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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#102

佐佐木 政治

音楽や絵や書や詩も ついには固有の辺境へと拉致されるのだ
すべて芸術と呼べるものの雲は 死の空を通過する
死の空をたわむれながら 凍てつく岸辺に吹き寄せられる
たったひとつの自由な結晶を持つと同時に すべてからも見放されているのだ

冬空が かすむぼくらの自由を飲み込んで 頭上は遠い
ぼくらの存在そのものが じかにあなたの危機の上に座る
億万の可能性が たったひとつの死から羽ばたく
一本の枯れ枝は 絶えず無責任な蒼さの渕で行方不明だ

あなたはぼくらの誇りを 限りなく峰の雪に近づける
そのたびに ぼくらを安眠から引きずり出し 白日のもとに晒す
あなたの自由ではるかな場所が 凍った頭脳や腕を溶かしにやってくる

まだどんな可能性も 枝に並ぶ固い蕾のようだ
そしてぼくらの芸術は成就するだろう たえず新しさの風の中で
あなたのさし出す 能面のような死に晒されながら


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。


>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<

亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。