見出し画像

民主主義 vs 資本主義の勝者は?‐『W.シュトレーク、時間稼ぎの資本主義』

●現在、世界中の大部分で採用されている政治経済体制は『民主主義的資本主義』である。本来であれば、民主主義と資本主義は緊張関係にある。なぜなら、民主主義が優勢な環境では資本主義の資本家は少数であり、市民が大部分を占める。

このため、市民側が選んだ為政者により資本家の規制、資本の再配分を強制される恐れがあり、資本側にとって安心できない。一方、資本主義が優勢な環境では、資本家が利潤を最大化するために、あらゆるコストを削減する。このコストには環境を保全する費用、労働者(市民側)の賃金などがあり、資本がやりたい放題をされると市民側は不利益を被る。

戦後から1970年代までは先進国で民主主義と資本主義が両立した稀有な時代だった。なぜなら、経済成長が対立する両者の関係を取り持っていたからである。冷戦構造化の中で、資本主義が受け入れられなければ、速攻で赤化してしまう。そのため、西側諸国は資本主義を正当化するために、企業に対して様々な規制をかけて、さらに労働者への再配分を強制していた。この時代は復興期でもあり、先進国内の企業は高い利潤率が得られた。このため、企業は規制と再配分を受け入れていた。資本主義と民主主義が結婚をしていたのだ。

しかし、1970年代が大きな転換点となり、これを境に資本主義と民主主義の仲が悪くなっていく。

1970年代に起こった2度のオイルショックにより、原油価格が10倍以上になった。このため、先進国での交易条件が悪化した。それまでの先進国での商売は、発展途上国から資源を買いたたき、それに付加価値を付けて高く販売していた。原油は全ての生産設備を動かす電力の原料である。それが一気に10倍になったので、ビジネスの利潤率が低下した。企業にとってビジネスが美味しくなくなった。

このような状況では企業はビジネスをやめたくなる。しかし、企業がビジネスをやめると、大量の失業者がでてしまう。大量の失業者が出ると、政府は権力を失い、最悪社会不安が起こってしまう。しかも、1970年代以降に高齢化が起こり、保険や社会保障費が多くなった。それ以外にも政府サービスを手厚くしたために、政府支出が増大していた。しかし、歳入は増えない。

このため、1980年代以降は政府サービスの削減、企業側の権力拡大が起こっていく。それでも政府は税金で歳出を賄えなかったので、政府はサラ金に走るようになる。1980年代以降は政府債務が右肩上がりで増えていくのだった。このような状況では政府は企業の機嫌を損ねることができないので、規制も再分配も要求できない。企業によるコストカットのための賃金削減、リストラ、社会保険の削減などなど、労働者も失業しないため、左記のコストカットを受け入れた。このため、資本家側と市民側が対立するようになり、民主主義と資本主義の仲がゆっくりと、しかし確実に悪くなっていった。


2000年代以降は『新自由主義』の名のもとに民主主義と資本主義の不仲が加速した。政府債務が減らない状態では国内に何とか資金を呼び込むしかない。1971年の金兌換をやめたため、資本は物理的な束縛から解き放たれた。このため、資本は国境間を自由に移動できるし、いくらでも複製可能となった。ここに目を付けたのが国際的な投資銀行である。国際投資銀行は資本の塊であり、国境を自由に移動できるためモラルが薄い。国を焦土としながら、自己増殖していく。政府は国際資本にへつらい、国民は国際資本に踏みつぶされた。

国際資本の横暴は止まらない、1995年以降に国境間の資本移動が本格化し、アメリカのウォール街に世界中のマネーが集まるようになった。金融工学による債券化を通じて、集められたマネーが再構築される。債券化により焦げ付き確定のリスク資産が優良資産と混ぜ合わされた団子となり、ばらまかれる。しかも、信用取引により、実体を持つ資本の数百倍以上のマネーが取引された。このような、壮大な粉飾システムが2008年の金融危機により、政府、国民を巻き込み、爆発した。


私たちは上記の流れの中で最終地点、民主主義と資本主義の破綻の現場にいます。この先も資本主義は続くのでしょうが、民主主義はその構造的な欠陥により、ここが終着点であるとシュトレークは主張しています。

シュトレークの主張に沿えば、民主主義と資本主義が分裂した根本的な原因として、歳出を歳入が恒常的に超えているからになります。このため、生活の質を落として歳出を減らすか、税金を増やして歳入を増やすか、あるいは別の政治経済体制を採用するか。

これらの3つの選択肢のどれがいいと思いますか?
もしよければ、あなたの意見をこちらにコメントをしてみてください。あるいは他の選択肢があれば、そちらも共有してくださいね。

今回はW.シュトレークの『時間稼ぎの資本主義』の概要をお伝えしました。
次回以降には内容を深堀していきますので、そちらも楽しみにしていてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?