【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 9/30
それにしても、あおいさんというのは、およそ、まともな神経をしていない。
日本で英語なんて話せなくても生きていけるのに、わざわざ英語を勉強するなんて。
今の時代、まとも人間は、まず留学なんてかんがえないし、まして、その留学先を、アメリカでもイギリスでもなく、ドバイにするなんて。
お金がなくても、安く留学するならフィリピンという選択肢もあるのに、ドバイにするなんて。
彼女は気が狂っている。
それでも彼女はなぜか、ドバイを留学先として選んだ。彼女がいうには、今の時代、語学留学をすると、アメリカでもイギリスでもオーストラリアでも、どの英語圏の国でも、日本人が留学している。
するとどうしても、日本人と日本語を話してしまう。がんばって日本人とつるまないように距離を置くという手段もあるけれども、わざわざ意識的に日本人を避けて行動するのはめんどくさい。だから、日本人がいなさそうな国へいこうと決めたそうだ。
それで、当初彼女は、アフリカにいこうと考えていた。でも、アフリカは遠すぎるし、その分航空賃も高いし、それに治安のことをかんがえると、なんだか怖そう。
そういうわけで、すこしだけ近いドバイが選ばれた。
でも、ドバイは中東なのだから、テロが怖くないのだろうか、というのが素朴な疑問だった。あおいさんは「そう言われるそうだね」と、どうやら、そこまでの思考力はなかったようだ。
そんな詰めが甘いというか、矛盾しているところも魅力的なところである。
ドバイに滞在しているあおいさんからのLINEによると、ドバイは中東といっても、かなり安全なところらしい。中東のなかにはシリアやイラクなどの危ない国はあるが、ドバイはまったく関係ないという。
いうなれば、日本の治安は、近くに北朝鮮みたいな軍事国家がいるから危なくないのか、と問われているようなものだろう。
とはいえ、北朝鮮からミサイルが飛んでくるようなこともあるので、そういう意味では、日本も安全とはいいきれない。
けれど街中を歩くといったような治安レベルにおいては、スリや強盗や傷害事件などに遭遇する可能性においては、比較的、日本は安全といいきってもいいだろう。
だけども、日本でも、いろんな事情で安全でない地域もあるし、痛ましい事件もある。親が幼いこどもを殺したり、無職のこどもが親を殺したり、老々介護につかれておばあさんがおじいさんを殺すことがある。
ドバイの治安の話をしていたのに、なんだかとてもやりきれない気持ちになってきた。
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