ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#89

佐佐木 政治 

ひとつの巨岩が 夜明けのうすい膜に包まれている
あなたの沈黙の思考の 時間の海に浸っている
過去と未来が結ぶ 渚のしぶきを浴びている
想像もつかない永い時間をかけて 消滅の一点へと 一枚いちまい皮をぬぎすてている

巨岩が成長過程か崩落過程か ぼくにはわからない
おそらく露出した地上のものたちが 消滅の未来を持つだろう
見えない時代を千切って どこか他の凹みを補っているのだ
巨岩にとって 未来とは 限りなく小さくなることだ

果実のように そのまま朽ち果てることはない
まわりの植物が 炎となってなびく 時間の風をひきつれながら
いつも その表面で 現在の会話を受け止めている

真二つに割られた 巨岩の断面は濡れて真新しい
遠い過去が封じ込められた筈の古い物語が
真新しいひかりとなって 飛び立つのだ


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。


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亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。