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アロマクエスト

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ふと、頭に浮かんできた物語です。
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2019年3月の記事一覧

アロマクエスト|(13)|旅立-5

男を見送ってしばらくすると、肩に乗ったメンタが話しかけてきた。 「もう一度、森に行こう。大事な話があるんだ。」 ふたたび、森へ戻ってきた。 先ほどの出来事が、ずいぶん前のことのように感じる。 メンタが、肩から降りると口を開いた。 「えっと、まず、キミの名前を教えて。」 今さらながら、自分が名乗っていないことに気がついた。 「僕の名前は、カオル。」 「カオル……いい名前だね。」 メンタは、笑顔でそう言った。 「ボクが見えているということは、キミ、香りがわかる

アロマクエスト|(12)|旅立-4

倒れた黒い影は、だんだんとその姿を変えていく。 ゆらゆらと揺れる輪郭が、次第にはっきりとしたものに変わった。 そこには、確かに人が倒れていた。 「なんとか間に合ったみたいだ…。キミは、この人を救ったんだよ。」 そう言うと、メンタはホッとした表情を浮かべた。 「う、う…。」 倒れている人が、意識を取り戻したようだ。 少年は駆け寄る。 「お、俺はいったい…。」 「大丈夫ですか。何があったんですか?」 倒れていた男は、語りはじめた。 「ああ…だんだん思い出して

アロマクエスト|(11)|旅立−3

「ど、どうやって?」 緊張した面持ちで、少年はたずねた。 こうしている間にも、黒い影が迫ってくる。 「何か、武器をイメージして!」 少年は、扱うのが得意な武器をイメージする。 数秒後、緑色に輝く光の矢が出現した。 「こ、これは…」 おそるおそる見ている少年に、メンタが口を開いた。 「これは、ボクのエネルギーを形にしたものだよ。これで攻撃するんだ!」 いつの間にか、メンタと名乗った生き物は少年の肩に乗っている。 不思議と、ほとんど重さは感じない。 よく見る

アロマクエスト|(10)|旅立−2

最初は気づかなかったが、よく見ると、何か小さな生き物がこちらに向かって走ってくる。 色は青みがかったグリーン。 大きさは、ウサギより大きくネコより小さいくらいか。 こんな生き物は、今まで見たことがない。 「ひょっとして、ボクが見える…?」 その生き物が言葉を発したので、さらに驚いた。 「うん、見えるよ。それより、大丈夫?」 「あんまり…。それより、力を貸して!」 「…っていうか、君の名前は?」 「ああ、そうだったね。ボクの名前はメンタ。くわしい説明してる時間

アロマクエスト|(9)|旅立−1

ある日から、「香り」がなくなった。 生態系バランスの崩壊。 人の心と身体の衰弱。 スウェイング・シャドウの増殖。 人々は、環境の変化に怯えながら、日々を過ごしていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 周りを海で囲まれた、小さな島がある。 大陸の人々からも、その存在を忘れられた島。 意外なことに、その島には人が住んでいた。 荒れ果てた平原を走る、ひとつの小さな人影。 小動物を追いかけているようだ。 最近見かけない、久しぶりの獲物である。 持って帰れば、みんな

アロマクエスト|(8)|変化−5

そのモノたちは、いつから現れたのだろうか。 姿形は人のようではあるが、全体的に色彩というものがない。 顔の部分も、はっきりと判別できない。 まるで影法師のように、ゆらゆらと揺れている。 言葉を発することもない。 気がつくと、背後に立っている。 物理的な攻撃があるわけではない。 ただ、その姿を見てしまうと心身の不調が現れるのだ。 不安感。 焦燥感。 イライラ。 脱力感。 胃腸の不調。 吐き気。 頭痛。 肩こり。 呼吸器系の不調。 血圧の上昇。 どうやら、その人

アロマクエスト|(7)|変化−4

さらに数年が過ぎた。 香りを活用していた植物たちは、その恩恵を受けることができず、動くこともできないため、少しずつ姿を消していった。 動物たちも、弱いものは外敵の匂いを察知することができずに襲われ、また、強いものも食べ物を探すことが困難になり、日を追うごとに数が減っていく。 生態系のバランスが崩れ、自然は荒廃していった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 香りがなくなり、人々は 楽しむことも 癒やされることも 元気づけられることも 気持ちを切り替えることも 凍り付いた心