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良薬は口に苦し 「マリッジストーリー」

「マリッジストーリー(Marriage Story)」(2019年 アメリカ 136分)

監督:ノア・バームバック
出演:スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー、ローラ・ダーン、アラン・アルダ


出典元:https://eiga.com/movie/91605/gallery/6/

昔の人は名言を残しました。
「良薬は口に苦し」

人生にとって重要な話は、往々にして耳の痛い話になることが多いです。
自分が見て見ぬふりをしてきた話をされると、どうしても拒否反応が出てしまいます。

結婚生活についても、例外ではありません。
独身の頃のほうがよかった、結婚してしまうと自由がない、などと嘆いている既婚者の方も少なくないでしょう。

自分だけが苦労している、と思っていたら、それはもしかしたら、伴侶の方も同じ思いなのかもしれません。

今回、取り上げるのは、現代版「クレイマー、クレイマー」ともいえるNETFLIX製作の「マリッジストーリー」です。

さあ既婚者の皆様、
耳の痛い話の始まりです。

あらすじ

ニューヨークで劇団を運営しながら演出家として活躍するチャーリー(アダム・ドライバー)は、劇団の看板女優ニコール(スカーレット・ヨハンソン)と結婚し、演出家としての評価を徐々に上げていた。
ニコールはチャーリーと結婚する前は、映画女優としてロサンゼルスのハリウッドで売れっ子女優だったのだが、活躍の場をニューヨークの舞台に移してからは、チャーリーに従う生活に戸惑っていた。
ある夏休み、ニューヨークからロサンゼルスに帰省したニコールは、ロサンゼルスを拠点に映画への出演を増やすことを理由に、子供と一緒にニューヨークには帰らないと言って離婚を切り出した。
チャーリーは突然の出来事に戸惑うが、劇団のことを考えると、ニューヨークを拠点としてほしい、離婚はできない、と両者の主張は平行線をたどる。
やがて、ハリウッドセレブの数々の離婚で有利な条件を勝ち取ってきた敏腕女性弁護士ノラ(ローラ・ダーン)にニコールが依頼したことで、離婚裁判に発展してしまう。
当人たちの意向とは関係なく、離婚裁判は泥仕合になっていく。

この離婚劇の最後に、二人がつかむものとは?


出典元: https://eiga.com/movie/91605/gallery/

2019年の良作に埋もれた印象

この作品は、2020年のアカデミー賞作品賞候補作品でしたが、実際に受賞したのは助演女優賞(ローラ・ダーン)のみでした。

この年は、アジア映画として初めて作品賞を受賞した韓国の「パラサイト」で話題はもちきりでした。
さらに、日本でもヒットした「ジョーカー」などもこの年で、他が強すぎたといえるでしょう。
しかし、内容は非常によく、脚本の他にもスターウォーズシリーズで活躍しているアダム・ドライバーとマーベル作品で活躍するスカーレット・ヨハンソンの演技力が余すことなく発揮されています。
今でこそ、「名作中の名作」と言われている「ショーシャンクの空に」なども公開当初の1994年の評価はそこまで高いものではありませんでした。
この作品も「ショーシャンクの空に」のように、年数を重ねれば評価されるポテンシャルを十分に持っていると考えられます。


出典元:https://eiga.com/movie/91605/gallery/4/

ニューヨークか、ロサンゼルスか

アメリカの離婚劇なんであまり、という方も結婚生活に関して住む地域が重要というのは納得できると思います。
ニューヨークに住むか、ロサンゼルスに住むかという選択は、なんとなく東京と大阪の違いのように感じられました。当たり前かもしれませんが、アメリカにも地域によって地域性があります。出身地が住みやすいと感じるのはアメリカ人でも一緒なのでしょう。
また、ニコールはチャーリーと結婚する前は、ロサンゼルスのハリウッドで映画女優として活躍していました。チャーリーは劇団を運営している演出家で、目指すところはニューヨークのブロードウェイです。
同じ役者でも、舞台女優と映画女優は異なり、自分の目指すところに違和感が出てきた、というのは、他のことでも心当たりのある人も多いかもしれません。
そういった気持ちの微妙な変化にチャーリーは気づかずに、自分についてきてほしいと主張を曲げません。
ニューヨークで一緒に生活するのが、子供にとっても、ニコールにとっても最良の選択だと信じて疑いません。

夫婦には夫婦にしかわからない歴史があるが…

夫婦のことは夫婦にしかわからない、ということも多くあります。

しかし、離婚裁判になってしまうと自分の味方である弁護士が、自分に有利な話を法廷でさせようといろんなこじつけをすることがあります。
法的には問題なくても、それはちょっと無理やり過ぎじゃない?というものも出てきます。裁判に勝って、賠償を多く勝ち取り1セントでも多くの報酬を得るのが弁護士の仕事ですので、それは仕方がないのでしょう。
チャーリーも弁護士を探す中で出会った離婚専門の弁護士(アラン・アルダ)にも「離婚裁判だけはやめたほうがいい」と忠告を受けるにもかかわらず、自分の主張を飲ませたい一心で離婚裁判を始めてしまいます。
振り上げた拳は下せないとよく言われますが、チャーリーは冷静になって考えるべきだったのでしょう。

離婚裁判の最中、当人同士での話し合いは控えるよう言われてた際に、やっぱり二人で話し合おうと言って、話し合っている中で夫婦喧嘩に発展する10分程度のシーンがあります。このシーンを「映画史に残る名シーン」と評価する人もいました。私もそう思いました。
今までため込んでいたものが一気に溢れ出てしまう様子を、見事に強弱をつけながら演じています。
ただの夫婦喧嘩シーンがそこまで評価されるのは主演二人の演技力が、超人レベルに高いという証明でもあるでしょう。

出典元:https://eiga.com/movie/91605/gallery/5/

自分本位の「最良の選択」

チャーリーもニコールもそれぞれの一線で活躍する演出家、女優です。
仕事と家庭の兼ね合いを考えて、それぞれの「最良の選択」が結婚生活を邪魔します。
子供の存在もあるのですが、作中の最後まであまり重要視されません。
しかし、最後のシーンで子供の存在が大きくなります。
私もここで、泣かずにはいられませんでした。

結婚当初は結婚したことが「最良の選択」だったのに、時間がたつにつれて結婚したことが「最良の選択」ではなくなっていく過程はとても切なく感じます。
しかし、それはそれぞれの「最良の選択」に折り合いをつけて、「最良の選択」をアップデートしていくことで切り抜けることができるのでは、と感じます。

これは、最近よく言われている最適解を見つける、ということに似ていると思います。
日本の学校などでは、もともと正解のある問題を解かせて、正解か不正解の二者択一で回答させることが多いです。
高学歴といわれる人たちも、正解のある問いにはとても能力を発揮できるのに、最適解を見つけるということになると、驚くほどできないということは、こうした影響なのかなとも感じます。

結婚生活には正解はありません。あるのは「最良の選択」のみです。

映画中毒者からの一言

「上司がワンマンで困る」
「あの人は周りにイエスマンばかり集めて、どういうつもりだ?」

関白殿下。
昨日、奥方様からまったく同じ申し出をお受けして候。


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