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「ファントム・インク」の感想

 以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。



前提

  • 6人プレイのみ。

  • 英語版をプレイしたため、日本語版は詳細が異なる可能性がある。



感想

文字を通してのワードゲーム

 2チームで対戦を行い、相手チームよりも先にお題のワードを当てられれば勝利だ。(お題は両チームで共通のものである)

 まず、各チームで1人が霊の役となり、残りが霊媒師役となる。

 霊の側はお題となるワードを見ることができ、それを自身のチームへと伝えることを目的とする。ただし、霊のプレイヤーはしゃべることなどができず、目の前にある紙に文字を書くことでしか、霊媒師側とコミュニケーションが取れない。

 各ターンでは、霊媒師側は自身たちが持っている手札から、カードを2枚渡す。これらのカードには質問が書かれており、たとえば、『それが壊れた時の音は?』『それをギリシア・ローマ神話の神に例えると?』『それが保管されている場所は?』というように文字で答えるための問いが、かなり広いバリエーションで用意されている。

 霊側は、その2枚のうちから、1枚を選び、選んだカードを霊媒師側に渡し、残りを公開する(つまり、相手チームも非選択側は確認できる)。

 そして、霊側は、それの答えを1文字ずつ(自身がプレイした時はひらがな1文字ずつ、英語版はアルファベット1文字ずつ)書いていく。そして、霊媒師側は、それをどのタイミングでもストップできる。(書き終わった場合には、ピリオドを打つことで、それが完了したことを示す)

 加えて、特定のターン(ヒントを記載する紙にアイコンが書かれている)では、今までの相手のヒントのうち、1つを選択し、その続きを1文字追加させることができる。

 これらのやり取りを各チームで交互に行っていく。


 また、霊媒師側は、霊にカードを渡すのではなく、お題を当てることを選んでもよく、その場合は、霊媒師側が1文字ずつ、お題と思われる単語を書いていく。霊側は、それがお題と異なった文字になった時点で、それが誤っていることを伝え、解答がストップする。

 お題の単語を書き終え、ピリオドを打っても霊側が止めることがなければ、それはお題の単語である証左であるから、そのチームが勝利する。



ヒントの出し方と制約の面白さ

 似たような構造のゲームはいくつか存在する。答えを知っている側と知らない側が存在し、チーム戦となっているようなゲームだ。

 文字でヒントを与えることができるゲームでは、その自由度が問題になることが多く、答えそのもののようなヒントを抑制する必要がある。

 本作のような構造の場合、基本的には、ヒントは相手チームにも公開される、ということが制限となっていることが多い。相手の方が先に解答権がある以上、答えそのものであれば、相手が先に勝利してしまうからだ。

 よって、その制限や、それらの情報をどう統制するのか、というのが、このタイプのゲームの肝となるのだが、本作の『カードを2枚出して、非選択側は公開する』『答えを1文字ずつ書いていき、途中で止められる』というのは、非常によくできていると感じている。


 まず、カードを2枚出すという行為に、様々な情報を込められるのが面白い。もちろん、これはデッキからランダムに引いた6枚から選ぶ必要があるので、万能というわけにはいかないのだが、色々なやり方がある。

 たとえば、有用そうな1枚と使えなさそうな1枚を渡して、自分たちの知りたい情報が得られるようにしてもよいし、個性的な1枚と汎用的な1枚を渡して、霊側の出方を見る、というやり方もできる。

 これの意外な選択によって、意味合いを伝えることができ、少ないやり取りでも解答まで辿り着くことができるようになっている。

 また、非選択側が公開される、というのも絶妙で、相手チームは相手チームで考えることがあるし、しかし、その選択における意味までをくみ取ることはできない、という形になっている。


 次に、ヒントの出し方も1文字ずつ、という段階を踏んでいて、出される方に止める権利があるために理不尽な感覚がない。まずいと思ったら、霊媒師側が止められるので、このようなゲームにありがちな、霊側がヒントの出し過ぎてしまい(相手側が解答することで)ゲームが壊れてしまう、ということも比較的起こりにくく、霊側の責任もある程度緩和されている。

 霊側も単に回答するだけではなく、どこで止めるのかを見るというような楽しみがあるし、1文字ずつという特性を考慮に入れつつ、回答を考えることができるので、やりがいがある。



各言語における特徴によるゲーム性の変化

 言語に焦点を当てたゲームの常として、使用する言語に影響を受けるのだが(一時期流行った「wordle」のようなゲームを考えれば、それは明確であるはずだ)、本作は特に影響が大きいと考えらえる。英語(アルファベット)と日本語(ひらがな)の言語的な特徴の差において、どのようなことがあり得るのか考えてみたい。


 まず、単純に文字の種類数の違いがある。アルファベットはひらがなに比べて少なく、一般的な単語に使用される文字・その順序はさらに制限される。ひらがなは、単純に多いし、促音や拗音といった補助的な文字もある。1文字によって推測できる範囲が異なる。(もちろん、文字によって差はあるが、一般的には文字の種類が多い方が推測しやすいはずだ)

 また、1文字の単語に対する影響の大きさも異なる。英語は、一般的に子音・母音・子音の組み合わせで1音節を形成するが、日本語は子音・母音の組み合わせである。そして、基本的に、アルファベットは、その子音や母音の一部しか表現しないこともあるのに対し、ひらがなは、子音・母音の組み合わせを1文字で表現することになる。要は音素文字と音節文字の違いだ。

 結果として、ひらがなの方が1文字の影響が大きいと感じられる。

 たとえば、『game / ゲーム』という単語を伝えたいとしても、『g』よりも『げ』の方が情報量が多い、というのはわかりやすいと思う。

 1文字ずつ、という出力の区切りがある以上、情報量はデジタル量的に増えていき、ひらがなの方が1文字の上昇量が大きいと考えられる。つまり、次の文字も公開するか否か、という選択の影響が強い、ということであり、それが英語版よりもゲームをよりスリリングにしている、と感じられた。


 また、これが実際に影響するかどうかわからないが、日本語の方が同音異義語が多い、ということもある。もちろん、英語にも同音異義語はそれなりにあるが、スペルが異なることが多いから、アルファベットを通した場合には、それらは区別できる。ひらがなではそうはいかない。意図的に利用するようなことは難しいとは思うが、そういった差も存在する。

 ゲームルールはほとんど同一である一方で、使用する言語を切り替えることでゲームの特性が変わる点が、ワードゲームの興味深い点の1つであると筆者は考えている。その影響を感じやすい点も、筆者が本作を気に入っている一因である。


 仮に英語に情報量を近づけるとするのであれば、まず、ローマ字で記載する、つまり、アルファベットの表示は継続する、という方法が考えられる。しかし、その場合には、訓令式を使うのか、ヘボン式を使うのか(まあ、前者が使われることはますます減っていくだろうが)という問題があるし、表記も一意にしにくく、問題が生じる。また、推奨年齢をむやみに上げる要因となってしまう可能性もある。

 他にも、1画ずつ書いていく、などの方法もあるだろうが、書き順やら、それが位置する場所の明確化やら、様々な問題点が考えられるだろう。

 結局のところ、言語による差によって、ゲームが崩壊するようなことはなく、度合いの差が生じているだけなので、ひらがなにするのが良いだろう。



ヒントか、解答か、という構造

 ヒントを得るか、解答をするか、というメカニクスはこのようなゲームでよく使用されており、実際、優れた性質を持つ。今後も使用されるだろう。

 だが、たびたび困ったようにも思うことがある。

 それは、『解答が2~3択に絞れているが、確定はできない。しかし、ヒントを得ると相手に解答される』という状況が発生しやすいことである。

 この時、最適な選択は、絞れている解答から1つをランダム的に選択し、それが当たるかを試す、ということになってしまう。(もちろん、それまでのやり取りはあるが)これだけを見ればただのランダム性だと感じられてしまうし、ただ、自身と相手のどちらが先に当たるか、というロシアンルーレットが始まってしまうのは、ゲーム的に楽しくないようにも思う(少なくとも筆者にとっては)。それでも、ヒントを得ると、相手が解答できる可能性が高い場合には、期待値的にこうなってしまう。

 ただ、本作は、解答自体も、部分的に公開されるルールだ。

 つまり、もし、誤答した場合でも、それがなるべくヒントにならない解答を選ぶ、というような考えどころが生まれる可能性があり、単なるランダム性よりも、少しだけ意味がある選択ができる、と感じ得る。この点が嬉しく感じられた。

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