財浄水音

誰もに訪れる人生の諸問題。これらに目をつむり、無かったことにして生きていけない時代に対…

財浄水音

誰もに訪れる人生の諸問題。これらに目をつむり、無かったことにして生きていけない時代に対する、処方箋を不思議で笑えて、ちょっと怖い小説を通じて表現しています。

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  • 月影の至らぬところはなけれども

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エネルギーは保存せず14

人生の意味、というのは当然財浄のような、冷めた人間すらも、一度は己に問うてみた事があるものだった。人生の意味について、熱く語るのが大学生だと思っていたけど、現実は財浄にはそんな機会は一度も無く、そのまま就職してしまえば、回りにいる大人は、そんなテーマからあえて、遠ざかる事自体が会社で働く目的なんじゃないか、と思えるぐらい、哲学少年の議論のようなものが敬遠される空気があった。 「あなたがいなくなっても会社の周りの人が困らないように考えて行動する事。それが社会人ってものよ」

    • エネルギーは保存せず13

      「鍛冶さんは、ロッククライミングしてたら天才って言われてたと思いますよ。俺見たんですよ。この間、壁登ってましたよね。それもすごいスピードで、あれ、努力とか、そういう次元を超えてましたよ。馬が人間より早く走るのは努力の結果じゃないですよね。そんな感じで人間じゃできない事、するっとやってましたよね。まさに鍛冶さんはその世界だったんですよ。本来は。それがなんですか。彫刻?なんか漫画でも読んで影響されたんじゃないんですか?どうなんです?」 財浄は、ちょっと言い過ぎてるなと思いながら

      • エネルギーは保存せず12

        「この世には、生まれた時から既に多くを知っているものがいるらしい。どうやら」 鍛冶さんは神妙に、突然そんな話題から切り出してくる。 「どういう事ですか?」財浄も一応、だいたいは話にのってあげている。 「俺はこう見えても、子供の頃はオヤジがそこそこリッチだったし、今で言う、学歴や教養の無さによるコンプレックスの塊を克服しようと、俺には色々な習い事をさせたものだ。日本は当時はそういうのが都会だけじゃなく、田舎でも流行ってな。今でも信じられないが、俺の田舎は山口県のお前が聞い

        • エネルギーは保存せず11

          他にも、財浄が軽々しく始めた事業で、軌道に乗ったのはいくつかある。例えば、これは危なすぎて、財浄は、早々に持ち分半分を処分して、身を引いたものだったが、ベトナムの行商人から鍛冶さんがヒントを得たアイデアだった。ホーチミン市には、いくつも主要な市場がある。デパートやスーパーよりは、昔ながらの市場での買い物を好む人が都市部でも多いのがベトナムの特徴だ。狭いブースにありとあらゆる商売が繰り広げられている。肉魚野菜などの生鮮品から、調味料、乾物、服やかばん、食器、業務用の工作機、なん

        エネルギーは保存せず14

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          エネルギーは保存せず10

          財浄と鍛冶さんは、いいコンビになりつつあった。財浄には、サラリーがある。もともと年齢の割には随分もらっていたほうの財浄だったが、ベトナムの調査員という事で、給料は円建てで日本の口座に別途振り込んでもらっていたが、諸手当はベトナムの通貨、ドンで毎月別途日本の平均的サラリーマンの給与程度振り込まれていた。ドンは容易に送金できないし、いっその事、毎月これらを全部日本ではできない事で使い切ってやろう、という軽いノリが始まりだった。まぐれで持ち株も最近随分と上がっていた割には、お金を使

          エネルギーは保存せず10

          エネルギーは保存せず(仮題)9

          エリカにとって、たしかにルナが死んだのは人生最大の悲しみには違いなかった。実際、荒れに荒れたが、周りが思っているほど取り乱していたわけでは本当は無い。 「やはり、死んだものは修正できないものなのか」 実は、昔、何度か試してみた事はあったのだ。自分の能力を測る意味で、取り立てて、興味も無かったが、親子でピクニックに行く幸せな家族が、誤って自分の子供を車の誤操作で轢き殺してしまった、というニュースを見て、試してみた事があるのだ。うまくいかなかった。 エリカは、エリカなりの感

          エネルギーは保存せず(仮題)9

          (仮題)エネルギーは保存せず8

          「黒ちゃん、姫の事よくわかってると思うけど、愛猫が死んだとしたらどうすると思う?」 ヒヒ爺は薄ら笑いしながら目を合わせずに、尋ねる 「・・・・さすがに、死んでしまったんですから、丁重に葬儀を行い、埋葬するものではないでしょうか?」 「・・・・お前・・・本気でそれ言ってる?・・・ん? なんだ、黒ちゃん。やっぱお前、悪いやっちゃなー。よくできる悪いやつを俺が好きな事もお見通しってわけかい。はは」 「なんのことでしょうか?」 「もうええわい。そういう優等生的な事は挨拶がわ

          (仮題)エネルギーは保存せず8

          (仮題)エネルギーは保存せず7

          社長と呼ばせているが、坂上エリカはこの肩書を嫌悪していた。しかし、会長と言われるのも嫌だし、CEOはもっと嫌だった。かといって、坂上さん、なんて言われるほど気安い付き合いもゴメンだと思って、仕方なく、形式的に社長と呼ばせていたら、それが定着してしまった事に後悔は残っていた。 坂上エリカ27歳。ZANBAグループの名実ともに最高権力者。上場していない事もあり、その全貌は誰も把握していない。皆、エリカの両親、あるいは祖父、祖母あたりに本当の権力があると、黒木と幸守以外は思ってい

          (仮題)エネルギーは保存せず7

          (仮題)エネルギーは保存せず6

          「会社に本当に必要なのは、誰?私が認めるのはどういう仕事する人なの?何回言わせればあんた、分かるの?」 高層階のガラス張りからは、東京が一望できると言っても大げさじゃない。一面がガラス張り、壁には教科書で見た事があるような、ルノワールとかセザンヌとかの有名な絵から、見たことは無いが、なんか高そうなモダン・アートがうまく額装されており、家具も素人から一瞥しても、ちょっと普通の店では買えない類のものである事は分かる。この部屋の主が資金を巨大に持っている事と芸術が好きな事がよく伝

          (仮題)エネルギーは保存せず6

          (仮題)エネルギーは保存せず4

          鍛冶さんは、一見酔狂な人で、ベトナム最大の都市、ホーチミン市にてショーパブ風居酒屋を経営していた。巫女の出で立ちをベトナム人の若い女性にさせて、チップを渡せばダンスを踊ってくれる。彼が設計した野外風なお店の3階で床が透明のシリコンでできている舞台に日本のアニメソングに合わせて彼女達が踊る姿を1階から観客が見てパンチラを楽しむ。という事らしいが、僕を含めて多くのお客が、「パンチラを見に来てる人、と思われてまでわざわざこの店に行きたくない人も多いだろうから、営業的にはマイナスなん

          (仮題)エネルギーは保存せず4

          (仮題)エネルギーは保存せず3

          世の中に偶然は無い、か・・鍛冶さんの店に通うようになって、もう3年が経つ。ベトナムへ赴任する前の生活はすでに思い出せなくなっていたが、あまりにもスムーズにベトナムに来てしまった事には驚く。アクチュアリーと言われる、保険数理士を一応目指して僕は生命保険会社の内勤社員として安穏な生活をしていたのだったが、それも今や疑わしい。「ベトナム進出プロジェクト」という、ノリで始まっただけに見える企画に僕が応募するとは誰も思っていなかったらしく、スルスルと決まってしまったのだ。ノリで決まった

          (仮題)エネルギーは保存せず3

          (仮題)エネルギーは保存せず2

          「何だお前、納得いってねー顔してるな。俺分かるんだよ。こいつ相槌だけうってるだけで、全然聞いてねえな。とかよー。飲み込みおせーなー。イライラする。もう一つ例あげたるわ。セミとか成虫になってすぐ死ぬじゃん。ミンミンゼミとか、さ。ミンミンころりだよ。全く土の中で7年だっけ?素数ゼミとか言って、33年とか潜ってるのもいるんだろ?え?33は素数じゃないのか?まぁそんなのはどうでもいいんだけどよ。セミなんか、ころっと死ぬじゃん。卵生んだらよ。寿命が正確に決まりすぎだろ。ってことだよ。俺

          (仮題)エネルギーは保存せず2

          (仮題)エネルギーは保存せず-1

          「財浄、お前、何度もそいつのために忠告してやって、誰が見ても、誰が聞いてもお前が正しいこと言っていて、誰が見ても誰が聞いても、大して見込み無いやつに、懇切丁寧にそいつのために無料で忠告してやって、おまえかなり偉い奴だな。そんなデキの悪そうなやつに丁寧に忠告してやって、と言われるような相手に忠告した事ないか?そして、当然そいつは、ありがたく聞いてるんだが、全くお前の忠告を聞かないどころか、お前をあざ笑うように、何も変化がなくて、その後、のこのことまたお前にすがってきて、アドバイ

          (仮題)エネルギーは保存せず-1

          空気を読まない弁明

          話を分かりやすくするため、こんなに攻撃的ではなかったのだが、脚色しつつ、こんな事があった。 設定、目的は単なる楽しい食事会だ。久しぶりに会って時間がたまたま余っていたから、数人であーでもない話をしていた。途中まではいい感じで楽しかったのだ。 秘蔵のネタのように男は話しだした。 「量子力学に僕は凄い関心があって勉強してるんですよ。世の中の全ての物質は振動してますよね」 私:「絶対零度まで温度が下がらなければね」 男:「へ?振動してるはしてますよね」 私:「まぁいいで

          空気を読まない弁明

          「思想の断捨離しませんか」という提案は受け入れられなかった

          仕事、つまんなくしない方法は、劇的なアイデアを生み出す当事者になるしかない。 と思う。 「ネジ締めるにも、締め方でも考えてれば、楽しくなるよ。」 という資本家はいるだろうが、絶対楽しくないって。 それは、他人のためにする改善だから。 他人の為の改善なんて、地味過ぎて楽しくないんだって。証拠に、それで明らかに部署の生産性が上がったとしても、誰も褒めてくれなかった時、どう思うか?チェッと思うだろう。人の評価の為にやっている証拠だ。 それで、自分の評価やお金がそれで、明

          「思想の断捨離しませんか」という提案は受け入れられなかった

          第3章-7「感情」

          感情じゃないとお客さんは来ない。自分でまとめて書いた言葉であったが、見れば見るほど、不思議な気分になる。 うちのカレー屋で言えば、場所もへんぴで外から見ても中に入ってもどう考えても怪しい所に「やってますか?」とお客さんはわざわざ聞きながら入ってくる。 そして、チンケなメニューを見て、「これください」と、指でを示し注文してくれる。仮にすごく期待はずれなカレーを出しても、大半の人はお金を置いて、店を後にするだろう。二度と来ないだろうけれど。それでも考えてみればすごく不思議な現

          第3章-7「感情」