各発達段階におけるトレーニングの在り方#11
前章ではLTADモデルの発達段階におけるトレーニングの在り方『STAGE2:Learning to Train(トレーニングすることを学ぶ)』について8項目に沿って解説をしてきました。本章では『STAGE3:Training to Train(トレーニングすることを訓練する)』について解説をしていきたいと思います。
STAGE3:Training to Train(トレーニングすることを訓練する)
まずは、LTADモデルにおける第三ステージである『Training to Train』について考えていきましょう。"Training to Train" とは日本語に訳すならば「トレーニングすることを訓練する」となります。このステージにおけるアスリートはトレーニングの在り方についてしっかりと理解した上で、トレーニングを確実に積み重ねていく必要があります。
このステージは他のステージと比較しても身体の発達度合いが著しい時期であるため、様々な面で大きな成長が期待できるステージでありながらも一方では、発達が加速するほどに障害が起こりやすくなるという傾向もあるので、このステージにおける学習環境には注意が必要です。コーチは、プレーヤーの日々の微妙な変化にも敏感に気づけるようにプレーヤーとコミュニケーションをとり、観察し続けることが肝要であると言えるでしょう。
それでは、次からは8つの項目に沿って第三ステージ『Training to Train』を深掘りしていきましょう。
Overall Goal(総合的ゴール)
第三ステージでは、身体発達の度合いが著しいことからも、身体能力を高めることが一つのゴールとしてまず提示されています。ただ、ここまで何度も述べてきた通り、身体発達のタイミングは決して一律ではないため、それぞれのプレーヤーの身体発達の状況をしっかり踏まえつつ、身体能力を高めるためのトレーニングプログラムをコーチは計画・実行していかなければなりません。
また、第二ステージでは、バレーボールの「スキルの導入」が強調されていましたが、このステージでは「スキルの向上」といったようにさらに踏み込んだ内容がもう一つのゴールとして設定されています。第二ステージはバレーボールに必要な全体的な技術を知り、まずはやってみるというフェーズでしたが、第三ステージではスキル向上をどのような方法で目指していくのかをコーチはよく考えて、トレーニングを計画していかなければなりません。そして、プレーヤーはまさに「訓練」を通じて、バレーボーラーとしてもう一段上のステージに向かって成長していくのです。
Chronological Ages(暦年齢)
日本の学齢で言うと、だいたい中学1年生から中学3年生の間の子どもたちが第三ステージに該当します。ここでも男女の発達段階の違いから暦年齢には違いがありますが、暦年齢はあくまでの目安と考えることが肝要です。また、当ステージは身体発達が急激に進むという特徴があります。そのため、コーチは個々のプレーヤーの筋骨格系の発達状況を定期的に計測し、観察していく必要があります。
Focus(焦点)
第二ステージでは、本格的にバレーボール競技に取り組み始める『スタート地点』という位置付けでしたが、第三ステージは、繰り返しにはなりますが身体発達が激しい一方で怪我が起こりやい時期であるため、どのステージでも同じではありますが、特にそれぞれのプレーヤーの発達段階や時期をしっかりと見極める(識別する)ことに焦点を当てる必要があるでしょう。
Skill Development(スキル発達)
第三ステージでは、バレーボールをプレーするために必要な基本的なスキルはある程度習得され、プレーの安定感や精度も高まってくる時期と言えます。しかし、すべてのプレー習熟度が一律に高まるというわけではなく、またプレッシャーのかかるような状況ではまだまだ不安定なプレーも存在している時期となります。コーチは、プレーヤーによってプレー習熟度にはばらつきがあり、技術向上が著しく進むタイミングにもばらつきがあるということをしっかり理解しておく必要があります。
苦手なプレーがあれば、そのプレーの習得に時間を費やさず、得意なプレーだけさせるといったアプローチは第三ステージでは起こりがちですが、このようなアプローチはプレーヤーの将来の選択肢を著しく損ねる行為であることをコーチは理解しておく必要があります。こうしたアプローチがチームの一時的な勝利に貢献することはあっても、そのプレーヤーの長期的な成長を願うのであれば、このアプローチは避けるべきです。
Goal(ゴール)
何度も繰り返しとはなりますが、身体発達の著しいステージであることからも、体力向上や運動能力の開発が目標とされています。また、第二ステージでの取り組みをベースにして、バレーボール競技におけるスキル向上を主たる活動に据え置きつつも、さらに精神面や認知面、感情面といった非認知的なスキルを向上させることも目標として設定されています。また、身体発達(筋骨格系の発達)を他のステージよりも高頻度で計測しながら、トレーニング内容などを組み立てていくこともコーチに求められる重要な仕事となります。
Discipline Integration(専門分野の統合)
インドアとビーチ、どちらでの試合経験も大切にすべきであるステージと言えるでしょう。いずれかの試合にしか出場できないという状況にならないように試合日程や時期をズラすことが大会運営側の配慮として大切だと言えます。当ステージでは、インドアかビーチかのいずれかに専門特化すべきではなく、それぞれの環境でのプレー経験は将来どちらの環境でプレーすることになるとしても、プレーヤーとしての可能性(特に創造性)を拡げることに寄与すると考えられています。
Periodization(期分け)
第三ステージでは年間通じて、試合の回数が増えてくることになるかと思います。ただ試合でのピークパフォーマンスのために、細やかな期分けを行っていこうとする考え方は第三ステージにはありません。あくまでもネーミングの通り『Training to Train(トレーニングすることを訓練する)』が重要視されているため、多くても二つの期分け(例:鍛錬期・試合期)で十分であるというのが当ステージの考え方となります。
Training to Competition Ratios(トレーニングと試合の比率)
第二ステージではトレーニングと試合の比率については半々が良いと言及されていましたが、第三ステージでは、トレーニングの割合が「70%」と提示されています。このステージのネーミングにある通り「訓練すること」が重要なステージであることからもその比率の意味が分かるかと思います。当ステージでは、次ステージ、さらにその先にあるステージに向け、プレーヤーがその土台となる競技スキルや非認知スキルなどを高めるために訓練することが大事です。ただ、「訓練」という言葉からは「管理的」「厳しい」といったイメージが連想されがちですが、やはりコーチはプレーヤーの「自律的」「楽しい」といった感覚を大切にしながらコーチングしていくことがとても大切だと思います。
(続く)
バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。