じっていると、遠い親戚筋から聞いたことがある。あやふやなのは、両親そろって不明のうえに、ご先祖などアイスにとって、どうでもいいことであるからだ。その親戚とは元から疎遠だったこともあり、真偽を確かめないままになった。  北欧系といって

        [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 4話 物騒な女子会

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 3話 こっちの水は甘い

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 2話 その仕事、業務範囲外

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 1話 逃走は女の子をつれて

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        • アイス・スチール:チョコミント
          5本
        • [小説]青と黒のチーズイーター
          42本

        記事

          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 序章 見ぬもの清しーー知らなければ平気

          <あらすじ> 親友の娘、ミオの後見人になった怜佳は、非合法な仕事をしている夫ディオゴの横領から守るため、夫のビジネスパートナーである佐藤アインスレー、通称アイスを味方に雇い込もうとする。  故障を抱え引退を考えていたアイスだが、感じるところがあって受け、白杖を〝操る〟整体師グウィンとともに、ディオゴの内縁の息子でもある一太たちからミオを護ろうとする。理系の知識を悪用してディオゴへの報復をはかる怜佳、グウィンは故国で叶わなかったことをミオに重ね、一太はアイスへの複雑な思いを持

          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 序章 見ぬもの清しーー知らなければ平気

          コメントのお礼、そして……

           初めてコメントいただきました。 『ブレッド・オア・ブリット』4章2話 Secret Plan〝s〟にお言葉を残してくださった方、ありがとうございます。  自分が楽しいと思える文章に反応をいただけるのは、とても嬉しいことです。たいへん嬉しいのですが……  よ、よ、よろしければ、どう感じられたのか、具体的に書いていただくと大いに参考になります。  試行錯誤しながら書いてます。読み返すたびに書き直すことを繰り返しても、書き切れた感じがしない。推敲はもうエンドレスに続きそうな勢いで

          コメントのお礼、そして……

          <合気道雑感>忘れたっていいじゃない? これも稽古の一段階。

           仕事で、日常生活のなかで、忘れてしまうと怒られたり不便が生じたりします。  けれど稽古のなかでは、忘れることもひとつの過程だなと感じました。  形稽古中心の合気道では、初心者のうちは技の形を覚えることに苦心惨憺します。右足と右手をいっしょに前に出したり、膝をゆるめて動いたりといった、これまでの日常動作でしてこなかった動作まで、あわせてしないといけませんし。  ここで大抵の方は「早く覚えなくちゃ!」とあせります。覚えられないとカッコ悪い、恥ずかしいということもあるでしょう。

          <合気道雑感>忘れたっていいじゃない? これも稽古の一段階。

          <合気道雑感>弱くなったからできた合気道

           ——稽古中に水飲むな。  ——稽古に冷暖房など笑止。  なんていうのが、私が合気道をはじめた道場での、当時の〝常識〟でした。  道場長が「地獄の〇〇道場」と呼ばれていた(これも、この時代の名残りです)本部師範の道場出身ということもあり、稽古も荒稽古の気風が残っています。ですから稽古生が新しく入ってきても、初段をとるまで残っているのは十人中、二人いるかいないかという状況でした。  そんな厳しい稽古で私が段位をとれたのは「黒帯ほしい!」というだけのミーハーなものでした。が、ミー

          <合気道雑感>弱くなったからできた合気道

          [小説]青と黒のチーズイーター 終章 そうだ、ご飯にいこう

          終章 そうだ、ご飯にいこう  夜も更けた夜夜中でも、夜が明けきらない朝まだきでも、分署内には署員がいて、街を警ら警官が巡回している。  いまの時刻を警ら課のシフトでいうと、生活リズムが世間と真逆になる、モーニングシフト。事件や事故が少なく静かなことから、このシフトを希望する者もいるが、クドーには無理な勤務だった。  穏やかなのはいいけれど、やることがないと勤務時間が長く感じられてしまう。  なにより、 「夜中にまわったって、しゃべる相手がおらへんやんなあ」 「警らの目的が、

          [小説]青と黒のチーズイーター 終章 そうだ、ご飯にいこう

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 4話 弱い警官

          4話 弱い刑事  クドーの耳に、廊下のざわめきが入ってこなくなった。  頭の中が先ほど聞いた言葉でいっぱいになる。聞かされた答えを繰り返した。 「スガさんが『サゲイト』?」 「その様子じゃ、『スガ』は通称名だってこと忘れてるな。まあ当の本人が、サゲイトって姓を忘れそうになるほど、スガに馴染んでいるんだが」 「本名……そっか、ワイルドヘアと放置ヒゲのときの!」  初対面のときの自己紹介で聞かされたのは、「サゲイト」という本来の名だけだった。  なにかの成り行きで顔合わせしたに

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 4話 弱い警官

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 3話 オフィサー・リウの無報酬アルバイト

          3話 オフィサー・リウの無報酬アルバイト  たっぷり湿気を含んだ熱い風になぶられ、息苦しいほどの暑さだった日中から、やっと楽に呼吸ができるようになった深夜。車の出入りもない病院の駐車場には、人の気配もなかった。  先ほどまでは。  劉立誠から離れて立っていた蔡が、スーツの内側から小さくまとめたロープを出した。  知らない者が見れば用途不明の代物は、三メートルほどのロープの先端に、金属製の錘(おもり)をつけた流星錘。  事が始まるまえに退散するつもりでいたリウだが、思い直した

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 3話 オフィサー・リウの無報酬アルバイト

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 2話 キャプテン・リリエンタールの悪戯心

          2話 キャプテン・リリエンタールの悪戯心  思いのほか時間がかかってしまった。  受診をおえたクドーは、夜半になっても慌ただしい空気のなかをロビーへと急いだ。  ひとまず異常なしの検査結果にほっとした。リウには呑気をみせていたが、胸中では不安があった。怪我や病気には強いほうでも、骨が鉄骨な相方とは違う一般人なのだから。  安心しても空腹感は増す。スタミナもとっくに切れていた。  一日中動き回って疲れたし、お腹が空きすぎてベージュ色の患者用スツールがパンケーキに見えるしで、早

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 2話 キャプテン・リリエンタールの悪戯心

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 1話 砂糖入りコーヒーは甘くない

          1話 砂糖入りコーヒーは甘くない  処置をおえて診察室を出たリウは、順番待ちの急患であふれかえるロビーを見渡した。  クドーの姿は、まだなかった。  近くに繁華街がある救急指定病院だけに、夜間でも患者が減ることがない。検査待ちで時間がかかっているのかもしれなかった。  静かさを求めて、廊下の突き当たりにある休憩所にむかう。パーテーションで区切っただけの簡素なスペースだが、病院の規模にあわせてそこそこ広い。付き添いで来たのか、テーブルにスプライト缶をおいたまま、うたた寝をして

          [小説]青と黒のチーズイーター 9章 本性 1話 砂糖入りコーヒーは甘くない

          [小説]青と黒のチーズイーター 8章 パートナー 6話 ジャケットを脱いだ彼女と

          6話 ジャケットを脱いだ彼女と  パトカーのサイレン音を追いかけて、救急車のそれも近づいてきた。  クドーは屋上を見渡した。  スガのハンドガンが落とした位置そのままで置いてある。すべてが終わったあと、こうなる前に止めることが出来なかったのかと考えてしまうのは、いつものことだった。  リウが何やらスガにささやいた。スガが応えて腰をあげる。  座り込んだまま同僚を迎えるつもりはなく、自ら出て行こうとしていた。顔は拭いきれなかった血で汚れたままだったが、表情は穏やかになっていた

          [小説]青と黒のチーズイーター 8章 パートナー 6話 ジャケットを脱いだ彼女と

          [小説]青と黒のチーズイーター 8章 パートナー 5話 サランへ〜愛してる〜

          5話 サランへ~愛してる~ 「こんなこと言えた義理じゃないんだが……」  スガが遠慮がちに切り出した。唇をかみ、一拍おいて続けた。 「クドー巡査に頼みたいことがある」 「……え、あたし?」  硬い表情にクドーは思わず背をのばす。 「おれの家族に連絡を入れる役目を引き受けてくれないか? いろいろと理解してくれている者にやってもらえたら……」 「ああ、ええですよ」 「え、あ……感謝する」 「ずいぶん軽く受けたけど、そんな簡単なことなの?」  快諾してもらいながら、うろたえている

          [小説]青と黒のチーズイーター 8章 パートナー 5話 サランへ〜愛してる〜

          [小説]青と黒のチーズイーター 8章 パートナー 4話 一縷(いちる)の

          4話 一縷(いちる)の  スガは中空に浮いていた。  正しくは、右腕だけでこの世とつながっていた。  足が屋上から離れた直後、スガの右肩に脱臼しそうなショックがきた。  続けざま、ビルの壁面で顔をしたたかに打ちつける。意識が飛びそうになった。  地上へと飛び出したはずが、右手を掴まれていた。 「スガさん、左手だして! あたしの手つかんで!」  流れた血で片目がふさがった狭い視野のなか、夜の曇天を背景にしたクドーが右手をのばしていた。パラペットにかけている左手で、落ちないよ

          [小説]青と黒のチーズイーター 8章 パートナー 4話 一縷(いちる)の