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短編【幸せになりたいだけなのに】

 なぜわたしがみんなに叩かれないといけないのか。
 SNSにはわたしの悪口ばっかり。まったく意味がわからない。わたしはただ幸せになりたいだけなのに。離婚したとはいえまだ若いんだから恋をして人生を諦めずに輝こうとすることのどこが間違っているというのだろう。幸せになろうとするのが悪いことのはずはない。わたしだけ毎日泣いて、後悔しながら生きていけとでも言うのだろうか。誰でも幸せになる権利はあるはずだ。
 
 子どもの親権を元夫に簡単に渡してしまったという理由でわたしを鬼のように言う人たちがいる。子どもがかわいくないのか、母親として失格だ、とか。事情も知らないで好き勝手なことを言わないでほしい。わたしだって子どもはかわいい。腹を痛めて、命をかけて産んだ子をかわいいと思わない親なんているわけない。ふざけるなって言いたい。友だちには言ってるけどね。

 離婚してシングルマザーになるってことも当然考えた。でも元夫以上に稼ぐことなどわたしにはできないってわかってた。お金のことで子どもに苦労させるのはどうしても耐えられなかった。広い部屋、かわいい服、おいしい食事、いい教育。そういうものを与えてあげられないかもしれないと考えたら、かわいそうでしかたなかった。それだったら元夫に育ててもらって何不自由ない生活をおくれるほうが子どもたちにとっても幸せだと思った。子どものことを考えたからこそ親権を手放したのに。他人がとやかく口出しすることじゃないと思うけどね。

 元夫の不倫やDVが離婚の原因だったら慰謝料も請求できたのに。まあDVは痛いし傷でも残ったら仕事に差しつかえるから困るけど、不倫なら被害者になれて世間の同情も集められたのに。そういうふうに持っていけるテクニックをわたしは持ってないからなあ。演技できないんだよね。嫌な女になるとか。そういうのはやっぱり苦手かな。正直に生きちゃうんだよな、いつも。

 まあ、いいや。過ぎたことは気にしない。それが一番。

 今は彼がわたしを守ってくれてる。彼と出会ったのは夫と別れる一年前だった。ちなみに彼と初めてセックスしたのは離婚調停がはじまる前だったから出会って二ヶ月たった一〇ヶ月前だった。これはちょっと罪悪感があるけどね。
 だから当然、絶対に秘密。
 
 彼とは来年早々に結婚する予定だ。結婚したら彼はわたしを自分の会社の役員にしてあげるって約束してくれた。子どもは一人っ子じゃかわいそうだから二人は欲しいねと彼は言ってる。彼自身は一人っ子で、五歳のころ親が離婚してお母さんに育てられたから、夫婦仲のいい幸せな家庭を築きたいんだって。
 わたしも次は絶対に子どもを手放したりしない。前よりもっと幸せな家庭にしてみせる。子どもにはかわいい服を着せて、おいしい物を食べさせて、いろんなところに連れていって、広い部屋で、思いきり愛してあげるんだ。

 ああ、早く彼と結婚して、彼の子どもを産みたいなあ。赤ちゃんってほんとかわいい。大好きな人の子を産めるって、女として最高の幸せよね。
 わたしは今、やっぱり幸せだ。

ー了ー

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