りっぱな人物でももてなきゃ虚しいじゃないか『ぼくは勉強ができない』山田詠美

ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪いのだ。この窮屈さはいったい何なんだ!凛々しい秀美が活躍する元気溌剌な高校生小説。

新潮社

 人気者で成績が悪い時田秀美を主人公にした短編集。成績の良さとその人の頭の良さは別だと私は思っていて、時田秀美は成績は悪いけど頭はいいタイプの人間だった。そういう人はだいたい話が面白い。例に漏れず時田秀美の一人称で書かれた地の文が最高に面白かった。

(いつもカミュだとか虚無だとか言っている友達植草が足を折ったので、植草を担架に乗せて運んでいる)
ぼくたちは、冗談を言うのを止めて小走りで、保健室に向かった。足に触れただけで、植草は絶叫し、呆れた先生に叱られ、ぼくたちは、その尻馬に乗って、はやしたてた。許せよ、ぼくたちは、調子に乗るのが好きなのだ。

あなたの高尚な悩み

 初出が1991年でもう30年以上前の小説なんだけれど、いつの世ももてるのは陽キャなんだな。頭の良い陽キャは強い。ぼくたちは調子に乗るのが好きなのだ、って言っちゃうのがなんかいい。私も頭のいい陽キャならもっとまともな感想が書けた。
 私が特に好きなのが7章の『賢者の皮むき』で、清楚系の可愛い女の子が、生まれた時から可愛くて仕方なく美少女になってしまったのというような演技が嫌いという話。清楚系の可愛い女の子に告白されてその話をしたらコテンパンにされて、しっかりダメージを受けるのが素直で可愛い。でも高校の同級生とかにいたら普通に怖くて敵わんな。中央駅ですれ違うだけで戦慄する。

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