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ふつうの相談

本屋に一般書とともに平積みされていた。定価2200円。高い。この間は新書を書いていたし、彼は世間に向け臨床心理学を身近にすることを志向していると考えていたので、その少し小ぶりな本の価格に違和感を覚えた。

読んで捉え方が変わった。全然高くないよ。東畑開人という精神分析家、医療人類学者の作品の中では最高傑作だと思えた。特にケアに関わる専門職の方には誰1人残らずお勧めしたい。
(先日がん検診で訪れた市の中核病院で、お年寄りの、特に目的のない延々と続く話を聞き続けている若い医師や採血の看護師に、心から尊敬の念を抱いたのだが、彼らにすらも勧めたい。)


ふつうの相談(東畑開人,2023)

あとがきで書いている通り、この本はかの有名な精神科医である故 中井久夫先生へのオマージュだという。

偉大な故人へのオマージュでありながらも、希望に満ちた若い専門家たちに救いを差し伸べる内容だった。
私自身もずっと抱えていた葛藤だった。大学院で当たり前のものとして教えられてきた知識を駆使した、質の高い専門職としての仕事ができている手応えがない。
ふつうのお母さんの肉じゃがとも、中華料理屋さんが作った肉じゃがとも見分けのつかないただの肉じゃがを作る自分がいる。
美味しいと言って貰えれば良いとは思えない。だって私はプロだから。日本料理の巨匠たちと同じ質の料理を提供すべき自分なのに、何を目指して腕を磨けば良いのかわからない。だって提供してるのが肉じゃがだから。

私には、同世代よりやや年下の東畑さんが、選ばれし日本料理界のエリートに見えていた。彼はいつも、オリエンテーションとする精神分析を駆使して質の高いセラピーを提供しているんだ。だから自信を持って心理専門職を名乗って良いし、発信しても良い。ああ、羨ましい。

そう思って昨年参加した、あとがきにも登場する「ありふれた臨床研究会」こそが、この本に通じるテーマだった。そしてこの本を読んでさらに救われたのだった。

なんだ、みんな肉じゃが作ってるんだ

改めて、全てのケアに携わる専門職の方々へ。

そして、
お母さんの相談、占い師の相談、スピリチュアル系YouTuberの相談、そして心理士の相談。
一体なにが違うのよと知識とロジックで知りたい方へ。

臨床心理学の少しだけマニアックな事柄は軽く読み飛ばしても、お勧めです。


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