府中市美術館に行ってきました。

府中市美術館で開かれている「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」に行ってきました!

※この内容には盛大なネタバレが含まれます。偏見のない目で作品を鑑賞したい方は回れ右でお願いします。まあ、実際には偏見をなくすなんて許してくれないのが、へそまがり展示だったりしますが。


府中市美術館で毎年春の恒例行事となっている、日本絵画展。キュレーターのなせる業なのか、とにかく毎年ポスターのあおりや解説にエッジが効いているのが特徴です。

そんな今年は、へそまがり日本美術。ポスターのあおりは

「上様はどこまで本気なのか?」

どこまでも本気だよ! 最初から最後まで全身全霊で本気だろうよ!!

時代が時代だったら、間違いなく切腹案件だぞ、これ。という具合に、最初から愛ある悪意で煽りまくってくる。

入場する前からツッコミで息が上がりそうですが、ここは落ち着いて入場券など購入しましょう。入場料は一般700円。常設展も見られるというのに良心的です。しかも、2回目は半券を持っていけば半額だそうです。すごいな。前期と後期ではかなりの展示が入れ替わるので、それを見越してでしょう。

さて、ナメた絵ばかり印刷された入場券を片手に展示室に入りましょう。解説文はキッチリ読みたい派なので、まずは案内板を読みま……。

日本では立派なものや美しいものに価値を見出してきましたが、そうでないもの……

そ う で な い も の !!

最初からそうでないものって言っちゃったよ! これから展示を回るっていうのに、最初から美しくも立派でもないって言いきっちゃったよ!!

布袋とか寒山拾得図とか、なぜこれを描いたしと思える絵画の連続に、確かに「そうでないもの」かもしれないと気持ちは揺れます。いや、うまい気がする……でも、そうでもないような気もする……。とりあえず、全体的にゆるい。ツッコミたい。でも、自分のツッコミ以上に解説が全部拾ってくれていくのがどこまでもニクい。

なんていうか、総ツッコミ動画でも撮りながら美術館巡回したい。

そんな中で、今回私のおすすめは長沢蘆雪の作品群。企画展の中、一枚と言わず、あらゆるテーマにたびたび登場してきます。

長沢蘆雪のすごいところは、関係ない絵に無理やりもふもふをぶっこんでくるところ。結局描きたいのそっちやん! かわいいものが描きたいだけやん! 不気味なものとかどうでもいいんやん。まあ、これがへそまがりといえばそうと言えなくもありませんが。

とはいえ、美術館側は美術館側でそんな蘆雪のもふもふ子犬の真横に、比較してみようと師匠である円山応挙の子犬を並べてきます。展示員、鬼畜です。なぜならその絵は、府中市美術館ご自慢の一品である『時雨狗子図』。江戸絵画のたびに出てきているような気がしますが、ここはご愛敬。かわいいから許されるってこういうことでしょう。

解説によると、蘆雪の子犬は応挙に比べてまだまだだそうですが、個人的には好きですよ。蘆雪の子犬。なんか、てろっとした感じがかわいい。これは評価が分かれるところだと思うので、ぜひ実物を見比べて判断してほしいところです。

なんにせよ、府中市美術館において円山応挙は絶対です。ほぼ神です。神格化されています。比較してみようというテーマで何度か現れますが、現れるたびに本テーマに沿った方の作品がこき下ろされます。応挙愛が半端ないです。

では、気を取り直してどんどん進んでいきましょう。

息切れが連続するような作品の中、次に現れたのは今回のメイン展示。将軍様である徳川家光によって描かれた『兎図』『木兎図』『鳳凰図』。

うわあ。

思ったよりちっさい。

てか、これ、残っちゃったか―。残しちゃったか―!

思わず同情してしまうのは、どうしてだろう。なんかかわいいし、うまくないわけじゃないような、キャラクターとしては悪くないような気もするのだけれど。

なんにせよ、どれもみんな……目が……漆黒なんだよね……。

現実において、目には白目と黒目がある中、つぶらな瞳を真っ黒で塗りつぶすっていうのは、現在におけるキャラクターデザインにつながるかもしれない。それでも、白いキャンパスになぜかやたらの余白を残し、そのうえで目だけが漆黒の闇のようにこちらを見つめる。これは、どうしてもそれ以上のことを考えてしまう。

深淵を覗く時、深淵もまた貴方を覗いている……。

でも、これ将軍の絵じゃなかったら残ってなかったよね。普通に廃棄処分されてたよね。後世にさらし者にされた挙句、「味はあるがうまくはない」と学芸員から断定されるという仕打ち。上様にとって、これがラッキーなのか、アンラッキーなのか。とはいえ、外様大名とかに送りつけてたみたいだから、本人そこそこの自信があったと思えなくもないけれど。

解説によると、上様は狩野派から描画指導を受けており、こんな絵ばかりでなく狩野派のような画風の絵もちゃんと描けたらしいです。なら、ちゃんとした絵も飾ってやれよ! 上様の実力を護ってやってくれよ!

飾られていないっていうことは、そっちも微妙に残念なのか、展示したところで面白くないと判断されたかのどちらかなのでしょう。

どちらにしろ不憫だな。


まだまだツッコミどころは満載のへそまがり日本美術、最後に言えることは「伊藤若冲はやっぱうまい」です。

へそまがり絵が並ぶ中、これ上手いな~と思ったら、若冲でした。さらっと描かれていても、抜群に目を引く。これ、へそまがり絵じゃねえわ。

展示室を出たところでは、掛け軸しおりにへそまがり絵をスタンプして自分だけのしおりを作れます。こういった工作おみやげスペースがあるところが、府中市美術館の素敵なところ。「へ」の小さなスタンプを押すのを忘れずに! へそまがり掛け軸ですから。

上様の珠玉の一品を見るもよし、天才が塩梅を分かったうえで手を抜いた絵を見に行くもよし、府中市美術館ご自慢の子犬をまた会えたねと見に行くもよしのへそまがり日本美術。

以上、前期のレポートでした!

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